◇SH1567◇会社法339条2項の解釈の検討(2) 岩本文男(2017/12/26)

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会社法339条2項の解釈の検討(2)

ーー東京地裁平成29年1月26日判決の検討ーー

近畿大学法科大学院准教授

弁護士 岩 本 文 男

 

第2 東京地裁平成29年1月26日判決の概要

2 争点及び当事者の主張

 本件の争点は、本件解任の正当な理由の有無と本件解任による損害の有無及び額であるが、当該争点について、各当事者は以下のとおり主張した。

(1) 本件解任の正当な理由の有無について

 被告らは、本件解任には、以下のような正当な理由があると主張した。

  1. ① 受嘱承認手続に係る規範の不遵守等
    被告Y2がアドバイザリー業務を行うには、被告Y1の承認を受ける等の手続を経る必要があるが、原告は当該手続を遵守せず、同手続を軽視していた。
  2. ② Zグループの方針の不遵守
    原告は、被告Y2が実施したアドバイザリー業務に係る契約書の記載内容について、被告Y1からZグループの方針に沿うよう修正を求められたにもかかわらず、Zグループの方針に従わなかった。
  3. ③ 研修義務不履行者への措置・処分の未策定
    被告Y2においては、被告らにおいて義務付けられている研修の未受講率が被告Y1と比較して極めて高かったことから、被告Y1が被告Y2に対して研修義務不履行者を削減する仕組みを構築するよう繰り返し指示したにもかかわらず、原告は、何らの対応もとらなかった。
  4. ④ 離職者数の多さ
    原告が被告Y2における従業員の長時間労働等の労働環境に対する配慮を行わなかったため、多数の離職者が発生した。
  5. ⑤ 規程整備への非協力
    被告Y1が関係会社の規程整備状況の調査を行うため原告に対して被告Y2の規程リスト等の提出を依頼したにも関わらず、原告はこれに応じず、被告Y1の規程整備に一切協力しなかった。
  6. ⑥ 業績目標の未達
    原告が提示した業績目標は大幅に未達となった。
  7. ⑦ アドバイザリー業務体制の検討における非強調姿勢
    原告は、被告Y1が進めようとした業務体制の見直しについて、新たな体制構築を否定するかのような発言を繰り返すなどして、極めて協調性を欠く態度を示した。
  8. ⑧ 独断での新たな品質管理制度の提案
    原告は、独断で新たな品質管理制度の提案を行ったが、当該提案は、Zジャパンの一体性を害し、また、被告Y1の監査人としての独立性に疑義を生じさせるおそれのあるものであった。
  9. ⑨ 被告Y2におけるパートナーシップの検討に対する姿勢
    被告Y2のパートナーシップに関する被告Y1との協議・検討の過程において、原告は、自らの提案内容に固執し、協議を打ち切った。
  10. ⑩ Bから提供を受けたサービスの対価の支払懈怠、
    被告Y2は、Bとの契約に基づきBから情報システム関連業務に係るサービスの提供を受けていたが、原告は、Bへの対価支払義務の履行を、正当な理由なく拒み続けた。

(2) 本件解任による損害の有無及び額

 ア 原告は、本件解任により、①残存任期分の役員報酬相当額、②追加報酬相当額、③役員賞与相当額、④退職一時金、⑤弁護士費用、といった損害が生じたと主張した。

 イ 被告らは、原告が被告Y2の取締役に就任した際、本件委任契約が締結されており、同契約においては、被告Y2は、約定の解除事由がなくても、いつでも本件委任契約を解除することができる旨が定められ、かつ、その解除が被告Y2の都合によるものであれば、原告は退職一時金を請求することができる旨も定められており、原告の利益の保護も十分に図られているから、本件解任については、会社法339条2項により賠償すべき「損害」は観念し得ないなどと主張した。

3 判旨

(1) 本件解任の正当な理由の有無について

 ア 会社法339条2項の「正当な理由」の意義について

 「会社法339条は、1項において株主総会決議による役員解任の自由を保障しつつ、当該役員の任期に対する期待を保護するため、2項において、当該解任に正当な理由がある場合を除き、当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害について、会社に特別の賠償責任(法定責任)を負わせることにより、会社・株主の利益と当該役員の利益の調和を図ったものと解される。

 同項の「正当な理由」の内容も、以上のような会社・株主の利益と当該役員の利益の調和の観点から決せられるべきものであり、具体的には、会社において、当該役員に役員としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情があることをいうものと解するのが相当である。」

