◇SH4097◇最三小判 令和4年3月22日 不動産取得税賦課処分取消請求事件(戸倉三郎裁判長)

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 複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物の分割により不動産を取得した場合における地方税法73条の7第2号の3括弧書きに規定する「当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分」の有無及び額の判断の方法

 複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物の分割により不動産を取得した場合における地方税法73条の7第2号の3括弧書きに規定する「当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分」の有無及び額については、分割の対象とされた個々の不動産ごとに、分割前の持分の割合に相当する価格と分割後に所有することとなった不動産の価格とを比較して判断すべきである。

 地方税法73条の2第1項、73条の7第2号の3

 令和3年(行ヒ)第62号 最高裁令和4年3月22日第三小法廷判決

 賦課処分取消請求事件(裁判所ウェブサイト掲載)棄却

 原 審:令和2年(行コ)第47号 東京高裁令和2年10月22日判決

 第1審:平成31年(行ウ)第230号 東京地裁令和2年1月23日判決

1 事案の概要

 Xは、他の共有者と複数の不動産を共有していたところ、これらを一括して分割の対象とする共有物の分割により、そのうちの一部の不動産につき、他の共有者の持分を取得して、これらを単独所有することとなった。本件は、上記の持分の取得(以下「本件各取得」という。)に対し不動産取得税の賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)を受けたXが、Yを相手に、本件各処分の取消しを求める事案である。

 地方税法73条の2第1項は、不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産の取得者に課する旨を規定し、同法73条の7第2号の3(以下「本件規定」という。)は、共有物の分割による不動産の取得に対しては、その括弧書きに規定する「当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分」(以下「持分超過部分」という。)の取得を除き、同税を課することができない旨を規定しているところ、Xは、本件各取得に対しては、本件規定により不動産取得税を課することができない旨を主張した。

2 裁判所の判断

 原審(東京高判令2・10・22(公刊物未登載))は、本件規定にいう「共有物の分割」とは、土地については1筆の土地を対象とする共有物の分割をいい、数筆の土地を一括して分割の対象とする共有物の分割はこれに該当しないなどと説示して本件各処分を適法とし、Xの請求を棄却すべきとした。

 本判決は、複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物の分割(以下「一括分割」という。)により不動産を取得した場合における持分超過部分の有無及び額については、分割の対象とされた個々の不動産ごとに、分割前の持分の割合に相当する価格と分割後に所有することとなった不動産の価格とを比較して判断すべきであるとした上で、このような判断方法によれば、本件各取得の全部が持分超過部分の取得に当たることが明らかであるから、本件各取得に対しては本件規定により不動産取得税を課することができないとはいえないとして、本件上告を棄却した。

3 説明

 ⑴ 本件規定は、それまで通達によって講じてきた非課税措置を地方税法上明らかにする趣旨で、平成13年法律第8号による地方税法の改正により新設されたものであり(地方財務協会編『改正地方税制詳解 平成13年』(地方財務協会、2001)193~194頁〔石橋茂ほか〕)、共有物の分割による不動産の取得について、地方税法73条の2第1項にいう「不動産の取得」に該当し、本来は不動産取得税の課税の対象となる(最三小判昭53・4・11民集32巻3号583頁参照)ことを前提に、その例外として、持分超過部分の取得を除いては非課税とする旨を定めたものと解される。

 そして、持分超過部分の有無及び額については、不動産取得税の課税標準となるべき価格(地方税法73条の13第1項)を基準にすべきものと解されている(最一小判令2・3・19民集74巻3号227頁参照)。

 ⑵ 本件において、Xは、一括分割により不動産の持分を取得したものであることから、このような場合における持分超過部分の有無及び額の判断の方法が問題となる。

 この点については、本件規定の文言からは必ずしも明らかでなく、①分割の対象とされた個々の不動産ごとに、分割前の持分の割合に相当する価格と分割後に所有することとなった不動産の価格とを比較して判断するという考え方(以下「個別説」という。)と、②分割の対象とされた不動産全部について、分割前の持分の割合に相当する価格の合計と分割後に所有することとなった不動産の価格の合計とを比較して判断するという考え方(以下「全体説」という。)とがあり得る(小林伸幸「共有物の分割に係る不動産取得税の非課税要件」・税法学583号(2020)111頁参照)。そして、全体説の方が個別説よりも広く非課税を認めることとなるところ、近時の下級審裁判例の中には全体説を採用するもの(東京地判平28・11・30判タ1441号100頁)もある一方、行政実務においては個別説が採られていると考えられる(平成22年4月1日各都道府県知事あて総務大臣通知「地方税法の施行に関する取扱いについて」第5章第1の5の2参照)。

