債権法改正後の民法の未来 37
継続的契約(2)
中祖法律事務所
弁護士 中 祖 康 智
3 議論の経過
(1) 継続的契約の解消について
- ア 規律対象となる「継続的契約」の範囲についての問題点
- 法制審では当初、継続的契約の解消の場面に着目した定義として、継続的契約を「契約の性質上、当事者の一方又は双方の給付がある期間にわたって継続して行われるべき契約」(「総量の定まった給付を当事者の合意により分割して履行する契約」を除くもの)と定義することが提案された。そして、このような定義を前提として、「継続的契約」の解消場面について前回「1 (1)」の①、②及び⑤のような規律を設けることが提案された。
- しかし、この提案に対しては、継続的契約には様々な形態があり統一的な定義ないし規律を設けることは困難だという指摘や、提案された定義は「継続して行われるべき」との規範的要件を含んでおり判断基準として適切でないといった指摘があった。
- また、定義規定の前提問題として、まず、具体的にどのような契約を「継続的契約」として規律対象としたいのかを明らかにすべきであるという意見や、典型契約の中には継続的な契約関係が前提とされている契約もあるが、その典型契約の規律とこの規律との関係性を整理する必要があるという意見があった。
- ほかにも、要件・効果をどの程度具体的に定めるべきなのか、規律の根拠を信義則に求め信義則を明文化すると濫用のおそれが生じるのではないか、継続性保護の効果として契約の存続のみを明文化するのでは解決の柔軟性に欠けるのではないかといった疑問点、問題点も指摘された。
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こうしたことから、中間試案では、規律のタイトルに「継続的契約の解消」という表現を残しつつも、本文からは「継続的契約」の表現を削除し、継続的契約を定義せずに「期間の定めのある契約の終了」「期間の定めのない契約の終了」それぞれについて、契約関係解消の際の規律を設けることが提案された。しかし、これに対しては、単に「期間の定めのない契約」というだけでは継続性の要素が明らかではなく対象となる契約が不明確だという指摘があった。
- イ 継続的契約と債務不履行解除、継続的契約の消費者からの解除
- 上記の問題とは別に、継続的契約の解消が問題となるのは、期間満了や解約申し入れの場合に限られず、債務不履行解除の場合でも同様であるとの意見や、消費者契約における消費者が継続的契約を解消する事由を確保すべきであるとの意見があった。
- そこで、中間的な論点整理では、前回「1 (1)」の③継続的契約の債務不履行解除には信頼関係破壊が要求されるとの規律や、同④消費者・事業者間の継続的契約では、消費者はいつでも契約を解除できるとの規律を設けることが提案された。
- しかし、これらについても、多種多様な継続的契約の全てに当てはまる一般的な規律とは言えないのではないかという疑問が呈された。
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このため、これらの論点については、中間試案には取り上げられなかった。
- ウ 要綱仮案からの削除
- 上記のとおり、継続的契約の解消に関する規律については、継続的契約の多様性、その解消の場面の多様性、解決方法の多様性等からなる様々な問題点が指摘されたが、これらの問題点について具体的な議論を進めるまでには至らなかった。
- その結果、要綱仮案からは、継続的契約の解消についての規律そのものが省かれることとされた。
(2) 多数当事者型継続的契約について
多数当事者型継続的契約については、不平等な取り扱いは、民法ではなく独禁法や中小小売商業振興法等の特別法によって規律されるべきであるという意見があった。
また、規律の基本提案の定義で念頭に置かれているフランチャイズ契約等が正しく定義されているのかという疑問の指摘や、フランチャイズ契約の契約条件は個々の相手方当事者の個性も重視されており、すべての相手方当事者との間で画一的な取り扱いが予定されている契約とは言えないのではないか、多数の契約当事者を平等に取り扱うことは、飲食店などにおける一回的なサービス提供契約でも要請されるところであり、あえて多数当事者型継続的契約というものを観念する必要はないのではないか、といった意見も出された。
こうした指摘に対して、規律の必要性を特に訴える意見も出されず、中間試案以降、多数当事者型継続的契約についての規律は設けないこととされた。
(3) 分割履行契約について
分割履行契約については、規律を設ける必要性について疑問が呈されたが、必要性を特に訴える意見は出なかった。
このため、中間試案以降、分割履行契約についての規律は設けないこととされた。