◇SH1985◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(90)―スポーツ組織のコンプライアンス⑧ 岩倉秀雄(2018/07/24)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(90)

―スポーツ組織のコンプライアンス⑧―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、スポーツ組織のガバナンス改革について、これまでの考察の続きを述べた。

 一般に、スポーツ組織は、コンプライアンスや経理面の管理がずさんになりやすいので、経理処理ルールを明確化して組織内に周知徹底し、厳格に運用する必要がある。組織の規模によっては、公認会計士や監査法人等専門家による監査・報告を義務付けるべきである。

 また、スポーツ組織は、派閥中心で内向きになりやすいので、情報開示を積極的に行うとともに、内部監査及び監査体制を充実させ、活動に対する社会の理解と信頼を得る必要がある。

 今回は、これまでの考察をまとめる。

 

【スポーツ組織のコンプライアンス⑧:これまでの考察のまとめ】

 スポーツには、人々をポジティブにし達成感や感動を共有する素晴らしい面がある一方、選手、指導者、競技団体役員は「不正のトライアングル(動機、機会、正当化)に巻き込まれやすく、組織には、内向き、派閥中心、自由な発言の封殺、人権侵害、情報隠蔽、暴力肯定、金銭管理の不透明、外部の働きかけによる組織混乱、不祥事対応の遅れ等、のマイナス面がある。

 本稿は、国際的に民主的な組織運営が求められているにもかかわらず、近年、我が国のスポーツ組織に不祥事が多発していることを踏まえ、スポーツ界の発展を願い、スポーツ組織のコンプライアンス(倫理、法令順守)強化の方向について考察・提言した。

 

1. 理念・ビジョン・行動規範の明確化と周知徹底

 全ての競技団体は、理念・ビジョン・行動規範を作成し、所属会員に周知徹底するとともに、違反が発覚した場合には、当該選手だけではなく、必要により指導者やチーム全体に厳しい罰則を課すべきである。また、監督官庁は、作成の有無を確認し、必要により策定を指示するべきである。

 

2. コンプライアンス担当役員の選任と実行組織の設定

 コンプライアンスを強化するためには、中央統括団体及び地方組織に、コンプライアンスに責任を持って取り組むコンプライアンスに明るい実務経験のある独立理事、実行組織、組織連合体の理事長を長とする全組織的なコンプライアンス委員会等を設置するべきである。

 

3. コンプライアンスアンケートの実施による、リスクの早期発見と対策の実施

 組織は、問題が顕在化した時だけではなく、定期的に理念・ビジョン・行動規範・ルールの整備・浸透状況、人権侵害の有無、金銭管理の状況等をアンケート(可能なら指示・命令)により把握し、リスクの早期発見に努め、問題を把握した場合には、放置せず直ちに解決に動く必要がある。

 

4. 相談窓口の設置

 相談窓口は、競技団体の内外及び監督官庁に設置し、できるだけ広範囲から相談を受ける必要がある。また、相談窓口の存在を関係者に周知徹底するとともに、相談者・調査協力者に対する不利益扱いの禁止と秘密厳守、及び相談を放置せず速やかに解決に動くことが重要である。

 

5.教育・研修の徹底

 スポーツ組織の教育・研修のテーマや内容は、自競技の理念・ビジョン・行動規範等の他に、競技毎、立場毎に発生しそうな問題が異なることを踏まえ、各競技団体が、自らの競技のコンプライアンステーマを設定し、役員、指導者、選手毎に階層別教育・研修を実施するべきである。

 

6. ガバナンスの改革

  1. ⑴ 独立理事選任の義務付け
     スポーツ組織は、公的性格が強いにもかかわらず、派閥中心の運営に傾きやすく健全なガバナンスの確保が難しいので、政府は、一定規模以上の競技団体に対して、組織のトップと利害関係のないコンプライアンスに明るい独立理事の導入を義務づけるべきである。
  2. ⑵ 役員・監督・コーチ・代表選手の選考基準の明確化と厳正な運用
     スポーツ組織は人中心の組織で、派閥を形成しやすく、人事が不透明になりやすいので、ガバナンスのベースとなる役員・監督・コーチ・代表選手(含ナショナルチーム)の選考基準、任期、報酬、役割、権限、責任等を、明確にルール化して公表し、厳正に運用する必要がある。
  3. ⑶ 成功例から学ぶ
     スポーツ組織は自己の競技にこだわり閉鎖的になりやすいので、内外の競技団体の成功例を学ぶことが重要である。(例、ガバナンス体制、組織構造と意思決定プロセス、人事、コンプライアンス推進方法、スポンサー獲得方法、人権・環境への取組み、コミュニケーション方法、代表選手選考基準、役員・監督・コーチの選考方法、選手との接し方、ステークホルダーとの関係構築方法等)
  4. ⑷ 経理システムを明確に設定し、厳格に運用する
     人気の高い競技には多額の資金が集まるが、競技団体の運営は経理やコンプライアンスよりも競技に関心を持ちやすく、金銭上の不正が発生しやすいので、経理処理ルールを明確に定め、組織内に周知徹底し、厳格に運用する必要がある。
     競技団体の規模によっては、公認会計士や監査法人等専門家による監査・報告を義務付けるべきである。
  5. ⑸ 情報開示の徹底
     徹底した情報開示は競技団体の活動に対する理解者・支持者・スポンサーを得る有効な手段になるので、積極的に行うべきである。
  6. ⑹ 監査、内部監査の充実
     スポーツ組織は、一般のビジネス組織以上に、派閥を形成しやすく、人事・経理が不透明で、ガバナンスが機能しにくいことから、体制が機能しているかをチェックする仕組みが重要になる。

 次回からは、筆者が共同執筆した『雪印乳業史 第7巻』をベースに、雪印乳業グループの2つの事件を組織論的に考察する。

 

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