◇SH3940◇北京2022オリンピックCAS事例報告――CASオリンピック仲裁の概要からワリエワ事件まで(2) 宮本聡/細川慈子/簑田由香(2022/03/16)

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北京2022オリンピックCAS事例報告

―CASオリンピック仲裁の概要からワリエワ事件まで―(2)

弁護士法人大江橋法律事務所 東京事務所

弁護士 宮 本   聡

弁護士 細 川 慈 子

弁護士 簑 田 由 香

 


  1. Ⅰ.CAS AHDについて(2022/03/15)
  2. Ⅱ.北京2022オリンピックのCAS AHD事例(総論)(2022/03/16)
  3. Ⅲ.北京2022オリンピックの個別事例①:ROCモーグル選手のワクチン接種に起因する出場枠の割当事件(2022/03/17)
  4. Ⅳ.北京2022オリンピックの個別事例②:ROCワリエワ事件(2022/03/18)
  5. Ⅴ.北京2022オリンピックの個別事例③:フィギュア団体表彰式事件(2022/04/13)


 

Ⅱ 北京2022オリンピックのCAS AHD事例(総論)

1 案件数・案件の傾向

 CASのウェブサイト[4]によると、北京2022オリンピックでは、合計で11件の事件がCAS AHDに係属した。2022年3月9日時点では概要が公表されていないOG 22/06を除き、かつ、OG 22/01・22/03およびOG 22/08-10をそれぞれ実質1件として数えると、実質的な案件数は7件と推察され、その概要は以下のとおりである(以下、案件数は断りがない限り、実質件数とする。)。

事件番号 当事者 紛争類型 判断 申立てから
判断までの
時間
[5]

OG 22/01, 22/03

Megan Henry (USA) v. IOC, Megan Henry v. International Bobsleigh and Skeleton Federation (IBSF)

出場枠の割当

請求棄却

96-120H

OG 22/02

Andrei Makhnev, Artem Shuldiakov and Russian Olympic Committee (ROC) v. International Ski Federation (FIS)

出場枠の割当

管轄なし

24-48H

OG 22/04

Adam Edelman (ISR) and Bobsleigh & Skeleton Israel v. IBSF

出場枠の割当

請求棄却

48-72H

OG 22/05

Irish Bobsleigh & Skeleton Association v. IBSF and IOC

出場枠の割当

請求棄却

72-96H

OG 22/07

Jazmine Fenlator-Victorian v. IBSF

出場枠の割当

請求棄却

48-72H

OG 22/08-10
(ワリエワ事件)

OG 22/08 IOC v. Russian Anti-Doping Agency (RUSADA),
CAS OG 22/09 World Anti-Doping Agency (WADA) v. RUSADA and Kamila Valieva,
CAS OG 22/10 International Skating Union (ISU) v. RUSADA, Kamila Valieva and ROC

暫定的資格停止処分の解除決定の適否

請求棄却

48-72H

OG 22/11

US figure skating team members v. IOC

五輪期間中の表彰式の開催

請求棄却

0-24H

 

2 傾向・特徴

 全7件について申立人の請求は認められていない(6件は請求棄却であり、OG 22/02は管轄なし)。このうちInternational Bobsleigh and Skeleton Federation(IBSF)を相手方とする出場枠の割当に関する案件が4件を占めている。

 仲裁申立てから24時間以内に判断が示された案件は1件(OG 22/11)のみであり、申立てから3日前後で判断が示されている案件が多い傾向にある。7件のうちOG 22/01・22/03を除く6件では主文が先行して言い渡され、判断理由を含む全文は後日公表されている。

 OG 22/07では、申立人より、2022年2月5日午前9時1分に仲裁申立てがなされ、その際に競技に参加するためには遅くとも同月7日までに判断がなされる必要がある旨の要望がなされたところ、主文が同日に言い渡されている。上記IIの2(2)のとおり、仲裁申立てから24時間以内に仲裁判断をする原則(CASOG仲裁規則18条)には例外が少なくないものの、北京2022オリンピックでも、このOG 22/07のように、事案の性質を踏まえ、実質的な紛争解決のために迅速かつ適切な手続の進行が図られたと考えられる。

 この7件のうち、特徴的と思われる3件(OG 22/02、OG 22/08-10およびOG 22/11)について、III、IV、Vでそれぞれ案件の概要を述べる。

(3)につづく



[4] https://www.tas-cas.org/en/index.html (2022年3月9日最終閲覧)

[5] 公表されている仲裁判断における仲裁手続の経過やCASのリリースを参照に筆者らが推定したものである。

 


(みやもと・そう)

弁護士(弁護士法人大江橋法律事務所東京事務所)・ニューヨーク州弁護士。2006年3月筑波大学第一学群社会学類法学専攻卒、2007年9月弁護士登録・弁護士法人大江橋法律事務所東京事務所入所。2016年5月University of Virginia, School of law卒業(LL.M.)、2016年8月~2017年7月米国法律事務所Wilson Sonsini Goodrich & Rosati(Washington, D.C.)Antitrust Practice Group勤務。2018年ニューヨーク州弁護士登録。
主な取扱分野は事業再生、紛争解決及びスポーツ法。主な著書論文(共著)として「東京オリンピックのCASスポーツ仲裁 第1号案件」NBL1211号(2022)43頁。

 

(ほそかわ・あいこ)

弁護士(弁護士法人大江橋法律事務所東京事務所)。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院修了、2011年弁護士登録。2017年University of California, Berkeley, School of Law卒業(LL.M.)、2017年~2018年ドイツ大手法律事務所の国際仲裁プラクティスグループへ出向。主な取扱分野は国際仲裁を含む国際・国内紛争解決。主な著書論文として「国際仲裁入門――比較法的視点から」JCAジャーナル2018年1月号・2月号、『約款の基本と実践』(商事法務、2020)他。

 

(みのだ・ゆか)

弁護士(弁護士法人大江橋法律事務所東京事務所)。2015年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2017年東京大学法科大学院修了、2018年弁護士登録。主な取扱分野はコーポレート・M&A、紛争解決、消費者法。

 

弁護士法人大江橋法律事務所:https://ohebashi.com/jp/

1981年に設立され、弁護士150名以上が所属し企業法務中心にフルサービスを提供する総合法律事務所である(2022年3月現在)。東京、大阪、名古屋を国内の主要拠点としつつ、上海事務所及び各国の有力な法律事務所との独自のネットワークを活用して積極的に渉外業務にも取り組んでいる。会社法、M&A、紛争解決、労務、知財、事業再生、独禁法、情報法、ライフサイエンスなどの幅広い分野において、総合的な法的アドバイスを提供している。

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