◇SH1908◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(79)―企業グループのコンプライアンス⑫ 岩倉秀雄(2018/06/15)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(79)

―企業グループのコンプライアンス⑫―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、企業グループのコンプライアンス・アンケートの留意点について述べた。

 コンプライアンス・アンケートは、無記名で行い、その末尾に自由記入欄を設け、密封して現場のコンプライアンス実行組織ごとにまとめ、結果をフィードバックし、必要により改善を求める。また、アンケート結果の経年変化を追うだけではなく、問題が発見されたら、問題発生現場の長と密接に連携し、直ちに問題解決に動くことが重要である。

 また、そのデータは内部監査部門や監査役と共有し、内部監査や監査役監査時の確認・検証にも活用するべきである。

 今回から、複数回にわたり、企業グループの従業員相談窓口の在り方について考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス⑫:企業グループの従業員相談窓口①】

 2006年4月1日の公益通報者保護法の施行以来、既に多くの企業が従業員相談窓口を設定している。

 従業員相談窓口は、コンプライアンスの浸透・定着をミッションとしているコンプライアンス部門にとって、コンプライアンス・アンケートと並んで非常に有効で重要なツールであるが、従業員相談窓口への通報があったにもかかわらず、通報への対応を誤り不祥事の発生を未然に防ぐことができず後に問題となったケースや、通報者とトラブルになり通報者から訴えられた例もあり、組織にとってもコンプライアンス部門にとっても、この制度は最も対応に気を使うシステムである。

 消費庁は、2016年12月9日、従業員相談窓口の運用ガイドライン(「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」)を公表し、事業者のコンプライアンス経営への取組みを強化しようとしている。[1]

 公益通報者保護法は、公益に関わるコンプライアンス上の問題を、従業員相談窓口へ通報するように促し、組織の自浄作用を早期に働かせて、国民生活の安全と社会経済の健全な発展に資することを狙いとしているが、相談者の要求と組織(コンプライアンス部門の窓口対応者等)の対応にミスマッチが生ずると、いくつかの条件はあるものの組織外部へ通報したことを理由とする解雇は無効になる(法第3条、解雇無効)ので、コンプライアンス部門の窓口対応者は慎重に対応しなければならない。

 筆者の経験では、企業グループの従業員相談窓口の設定と運用で特に注意しなければならないのは、誰を対象に、どこに設置し、誰が相談を受け、受けた相談にどう対応するのか、また、相談内容の事実関係をどう確認し報告体制をどうするか等である。

 今回から複数回にわたり、親会社だけではなく企業グループ全体として従業員相談体制をどうするべきかについて実践を踏まえて考察する。

7. 企業グループの従業員相談窓口

(1) 従業員相談窓口の設置場所

 従業員相談窓口は、親会社、子会社の両方に設置するべきである。

 なぜならば、自社で発生したコンプライアンスに関する問題は、まず、自社の努力で解決するという経営としての主体性を示すことにより従業員の信頼の確保につながるとともに、自社の問題を自社の通報窓口で受けることにより自社のリスクを把握し迅速に対応できるからである。

 企業によっては、子会社の経営者がコンプライアンス違反を隠ぺいすることを避けるために、親会社にのみ従業員相談窓口を設置し、子会社に設置させないという考え方を取る企業もある[2]が、その場合には、親会社の従業員相談窓口へも子会社の従業員から通報ができるようにするとともに、親会社、子会社共通のプラットフォームとして、会社に利害関係のない弁護士事務所や相談を専門に受ける外部の企業に従業員相談窓口を設置することにより対応が可能である。

 すなわち、親会社、子会社、第三者の専門窓口の3種類を設けることで、隠ぺいリスクを回避し、相談者の信頼を得て、経営が当事者意識を持って迅速に対応することが可能となるのでる。

 その際、子会社や外部相談窓口は、相談件数や相談内容・対応内容について親会社のコンプライアンス部門に定期的に報告し、相談内容が緊急性・専門性・重要性が高い場合には、直ちに親会社のコンプライアンス部署に報告し、親会社と子会社が連携して対応する必要がある。

 

次回は、相談体制の設定と運営方法について考察する。



[1] 主な改正点は次の4点。(東京弁護士会、公益通報者保護特別委員会より)

  1. ① 通報者の視点から、通報者の匿名性の確保等及び通報者に対する不利益な取扱いの禁止を徹底するとともに、自主的な通報者に対する懲戒処分等の減免措置(社内リニエンシー)を明記する。
  2. ② 経営者の視点から、経営幹部が果たすべき役割を明確化し、経営幹部からも独立性を有する通報ルートの整備及び内部通報制度の継続的な評価・改善について明記する。
  3. ③ 中小事業者の視点から、各事業者の規模や業種等の実情に応じた適切な取組を促進する旨を明記する。
  4. ④ 国民・消費者の視点から、法令違反等に対する社内調査・是正措置の実効性の向上について明記する。

[2] 筆者は、親会社に続いて発生した子会社の不祥事により解体的出直しを強いられた企業と合弁会社を設立する際、従業員相談窓口を子会社に設置するか否かで、意見が対立した経験がある。
 企業の実情により親会社と第三者の窓口にのみ相談窓口を設定する方法も考えられるが、それは緊急時の対応であり、基本的には、子会社にも相談窓口を設定し当事者意識を持たせるべきであると考える。

 

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