企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
1.「高い生産性」を備えるための要件
(2) 商品を生産・販売して購入者に届けるまで一貫管理して、生産性を高める
企業が保有する経営資源を最も有効に用いるために、生産・販売・在庫の一貫管理、トレーサビリティ管理、サプライチェーン・マネジメント、企業グループ全体の製品別収支管理等を行う。
この管理は、自社だけでなく、資本関係のない社外の取引先(調達先、販売先、委託先、提携先等。いずれも、1次だけでなく、可能な範囲で2次以降の取引先を含む。)を含めて、目的を実現するのに必要な情報を集めて行う。
このため、独占禁止法上の問題(不公正な取引方法等)が生じないように留意するとともに、経営情報(営業秘密、個人情報等)のセキュリティを十分に確保する必要がある。
- (注) 取引に係る情報の活用
- 企業では、取引先の経営実績評価(技術力、品質力、価格競争力、納期遵守力、生産変動対応力等)、及び、取引を開始した理由・取引を停止した理由等をデータにして、発注の優先順位付けや新規取引先の選定等に活用している。
- 一方、部品メーカー側では、納入先との取引実績を可能な範囲(守秘義務を遵守する)でマッチング・サイトに登録し、新規顧客を開拓するビジネスも行われている。
1) 生産・販売・在庫の一貫管理
生産(部品・材料・原料の発注・仕入・在庫、加工・組立・ソフトウェア制作の完成、完成品の調達、完成品倉庫への納入)・販売(顧客からの受注、出荷、顧客への納入)・在庫(流通段階の在庫を含む)の一貫管理は、資金を効果的に運用するのに有効である。
生産段階では、機械の稼働状況・作業員の出勤状況・製造ライン別の歩留り等を把握して生産計画・材料発注に反映し、製品の特性・安全性に係る最終検査に合格した製品だけを完成品倉庫に納入する。
販売段階では、商品の供給力(在庫、生産能力等)を考慮して顧客からの引合い(品番、数量、納期)に対応する。
在庫管理は、流通段階(資本関係がない販売代理店等、自動車・船舶・航空機等による輸送中、第三者の倉庫保管、通関・検疫手続中を含む)を含めて行うと、顧客への納入日時を詳細に特定して顧客満足度を上げるとともに、A代理店の商品在庫をB代理店の来客に引渡す等して売り損じを最小にすることができる。
材料・部品・仕掛品・完成品(自社及び流通段階)を、どの段階でどれだけ保有するのかを決めることは、企業の必要資金量に直結する重要事項である。
以上の管理では、定量的な数値情報が多く取り扱われるが、近年、ICTの進展によって大量の電子情報・データを高速に処理・伝達することが可能になり、様々な管理手法が開発されている。
- 〔ICTが進展して高機能化・多機能化・用途拡大が進んだ機器・サービス・管理の例〕
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情報の処理・伝達機器: 大型コンピュータ、パソコン、Iパッド、スマホ、携帯電話
データの蓄積: USB、SDカード、ハードディスク、クラウド
個々の商品・登録等へのID付与: バーコード、QRコード、ICタグ
商品陳列棚に価格表示版(液晶パネル等)を貼付し、価格改定を一括して無線で中央処理(表示切り替え、レジの単価変更、等)する。
また、インターネットが普及すると、利用可能な物品・空間・人材等の所在(シーズ)情報を収集し、それを求める者(ニーズ)を探し出して、提供・売買等に結び付ける(マッチングさせる)ネット・ビジネスが生まれた。そこには、クレジットカードやデビットカード等を用いた決済機能が組み込まれている。
- 〔ネット・ビジネスの例〕
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物品販売(ネット・ショップ)、タクシー配車、各種のシェアリング・エコノミー・サービス(住宅・農地・駐車場・会議室等の「空間」、中古品売買・レンタル等の「モノ」、自動車等の「移動」、家事代行・介護・育児等の「スキル」 等
- 〔サプライチェーン・マネジメント〕
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東日本大震災によって供給網・調達網が寸断された際に、「部品・材料→生産→物流→販売」という供給連鎖(サプライチェーン)を、情報の流れ(商流)及び資金の流れを含めて管理(マネジメント)し、サプライチェーン全体として最適の経営を行うことが重要であることが強く認識された。サプライチェーン・マネジメントは、企業のリスク・マネジメントの重要な要素である。
同震災後には、多くの企業が、仕入先等との間で締結した「取引基本契約書」を改訂し、「不可抗力条項[1]」を詳細に規定した。
2) トレーサビリティ管理
トレーサビリティとは、「川上に遡って実態(製品不良の原因、環境規制違反の原因等)を把握する」こと、及び、「川下まで辿って実態(製品不良・腐敗等の状況、利用者等に生じた被害の状況、製品の利用者の所在等)を把握する」ことの可能性である。
川上・川下で起きている実態の把握は、基本的には、個々の完成品・部品・材料等に個体ID番号を付けて追跡すれば、可能である。
- 例 牛トレーサビリティ法は、誕生した全ての牛に個体番号を付与し、飼育・屠畜・精肉して消費者が食する段階まで双方向にトレースできる仕組みを作って、事業者にこれを遵守することを義 務付けている。
しかし、大量生産した物を、広域に移動して販売する(不特定の消費者に販売される物も多い。)現代型の市場において、全ての製品に個別にID番号を付して追跡するのは非経済的であり、通常は、「同一条件」で生産(又は、販売、移動、在庫)した集合体(物)を一つの「ロット」として管理する。
- 例 製造部門では、製造工場、製造ライン、製造年月日(時刻)、使用した部品・材料の仕入れ先等の要素を定義して、それぞれの記号・番号を設定し、該当する製品にロット番号を付与(印刷、打刻等)する。製品に表示されたロット番号を見れば、その製品が、どの工場の、どの製造ラインで、いつ、製造されたのか等が分かる。市場で製品事故が発生したときは、ロット番号から製造・流通等の状況を分析し、欠陥が生じた原因を特定して、欠陥商品が存在する地域・場所等を絞り込んで重点的に注意喚起・リコール等の活動を行う。
3) 事業全体として製品別収支を把握
製品別に、開発・設計・調達・生産・販売・流通経費をグローバル・ベースで把握して、経営判断(事業規模の拡大・縮小、価格設定、改善点の抽出等)に活かすことが重要である。
製品別のグローバル連結収支を正確に把握しないと、事業の拡大・縮小・売却価額設定等の経営判断を誤る。
また、どの国で、どれだけの付加価値を付けたかを正しく(資本関係のない取引先を含めて)把握しなければ、多くの広域経済圏(例えばTPP)において関税優遇制度の適用を申請できず、優遇税率の適用を受けることができない。