 ⑶(ア)全体説は、本件規定にいう「共有物の分割」は民法の「共有物の分割」と同義であると解されるところ、民法において、1個の不動産を分割の対象とする共有物分割(個別分割)の場合と一括分割の場合とで異なる規律が予定されているわけではなく、両者を統一的に解釈するのが素直であること等を重視する考え方であるといえよう。しかし、本件規定が、上記のような趣旨に基づき、例外的に非課税とする場合を定めた地方税法の規定であること等からすると、本件規定の「共有物の分割」が民法の「共有物の分割」と同義であるとしても、そのことから直ちに全体説が導かれるものではなく、不動産取得税の課税の仕組みや本件規定の文言との整合性も考慮すべきものと考えられる。

 (イ)不動産取得税の課税標準となるべき価格については、固定資産税の課税標準となるべき価格と同様の方法により決定するものとされ、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、原則として、当該価格により不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するとされている(同法73条の21第1項)。そして、固定資産課税台帳は、原則として、登記簿に登記されている土地又は家屋について、その価格等所定の事項を登録するものである(同法341条10号、12号)ところ、土地は1筆の土地ごとに、建物は1個の建物ごとに登記されている(不動産登記法2条5号参照)。また、不動産取得税の免税点について定める地方税法73条の15の2第1項は、同税の課税標準となるべき額が同項所定の額に満たない場合においては、同税を課することができない旨を規定するところ、同条2項は、土地を取得した者が当該土地を取得した日から1年以内に当該土地に隣接する土地を取得した場合又は家屋を取得した者が当該家屋を取得した日から1年以内に当該家屋と1構となるべき家屋を取得した場合においては、それぞれの前後の取得に係る土地又は家屋の取得をもって一の土地の取得又は1戸の家屋の取得とみなして、同条1項の規定を適用する旨を特に規定している。以上のような不動産取得税に関する地方税法の規定の内容等に照らせば、同税は、個々の不動産の取得ごとに課されるものであるということができる。

 また、民法その他の法令において、「持分」ないし「持分の割合」とは、通常、個々の共有物ごとの持分の割合を意味し、複数の共有物全体における持分の割合を意味するとは解されないことからすると、本件規定の括弧書き中の「分割前の当該共有物に係る持分の割合」とは、取得された不動産に対応する分割前の1個の共有物に係る持分の割合をいうと解するのが自然である。

 そうすると、持分超過部分の有無及び額については、一括分割の場合であっても、共有物の分割の対象とされた1個の不動産ごとに判断すべきものと解するのが、不動産取得税の課税の仕組みと整合的というべきであり、かつ、本件規定の括弧書きの上記文言にも沿う解釈であるということができる。

 (ウ)本判決は、以上のような理由により、一括分割の場合の持分超過部分の有無及び額の判断の方法について個別説を採用したものと考えられる。

 なお、前記のとおり、原審は、本件規定にいう「共有物の分割」とは、土地については1筆の土地を対象とする共有物の分割をいい、数筆の土地を一括して分割の対象とする共有物の分割はこれに該当しないなどと説示しているところ、その文言のみからすれば、一括分割については一般的に本件規定による非課税は認められない旨をいう趣旨と読めなくもない。しかし、個別説の下では、一括分割であるか否かにかかわらず、個々の共有物ごとに分析的に共有物の分割を把握して持分超過部分の有無及び額を判断することになることからすると、原判決の上記説示も、実質的には、上記のような趣旨ではなく、一括分割の場合の持分超過部分の有無及び額について個別説を採用すべき旨を説示したものと評価することもできる。本判決は、原判決をそのように理解し、その判断を是認したものと解される。

4 本判決の意義

 本判決は、一括分割の場合における持分超過部分の有無及び額の判断の方法について、初めて最高裁としての判断を示したものであり、理論的にも実務的にも重要な意義を有すると考えられるため、紹介する次第である。

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