◇SH1421◇公取委、株式会社カネスエ商事及び株式会社ワイストアに対する警告 大櫛健一(2017/10/04)

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公取委、株式会社カネスエ商事及び株式会社ワイストアに対する警告

岩田合同法律事務所

弁護士 大 櫛 健 一

 

 平成29年9月21日、公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、食品スーパーを営む小売業者である(株)カネスエ商事及び(株)ワイストア(以下「食品スーパー2社」という。)に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)19条及び2条9項3号の規制(以下「不当廉売規制」という。)に違反するおそれがある行為を行っていたとして、警告を行った。

 不当廉売規制は、「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある」ことを禁止している(独禁法2条9項3号参照)。公取委は、食品スーパー2社が、愛知県犬山市に所在するそれぞれの店舗において、キャベツ、ほうれん草、もやし、きゅうり、大根、レタス及び小松菜を1円で販売していたことが不当廉売規制に抵触し得ると判断した(下図参照)。

公取委HPから引用

 

 不当廉売規制は、消費者への販売市場(下流市場)における取引の公正確保を目的としている。これに対し、小売業者においては、仕入先からの買入市場(上流市場)における取引の公正確保を目的とする法規制も問題となり得る。本稿においては、小売業者において問題となりやすい独禁法及び下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)の規制について公取委の摘発状況も踏まえて概観する。

 

 平成10年の(株)ローソンに対する勧告審決以降、小売業者が、仕入先に対して①従業員派遣、②協賛金提供、③自社商品の購入、並びに、④納入商品の返品又は減額を要請したことなどが、優越的地位を利用した正常な商慣習に照らして不当な行為(独禁法2条9項5号参照。以下かかる行為に対する独禁法の規制を「優越的地位の濫用規制」という。)に該当するとして摘発されるケースが多く見られた。

 その後、優越的地位の濫用規制は、平成22年に施行された改正独禁法により課徴金制度が導入され、平成23年から平成26年にかけて続けざまに小売業者5社に対して排除措置命令及び課徴金納付命令が下された。これに対し、上記5社はいずれも当該各命令を不服として、公取委による法解釈及び事実認定を審判手続において争っており、本稿執筆時点でもなお、うち4社については公取委の判断(審決)が下されていない状況である。

 こうした流動的な状況も意識してと思われるが、公取委は平成26年7月以降、優越的地位の濫用規制に基づく排除措置命令及び課徴金納付命令を下していない。但し、命令に至らない「注意」は、同年以降も継続して行われており、小売業者との関係では、平成26年度に25件、平成27年度に23件、平成28年度に17件の実績がある(下図参照)。

公取委:「平成28年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」より

 

 優越的地位の濫用規制に替わり、近時、小売業者に対する摘発事例が目立っているのが、下請法違反の事例である。下請法は、親事業者の下請事業者に対する取引の公正を確保することを目的とした独占禁止法の特別法であり、「親事業者」が「下請事業者」に対して行う上記①から④の行為類型はいずれも下請法違反となり得る。

 小売業者に対する下請法違反の摘発事例自体は、相当以前から存在していた。しかしながら、平成26年度以降の勧告事例においては小売業者に対するものが特に頻出するようになっている[1]。こうした状況は、(a)公取委が下請法違反の摘発を積極的に行っていることや、(b)小売市場におけるプライベートブランド商品のシェア拡大(プライベートブランド商品の製造委託は、小売業者が「親事業者」に、メーカーが「下請事業者」にそれぞれ該当することにより、下請法の規制対象取引となり得る。)などが原因ではないかと思われる。

 本件の不当廉売に対する警告は、このような経緯・状況においてなされたものである。商品をより有利な取引条件で仕入れ、消費者に対してより低価格で販売することは小売事業におけるいわば王道である。しかしながら、仕入先に対して過度に有利な取引条件を強いることは優越的地位の濫用規制及び下請法規制の観点から問題となり、他方で、販売価格を過剰に下げることも不当廉売規制の観点から問題となる。小売事業における仕入れ・販売戦略を策定するにあたっては、独禁法及び下請法に抵触することがないように法的リスクを加味した上で検討する必要がある。

以 上

 

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