◇SH2885◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第75回) 齋藤憲道(2019/11/14)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

2.「高い自己浄化能力」を備えるための要件

(1) 自助努力で「自己浄化能力」を高める 規範、内部統制、内部監査、内部通報他

 企業には、社会の規範に適合する経営活動を行うことが求められる。規格外の商品が出荷され、あるいは企業内で事故や違法行為が発生した場合は、事実・原因を迅速に解明して、再発防止策を講じる経営姿勢を採りたい。

 日本では、企業内で隠蔽される不正を外部に「見える化」する主な法的手段として、「公益通報者保護制度」、「独占禁止法の課徴金減免制度」及び「日本版司法取引制度」の3制度が導入されている。

 また、スマホ・小型録音機等の電子機器が普及し、本人が知らない間に発言・行動が録音・録画されて、それが公表され、不祥事になるケースも増えている。

 企業が自らに不都合な事実を隠そうとしても無理で、透明性の高い経営が求められる。

 これまで、不祥事が発覚した会社で、多くの経営幹部が辞職に追い込まれてきた。彼らが、後日、「もっと早く本件の存在を知り、手を打っていればよかった」と反省する姿がしばしば報道される。内部通報制度は、不正行為を上司等から強要される現場の担当者だけでなく、役員・幹部を助ける手段としても有効である。

 大半の企業不祥事は、その芽(兆し)を早期に発見し、迅速に対処して小さいうちに摘み取ってしまえば、経営面への影響(損失、悪評等)はほとんど生じない。癌が、早期に発見して治療すれば治るのと同じで、取締役会には、事業運営のプロセスの中に早期発見・早期治療の仕組みを組み込むことが望まれる。

 本項ではこの仕組みを、①企業規範の整備、及び、②企業規範を遵守する内部統制の仕組み、③内部監査の活用、④内部通報制度の活用、の観点で考察する。

  1. (注) この①と②は、いわゆる内部統制システムの規程類と運用に関するもので、表裏一体をなしている。④の内部通報制度は、規範からの逸脱を認識する手段として有効である。 
  2. (参考) 内部統制システムの構築は、取締役(会)の仕事である。
  3.    中でも、取締役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要な次の1~6の体制(いわゆる「内部統制システム」)を整備することは、取締役会に専属する責務とされる[1]
  4.   1  取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
  5.   2  損失の危険の管理に関する規程その他の体制
  6.   3  取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
  7.   4  使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
  8.   5  当該株式会社・親会社・子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
  9.   6  監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制(監査役設置会社の場合)

① 企業規範を整備する。

 ⅰ) 社会規範に適合する企業規範(第1層~第4層)を整備する。

  1. 1  自社の企業規範が、法令等が求める要件(社会規範)に適合していることを確認する。
  2. ・ 事業開始に許可・承認・認証・届出等を要する場合は、所定の要件を整えて、行政手続きを行う。
    例 医薬品医療機器等法は、許可・承認・認証・登録等を要する事業について詳細に定めている。
  3. ・ コーポレートガバナンスの基本原則[2]に適合していることを確認する。
  4. ・ 社会的責任[3]を果たしていることを確認する。
  5. ・ 業界の代表的な事例[4]と照合して、不適切な部分がないことを確認する。
     
  6. 2  企業規範の制定・遵守責任を誰(どの組織)が負うのか(グループ本社に集中、単独会社の本社に集中、各事業部門に分散等)を明確にする。
     
  7. 3  社内規程の制定、必要な組織の設置、責任者(資格者)の配置、業務管理態勢の構築等を行う。
  8.    一般に、会社における組織編成とその運用基準、各組織責任者への権限の付与、様々な組織・職位の者によって行われる経営判断の監視・点検等は、取締役会が定める取締役会規程(取締役会付議基準を含む)や決裁基準の中で具体的に規定される。

 ⅱ) 企業規範が不適切(社会・法令・市場・技術等の変化への対応遅れ等)な場合は、適切な内容に修正する。

  1. (注) 国等の公的な基準・規格等が最新の技術に対応していない場合は、業界に呼び掛けて更新することも必要である。


[1] 会社法362条4項6号、会社法施行規則100条1項、3項(監査役設置会社の場合の、監査役を補助する使用人の条件、監査役への報告体制、報告者を不利に扱わない、監査費用の処理等)

[2] 「コーポレートガバナンス・コード」㈱東京証券取引所 2018年6月1日は、次の5項目を基本原則に挙げている。1 株主の権利・平等性の確保 2 株主以外のステークホルダーとの適切な協働 3 適切な情報開示と透明性の確保 4 取締役会等の責務 5 株主との対話 

[3] ISO26000は、社会的責任を果たすために必要な7つの原則を挙げている。1 説明責任 2 透明性 3 倫理的な行動 4 ステークホルダーの利害の尊重 5 法の支配の尊重 6 国際行動規範の尊重 7 人権の尊重

[4] 例えば「企業行動憲章―持続可能な社会の実現のために―」(日本経済団体連合会 2017年11月8日改訂)

 

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