公取委、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の一部改正
岩田合同法律事務所
弁護士 浜 崎 祐 紀
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、我が国の流通・取引慣行について、どのような行為が、公正かつ自由な競争を妨げ、独占禁止法(以下「独禁法」という。)に違反するのかを具体的にし、事業者等の独禁法違反行為の未然防止とその適切な活動の展開に役立てることを目的として、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「本指針」という。)を公表している。
公取委は、今般、本指針における、一部の非価格制限行為[1]等について一定の基準や要件を満たす場合に違法とならず規制の対象外とされる範囲(以下「セーフ・ハーバー」という。)に関する基準等について、平成27年6月30日の閣議決定を踏まえ、改正(以下「本改正」という。)を行った。本改正の内容は以下のとおりである。
公取委は、本指針において(1)事業者間の取引において、市場における有力な事業者が、①取引業者に対する自己の競争者との取引を制限すること、②取引業者に対して自己の商品を購入することを条件に付すなどの不当な相互取引を行うこと、③有利な価格設定を行った場合に競争者と取引を行わないことの約束をさせるなど継続的な取引関係を背景とする競争阻害行為をすること、又は④取引業者の株式所有を手段等とする排他的行為を行うことにより、一定の競争制限的な効果が生じさせるおそれがある場合や(2)流通分野において、市場における有力なメーカーが、卸売業者や小売業者等の流通業者に対して、①競争品の取扱いを制限すること、②厳格な地域制限を行うこと、又は③占有率リベート(自社商品の取引の割合等に応じて供与するリベート)を供与することにより、一定の競争制限的な効果が生じさせるおそれがある場合、違法となるとの解釈を示している。
そして、本改正においては、上記の市場における有力な事業者及び市場における有力なメーカーへの該当性の目安について、改正前の市場シェアの10%以上又は上位3位という基準から市場シェアの20%超という基準への変更が行われた。これを裏返しに見た場合、基本的に独禁法違反とならない範囲(セーフ・ハーバー)の目安が、「市場シェアの10%未満かつ上位4位以下」とされていたものから「市場シェアの20%以下」に拡大されたことを意味する。
本改正の背景には、セーフ・ハーバーが適用されるための要件として「市場シェアの10%未満かつ上位4位以下」とされていた点について、事業者にとって適用範囲が狭く予見可能性に貢献していないため、拡大すべきとの意見があったことが指摘されている[2]。
公取委「流通・取引慣行ガイドラインの一部改正のポイント」より抜粋
市場シェア20%を一つの目安としたことについては、公取委より、非価格制限行為を独禁法違反とした過去の審判決例の中に、行為者の市場シェアが30%を下回るものについて違法性を認定したものがあることや、②不公正な取引方法の観点も含めた独禁法上の考え方を示す知的財産ガイドラインが競争減殺効果が軽微な場合として、市場シェア20%との水準を設定していること等を踏まえてのこととの考え方が示されている[3]。
本改正により、例えば、市場シェア第1位の事業者であっても、市場シェアが20%以下であれば、通常、独禁法違反とはならないこととなる等、セーフ・ハーバーの対象となる事業者の範囲が拡大されることになるため、事業者の置かれている状況に応じて、有利な影響を受ける事業者と不利な影響を受ける事業者に明暗が分かれることになる。
以 上
[1] 非価格制限行為とは、例えば、メーカーが流通業者に対し、取扱商品、販売地域、取引先等の制限を行う行為をいう。
[2] 「『流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針』の一部改正(案)に対する意見の概要及びそれに対する考え方」のNo.33等
[3] 「『流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針』の一部改正(案)に対する意見の概要及びそれに対する考え方」のNo.3乃至No.10