◇SH2016◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(5) 藤巻 伍(2018/08/06)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(5)

法改正の概要

TMI総合法律事務所

弁護士 藤 巻   伍

 

Ⅱ 法改正の概要

1  概要

 労働契約法及びパートタイム労働法の主な改正点は以下のとおりである。なお、労働者派遣法の改正点は「Ⅸ 労働者派遣と同一賃金同一労働」にて解説する。

  1. ① 労働契約法20条を削除
  2. ② パートタイム労働法の適用対象に有期雇用労働者が含まれる(以下、新法を「非正規法」という。)

 <有期雇用労働者に適用される主な規定>

  ㋐ 不合理な待遇の禁止 (非正規法8条)

  ㋑ 差別的取扱いの禁止 (非正規法9条)

  ㋒ 待遇の説明義務   (非正規法14条)

  ㋓ 実行確保措置の整備 (非正規法18条)

  ㋔ 紛争解決手段の整備 (非正規法23条~25条)

 

2 不合理な待遇の禁止(非正規法8条)

非正規法8 ※下線部分はパートタイム労働法からの改正部分

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

 本条は、不合理な待遇の禁止を定めた規定であり、基本的な内容は労働契約法20条と同様であるが、労働契約法20条と異なる点もあるため、これらの点について簡単に解説する。

 まず、非正規法8条では、格差禁止の対象が「待遇のそれぞれについて」と明記され、これにより、不合理性の判断は、賃金の総額を比較して行われるのではなく、待遇ごとに比較して行われることが明確となった。

 また、比較の対象について「通常の労働者の待遇」と明記されたところ、パートタイム労働法における通達(平26・7・24基発0724第2号・職発0724第5号・能発0724第1号・雇児発0724第1号第1の2(3))によれば、「通常の労働者」とは、社会通念に従い、比較の時点で当該事業所において「通常」と判断される労働者をいい、具体的には、正規型の労働者、あるいはフルタイムの基幹的労働者が該当するとされている。今回の法改正によって、非正規法の適用対象に有期雇用労働者が含まれることに伴い、通達が改正されることが予測され、「通常の労働者」の定義も改められる可能性がある。

 そして、不合理性判断の考慮要素について、3つの考慮要素「のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの」を考慮する旨が追記されたが、これは、考慮要素が無限定ではなく、待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して不合理性を判断することについて確認的に追記したものであって、これによる大きな影響はないと考えられる。

 以上のとおり、本改正によっても不合理な待遇の禁止の規定の内容は大きく変わらないため、ハマキョウレックス事件の最高裁判決(最判平成30年6月1日労判1179号20頁)をはじめとする労働契約法20条に関する裁判例は法改正後も重要な意義を有するといえる。

 なお、本条に違反した場合、厚生労働大臣による報告徴収、助言、指導及び勧告の対象にはなりえるが(非正規法18条1項)、勧告に従わなかった場合の企業名公表の対象にはならない(非正規法18条2項)。

 また、本条に関し、解釈が明確でないグレーゾーンの場合は報告徴収、助言、指導及び勧告の対象としない一方で、非正規であることを理由とする不支給など解釈が明確な場合は報告徴収、助言、指導及び勧告の対象としていくことが適当とされている(労働政策審議会報告・建議4(1))。

 

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