実学・企業法務(第172回・完)
法務目線の業界探訪〔Ⅳ〕建設・不動産
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅳ〕建設(ゼネコン、戸建て、下請)、不動産取引
7. 事故・事件とその対応
(2) 東洋ゴム工業 免震材料不正
2) 調査により判明した事実と免震材料の不正事案の発生原因(報告書の項目を列挙)
1. 親会社の内的要因に関わること
- ⑴ 業務実施体制が脆弱で、不正が生まれやすい環境
- ・ 免震材料の開発・製造・品質管理を行う技術力欠如(可能性)
- ・ 個人の規範遵守意識の著しい鈍磨にとどまらず、これを醸成させる企業風土の存在
- ・ 不十分な人員・体制、著しく不適切な上司の監督
- ・ 経営・執行幹部による社内の状況把握が不十分
- ・ 不良品発生の対応が一方的に開発部門に押し付けられる関係
- ⑵ 社内チェック体制が不十分で、不正を見逃しやすい環境
-
・ 社内の「見える化」の取り組みの欠如
性能検査から検査成績書発行に至る流れ・担当者の役割分担が不適切
開発部門、製造部門、品質管理部門が、性能検査の結果を個別に保有 - ・ 品質管理の責任者が有効に機能しない等、実効性の十分な社内監査体制
- ・ 法務・コンプライアンス部門の地位の脆弱(事業部門の姿勢・考え方が優先)
- ⑶ 不正対応システムが不十分で、問題発覚後の不適切な対応により問題が拡大
- ・ 不正に対する調査体制の不備
- ・ 既存のガバナンス制度の不活用、経営・執行幹部の意識・判断の甘さ
- ・ 検査データ処理過程の記録の不備
- ⑷ 外部に対する「見える化」等が不十分で、不正を見逃しやすい環境
- ・ 工事施工者等に対する情報提供が不十分
- ・「ISO 9001」の審査で不正が発見されにくい状況(工程表にデータ補正手続きの記載が無い)
- ・ 断熱パネル問題の再発防止策が不十分[1]
2.外的要因に関わること
- ⑴ 指定性能評価機関による性能評価の限界
- ⑵ 工事施工者等によるチェックの限界
- ⑶「ISO 9001」の認証機関の審査に限界
- ・ 記載の無い工程の審査
-
・ 審査対象が限定されない。
サーベイランスの対象は、ISO 9001の認証を受けた対象範囲全般であり、重点審査がない。 - ⑷ 大臣認定後のフォローが不十分
- ⑸ 過去に不正を行った企業に対する監視が不十分
3) 委員会の提言「大臣認定制度の見直しを含む再発防止策について」
〔報告書の要点〕
1.大臣認定制度のあり方に関する基本方針
大臣認定制度のあり方について総点検が必要
検討は、次の⑴ ⑵ ⑶によって、チェックの程度を変えて実施することを基本方針とすべきである。
⑴ 安全性に直結する種類の製品か。⑵市場で検証がなされない製品か。⑶ 過去に不正を行った企業か。
2.大臣認定制度の見直しの方向性
各種の大臣認定の中には、建築確認・検査での審査がチェック機能となっている建築計画内容の認定や、既に認定段階・製品出荷段階におけるチェック機能が措置されている防耐火構造等の認定がある。これらの措置等が無いものについて認定段階・製品出荷段階のチェックを見直すべきである。
3.見直し対象となる大臣認定品に対して講ずべき対応
- ⑴ 免震材料について講ずべき対応
- ・ 認定段階のチェック(指定性能評価機関等による審査の強化)
-
・ 製品出荷段階のチェック
工事施工者等による性能確認、 ISO 9001の認証機関による品質管理体制の確認 - ・ 製品出荷段階のチェック(国等による補完的なチェックの強化)
- ・ 過去に不正を行った企業等に対する重点的なチェック
- ⑵ 免震材料以外の大臣認定品について講ずべき対応
-
・ データの信頼性、市場における検証状況等の実情を踏まえて、免震材料に準じた見直しを行うべき。
一律の強化ではなく、大臣認定品の種類に応じた見直しとなるよう特に留意する。
4.親会社に求める今後の対応
再発防止策の全般にわたって外部に対して継続的に「見える化」し、社会への説明責任を果たすべき。
[1] 東洋ゴム工業(株)では製品品質に係る不祥事が繰り返された。2007年「断熱パネルの耐火性能偽装」、2015年「免震材料の性能偽装」、2015年「防振ゴム検査成績書不正記載」、2017年「産業用ゴム製品(シートリング)販売時に、測定検査を行わず過去データを不正報告」