◇SH1962◇実学・企業法務(第154回)法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産 齋藤憲道(2018/07/12)

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実学・企業法務(第154回)

法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引

1. 業界の特徴

(1) 建設業界の特徴

1) 建設業には、「土木工事」と「建築工事」がある

 通常、新規工事のための工期が長く、資金の負担力と調達力が要る。

 構築物は耐用年数が長く、設置後に長期間の維持・更新を行う。

  1. ○「土木工事」
    山の中、河川、海岸、地下の社会資本整備工事が多い。
     (例) トンネル、ダム、橋梁、港湾、護岸、道路、鉄道、上下水道等
  2. (工事のための技術開発例)
  3. ① 設置場所に応じて、桁橋(けたはし)、アーチ橋、トラス橋、斜張橋、吊り橋等を使い分け
  4. ② 地下トンネル工事にシールドマシンを使用
  5. ③ 地盤改良、液状化対策
  6. ④ 環境保全(騒音・振動・土壌汚染・粉塵等の対策、生態系保全、建物解体、電波妨害対策等)
  7. ⑤ ドローンを用いて3次元測量、そのデータを活用して設計・施工計画の時間短縮・精度向上
     
  8. ○「建築工事」
    建築物は、地面の上(一部、地階も併設)に作られ、快適な生活・仕事の空間を提供する。
     (例) 家、マンション、オフィスビル、学校施設
    特殊な建物には、特別な技術が必要。
     高層ビル、音楽ホール、水族館、重粒子線・放射線等を使用する医療施設、原子力施設
  9. (工事のための技術開発例)
  10. ① 強固な構造体、耐震技術(免振、制振を含む)
  11. ② 放射線遮蔽技術
     
  12. ○「土木工事」と「建築工事」が一体で行われるケースもある
     (例) 空港、地下街、発電所、超高層ビル、競技場
  13. (工事のための技術開発例)
  14. ① 免振、制振
  15. ② 環境技術(水処理、ごみ処理、資源化、省エネ等)

2) 建設会社が手がける事業分野

  1. ○ ゼネコン
    ゼネコンは、多くの場合、土木・建築・不動産販売等を手がける他社と提携して工事を受注する。
    大手ゼネコンでは「開発事業」が大きな事業になっている。
     「開発事業」では、土地・建物の売買や、自社が行う分譲・賃貸の収入が売上になる。

〔大手ゼネコンの主な事業分野(例)〕 複数の企業の事業を集めて、筆者が組み換えたもの

  1. 1 次の事業に係る調査・企画・測量・設計・監理・施工・エンジニアリング・マネジメント・コンサルティング

    1. ・ 建築工事、土木工事、機器装置の設置工事
    2. ・ 地域開発、都市開発、海洋開発、資源エネルギー開発、宇宙開発
    3. ・ 環境保全(土壌浄化、河川・湖沼・港湾の水質浄化、廃棄物処理等)
    4. ・ 公共施設(道路、鉄道、港湾、空港、河川施設、上下水道、庁舎、駐車場、廃棄物処理施設等)
    5. ・ ホテル、スポーツ施設、レクリエーション施設、商業施設、医療施設
  2. 2 廃棄物・建設副産物の収集・運搬・処理・処分・再利用
  3. 3 医療施設・教育文化施設等の保有・賃貸・維持管理・運営
  4. 4 建設工事用機械器具・資材の製作・売買・賃貸・修理、これらの仲介・代理
  5. 5 建物、構築物・土木工作物等に関する診断・評価、保安・警備
  6. 6 住宅等の建物の設計・監理・施工、販売、賃貸、管理
  7. 7 土地の造成、販売
  8. 8 不動産の売買、賃貸、仲介、保守、管理、鑑定
  9. 9 不動産投資関係事業の実施、コンサルティング
  1. ○ 中堅企業、個人企業
    戸建て、改築、リニュ-アルを得意とする企業が多い。
    特定の優れた技術・機械等を持つ企業が、得意な設計・デザイン・施工等を受注する例が多い。
     
  2. ○「一人親方」として独立し、請負契約で仕事を行うケースがある。
    その親方が事業者と判断されれば社会保険の加入は不要だが、実質的に雇用関係にある労働者と判断されれば、健康保険・厚生年金保険・雇用保険に加入して会社が社会保険料を負担する。
     
  3. ○ 建設業の業界団体
    日本建設業連合会[1]、全国建設業協会[2]、プレハブ建築協会[3]、その他商品・技能別に多数の団体

 

3) 商品・サービスの特徴

  1. ○ 全て単品の受注生産であり、かつ、総合産業である。
    建設業は、受注請負産業である。
    プレハブ住宅も、設置場所・間取りが異なる。
    ただし、1件の建築物に多種多数の製品が組み込まれるので、建設業は総合産業になっている。
  2. (例) ビル本体に、住設機器(床・壁・天井材、サッシ類、ガス器具、バス・トイレ・キッチン機器等)、電化製品(照明・エアコン・調理機器等)、生活インフラ(電気、ガス、上下水道、通信等)、防火・防犯システム(消火設備、施錠、監視カメラ等)、駐車場、金融機関の融資等が付随する。
     
  3. ○ 商品(建物・道路等)の構造が大きく、設計着手から完成・引渡しまでに長期間かかる。
     
  4. ○ 建設業界は、品質問題・瑕疵問題が多いというイメージを持たれている。
    瑕疵担保責任が問題になると、建設会社はプロとして責任を免れることができない。
    消費者保護の法整備が進んでいる。
     
  5. ○ 建設工事では、近隣トラブルや建設公害がときどき発生する。
    騒音、振動、地盤沈下、日照・眺望・給排水の阻害、風害、電波障害、交通障害、大気汚染等
    建築物、工事、道路・駐車場等が原因だとして、住民とのトラブルが発生する。
  6. (注) 工事に先だって、道路の使用許可[4]を受ける必要がある。(道路交通法77条1項)
    1号許可(道路での工事・作業=舗装工事、下水道工事、搬出入作業、足場設置等)は、所轄警察   署長に申請する。

 


[1] ゼネコン大手5社(大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店)を含む140法人他が加入。(2017年8月1日現在)

[2] 1919年(大正8年)創立の「日本土木建築請負業者連合会」が前身。会員数18,729社。(2017年6月末現在)

[3] プレハブの大手(旭化成ホームズ〈=へーベルハウス〉、積水化学工業〈=セキスイハイム〉、積水ハウス、大和ハウス工業〈=ダイワハウス〉、トヨタホーム、パナホーム、ミサワホームを含む35社の正会員、住友林業等の56社が準会員として加入。(2017年5月16日現在)

[4] 道路占用許可(看板、日よけ、工事用足場、仮囲い等)については、道路管理者(国、都道府県、市町村)の許可を取得する。

 

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