 イ 本件解任の正当な理由の有無について

 (ア)本判決は、被告らが主張した各事由(①ないし⑩)のうち、③④⑥⑦についてはそのような事実は認められないとし、その他の事由については以下のとおり述べたうえで、各事由が独立して本件解任の「正当な理由」となるとはいえないと判示した。

  1. ① 受嘱承認手続に係る規範の不遵守等
    受嘱承認手続の不履践が頻発していたとは認められず、また、原告が受嘱承認手続を軽視していたとはいえない。
  2. ② Zグループの方針の不遵守
    原告はアドバイザリー業務の提案等の在り方について自身の見解を述べたものにすぎないから、原告の見解が被告Y1の方針に沿わないものであったとしても、そのことをもって「正当な理由」とはいえない。
  3. ⑤ 規程整備への非協力
    原告の対応は、Zグループに属する被告Y2の代表取締役として問題のあるものではあったが、規程整備について具体的な問題が生じていたことや被告Y1が被告Y2に対して規程整備の実態調査及び検討の必要性について具体的な説明をしたことは認められない。
  4. ⑧ 独断での新たな品質管理制度の提案
    原告の提案が被告Y1の方針に沿わないものであったとしても、原告は第一次的には株主である被告Y1に対してではなく被告Y2に対して善管注意義務・忠実義務を負う立場にあったこと、取締役会設置会社である被告Y2における株主(被告Y1)の権限は限定的であることからすれば、そのことをもって「正当な理由」があるとはいえない。
  5. ⑨ 被告Y2におけるパートナーシップの検討に対する姿勢
    協議の打ち切りが原告の意向によるものであったとは認められないし、パートナーシップについての原告の提案内容が被告Y1の方針に沿わないものであったとしても、上記⑧と同様に、そのことをもって「正当な理由」があるとはいえない。
  6. ⑩ Bから提供を受けたサービスの対価の支払懈怠
    原告が支払に応じなかったのは、各対価の明細がなく算定根拠が不明であるとの理由によるものであるから、支払に応じなかったことをもって「正当な理由」があるとはいえない。

 (イ)さらに、本判決は、原告の言動は、Zグループに属する被告Y2の代表取締役の行為として問題のあるものであり、原告の代表取締役としての適性に疑念を生じさせる面があることは否定できないが、原告が被告Y2の代表取締役に就任してから被告Y2の損益が黒字に転じ、原告の在任中は一応黒字を維持していたこと、被告Y2の従業員も毎年増加していることなどの事実を総合すれば、原告が代表取締役として著しく不適任であると断ずることはできず、会社法339条2項の「正当な理由」があるとまではいえない、とした。

(2) 争点2について

 ア 会社法339条2項の「損害」の意義等について

 「会社法339条2項の「損害」とは、当該解任がなければ当該役員が残任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害をいうものと解される。

 被告らは、会社と取締役との間の委任契約において、会社の解除権及び解除に伴う処理が具体的に規定されているのであれば、かかる規定に従う限り、会社法339条2項において保護すべき取締役の損失(委任契約に基づく期待権の喪失)は生じず、賠償すべき「損害」を観念することもできない旨主張する。しかしながら、会社と取締役との間の委任契約(取締役任用契約)において、会社の無条件の解除権や解除された場合の処理が具体的に規定されたとしても、そのことをもって、当該取締役の任期に対する期待権が生じないなどと解することはできず、同項の「損害」を観念することができないともいえないから、被告らの上記主張は採用することができない。」

 イ 各損害について

 本判決は、原告主張の各損害について、以下のとおり判示し、残存任期分の役員報酬と退職一時金を認めた。

  1. ① 残存任期分の役員報酬相当額[ii]
    本件解任がなければ残存任期分の役員報酬を得ていたであろうと認められる。
  2. ② 退職一時金
    本件委任契約の締結により、同契約の解除によらずに原告が被告Y2の取締役を退任する場合には、株主総会における承認等を条件として、被告Y2が原告に対し退職一時金を支払うことが唯一の株主である被告Y1の了承も得て決定されていたことが認められるから、本件解任がなければ、任期終了時に退職一時金を得ていたであろうと認められる。
  3. ③ 追加報酬相当額
    本件委任契約の内容からは、原告に具体的な報酬請求権が発生すると解することは困難であるから、本件解任による損害とは認められない。
  4. ④ 役員賞与相当額
    本件委任契約には賞与に関する規定がなく、被告Y2が原告に対して賞与を支払ったこともないことから、本件解任による損害とは認められない。
  5. ⑤ 弁護士費用
    解任がなければ当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害には含まれないため、本件解任による損害とは認められない。


[ii] 残存任期について原告は21ヵ月と主張したが、本判決は残存任期は17ヵ月と10日であると認定した。

 

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