◇SH1921◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(81)―企業グループのコンプライアンス⑭ 岩倉秀雄(2018/06/22)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(81)

―企業グループのコンプライアンス⑭―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、企業グループの従業員相談窓口体制の設定と運営上の留意点について、経験を踏まえて述べた。

 従業員相談窓口は、従業員からの信頼を基本とすることから、規定に「秘密保持」と「不利益扱いの禁止」、特別の事情がない限り従業員は調査に協力することを謳う必要がある。

 制度を周知徹底するためには、文書による通知、研修、イントラネットやメルマガの活用、朝礼や会議での説明、規定化、コンプライアンス・アンケートでのチェック、内部監査・監査役監査における確認・検証等の実施が考えられる。

 従業員相談窓口の対応は、コンプライアンス部門の管理職や部門長が、コンプライアンス担当役員と相談しつつ進め、相談内容の裏付け調査を必ず実施するとともに、調査の進捗具合は、相談者に頻繁にフィードバックするべきである。

 親会社のコンプライアンス部門は、子会社の当該部門から定期的に報告を受け、問題の重要性、専門性、緊急性等に鑑み、必要により迅速かつ積極的に子会社と連携して子会社の問題解決を支援する必要がある。

 今回は、相談受付の範囲企業グループのコンプライアンス監査について考察する。

 

【企業グループのコンプライアンス⑭:相談受付の範囲と企業グループのコンプライアンス監査】

7. 企業グループの従業員相談窓口

(3) 相談受付の範囲

 相談の受け付範囲は、できるだけ広範囲の方がリスクを削減する上で望ましい。

 例えば、親会社・子会社の役員、従業員、パート、派遣、嘱託、臨時等、当該職場で働く全ての人々や、必要により取引先からの通報を受け付ける体制が必要である。

 なぜなら、従業員相談窓口設置の趣旨は、組織自身がリスクを早期に把握し重大化する前に対応することにより、(組織の自浄作用を働かせて)リスクを削減することにあるからである。

 コンプライアンス部門の処理能力の問題もあるが、業種・業態に応じたリスクを想定し、できるだけ広範囲から通報を受けるように設計することが重要である。

 その意味で、通報を受ける範囲も公益通報者保護法が定める法律違反に限定せず、セクハラ、パワハラ、社内規定違反、行動規範違反等、企業グループにとってリスクになりそうな問題を広く受け付ける必要がある。

 重要なことは、リスクが危機に発展する前に、情報がコンプライアンス部門にスムーズに集約されるようにすることだが、そのためには、日頃から、現場とコンプライアンス部門のコミュニケーションを密にするとともに、問題が発生した場合には直ちに対応して現場(従業員等)の信頼を得ることである。[1]

 

8. 企業グループのコンプライアンス監査

 内部監査部門は、企業グループ全体のコンプライアンスリスクを削減するために、親会社・子会社における内部監査時に、コンプライアンスの遵守状況を確認・検証する必要がある。

 その際、既述したように、コンプライアンス・アンケートの結果や(秘密保持を前提に)従業員相談窓口に通報されたリスクをあらかじめインプットしておく必要がある。

 内部監査部門とコンプライアンス部門の関係は、部門が分かれている場合やコンプライアンス部門が内部監査業務を兼務している場合等、組織によって異なるが、本稿では別々になっていることを想定して論を進める。

 内部監査部門は、コンプライアンス部門と現場を監査して、企業グループとして設定したコンプライアンスプログラムの実施状況や有効性・効率性を確認・検証し、コンプライアンス部門は、自ら設定・実施したコンプライアンス施策の有効性・効率性をCSA(コントロールセルフアセスメント)により自身で確認・検証する。

 我が国の大企業では、既にコンプライアンスに対して一定の取組みが行われ、その重要性の認識や制度が一定程度組織内に浸透しているが、企業グループ全体としては、必ずしもそうなっていない。このことは、最近発生した(品質関連)不祥事等が、子会社を中心に発生していることからも明らかである。

 したがって、親会社のコンプライアンス部門は、子会社のコンプライアンスの浸透・定着状況をアンケートによるだけではなく、子会社に出向いて実態を自ら確認・検証・把握し、企業グループのコンプライアンスが一定レベル以上に浸透・定着したと確信が持てるまで、個別・重点的に対策を講ずる必要がある。

 また、コンプライアンス部門は、子会社と本音のコミュニケーションを確立し、子会社のコンプライアンス違反の隠蔽を防ぎ潜在的リスクの早期発見に注力する必要がある。

 ただし、一定レベルに達した場合には、効率性の観点から、コンプライアンス部門と連携した内部監査部門が、コンプライアンス監査を実施することが考えられる。

 なお、企業によっては、親会社の関連事業担当部署が、子会社の監査を実施している場合があるが、その場合には、経営実績を中心とした監査になりやすいので、コンプライアンス監査については、コンプライアンス部門と連携して実施する等の方法が考えられる。

 

 次回は、対境担当者の役割や情報開示について考察する。



[1] 筆者は、通報があったにもかかわらず、通報された現場の長に遠慮して、コンプライアンス部門が迅速に対応しなかったために、通報者や(その姿勢が他の問題処理にも反映されたため)従業員全体の信頼を失ったケースを知っている。コンプライアンス部門は厳正・迅速な対応が必要である。

 

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