経産省、CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)(第2期)
中間整理の取りまとめ
岩田合同法律事務所
弁護士 大 櫛 健 一
経産省は、平成30年5月18日、コーポレート・ガバナンス・システム研究会(第2期)[1]中間整理(以下「本中間整理」という。)を取りまとめて公表した。経産省は、平成29年3月31日に、各企業がコーポレートガバナンスへの取組みを検討するに際し有益とされる事項が盛り込まれたコーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(以下「CGSガイドライン」という。)を策定して公表しており[2]、本中間整理は、企業によるコーポレートガバナンスへの取組みを形式から実質へとより深化させる観点から、CGSガイドラインの見直しを含めて今後の方向性について取りまとめたものである(主な内容は下表のとおり)。
経産省HP[3]より
本中間整理で論点とされている事項は多岐にわたるものの、本稿では各企業が取組みに苦心していることが見て取れる「社長・CEOの指名、後継者計画」について紹介したい。
我が国の上場企業におけるコーポレートガバナンスへの取組みとして、取締役会が、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者等の後継者計画について適切に監督を行うことが原則として求められている(コーポレートガバナンス・コード(「CGコード」)補充原則4‐1③)。また、この点については、前掲表のとおり、現行のCGSガイドラインにおいても指名委員会を利用するなどした適切な後継者計画の検討が明記されている。そして、東証が行ったCGコードの遵守状況に係る調査(平成29年7月14日時点のもの)によると、上記補充原則は86.61%の企業が「コンプライ」しているとされていた。
しかしながら、本中間整理にあたり、経産省が東証1部及び同2部上場企業を対象として平成29年12月から本年1月にかけて行ったアンケートの調査結果(以下「CGS研究会企業アンケート調査結果」という。)によれば、約51%の企業が、社長・CEOの後継者計画の監督について、取締役会での議論が不足していると考えているとのことである。
また、社長・CEOの後継者計画が「何らかの文書」として存在していると回答した企業は約11%に留まったとされ、「何らかの文書」が存在しているという企業においても、半数以上の企業においては、社長・CEO以外の取締役にはその内容が共有されておらず、指名委員会等(法定・任意)の委員に共有されていない企業も約40%あったなどとされる。
以上のようなCGS研究会企業アンケート調査結果から、本中間報告では、取締役会や指名委員会による後継者計画の監督の実効性が確保されていない可能性がうかがわれ、①日本企業において、社長・CEOの後継者の指名は現職の社長・CEOや会長等の専権事項であるという意識が依然として強いことを示唆しているという指摘や、②後継者計画に対する監督について、CGコードに「コンプライ」しているとしながら、その精神と相容れない実態が存在するとすれば、望ましいことではないなどといった指摘がなされている。
その上で、本中間整理は、社長・CEO指名のあり方のほか、後継者計画の策定の目的やその内容について、必ずしも取締役会や指名委員会等において共通認識が形成されていない実態や、CGコードの改訂案において取締役会が後継者計画の策定・運用に主体的に関与すること等が原則とされていること等を踏まえ、CGSガイドラインにおいて、社長・CEOの指名・再任・解任プロセスの客観性・透明性の確保や後継者計画の実効性確保に関するベストプラクティスを示す必要性が高いと結論付けている。
我が国においては、中小企業における円滑な事業承継とその前提となる後継者育成が社会問題となって久しいところ、本中間整理によれば、これらの課題は必ずしも中小企業のみが抱えている問題ではないことが見て取れるとともに、また、CGコードにおける「コンプライ」とは何かをあらためて考えさせられるところでもある。大企業・中小企業の別なく、企業が持続的に発展していくためには、社長・CEOの世代交代が適切に行われることは不可欠であり、今夏が目途とされるCGSガイドラインの改訂動向が注目される。
以上
[1] 立上げの経緯については、「◇SH1557◇経産省、「コーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会」(第2期)を開催 冨田雄介(2017/12/20)」を参照されたい。
[2] その概要については、「◇SH1104◇経産省、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針を策定(平成29年3月31日) 唐澤 新(2017/04/11)」を参照されたい。