◇SH1639◇企業の第三者委員会に関する最近の動向(2018/02/13)

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企業の第三者委員会に関する最近の動向

--第三者委員会報告書格付け委が「声明」を公表する等--

 

 企業において発生した不祥事等に対応するために、企業から独立した外部の中立的な識者による、いわゆる「第三者委員会」を設置するケースが多くなっている。以下では、第三者委員会に関する最近の動向を紹介する。


1 最近の主な第三者委員会の活動

 公表されている、最近の主な第三者委員会の活動を挙げると、下記のようになっている。

  1. ○ JPホールディングス(報告書要点版・2017年11月16日)
  2.   前代表者の在籍時におけるセクハラの調査等
    http://www.jp-holdings.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/11/20171117.pdf
  3.  
  4. ○ ニチイ学館(委員会設置・2017年12月14日)
  5.   子会社の元社員による介護施設利用者の殺人事件の調査等
    http://www.nichiigakkan.co.jp/up_files/pdf/2375
  6.  
  7. ○ 亀田製菓(報告書・2017年12月14日)
  8.   子会社における不適切な会計処理の調査等
    https://www.kamedaseika.co.jp/admin/images/irInfo/upload/569.pdf
  9.  
  10. ○ 東レ(報告書・2017年12月27日)
  11.   子会社における製品検査データ書換問題に関する親会社としての調査内容の妥当性の評価等
    http://www.toray.co.jp/news/fiber/detail.html?key=9157244D0091B62E49258202001CEB56
  12.  
  13. ○ ファルテック(委員会設置・1月17日)
  14.   不適切な会計処理に関する調査等
    http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1545240
  15.  
  16. ○ ドミー(中間報告書・2月1日)
  17.   仕入先からのリベートおよび協賛金の会計処理の調査等
    http://www.domy.co.jp/ja/wp-content/uploads/2018/02/survey_180201.pdf
  18.  
  19. ○ 大豊建設(報告書・2月2日)
  20.   不正取引に関する会社調査の妥当性の検証等
    http://www.daiho.co.jp/irinfo/kessan/2018/h300202-report.pdf
  21.  
  22. ○ ミクシィ(報告書・2月8日)
  23.   連結子会社の買収に関する調査等
    http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1552909

 

2 第三者委員会報告書格付け委員会の活動

(1) 日産自動車の報告書の評価

 第三者委員会報告書格付け委員会(委員長=久保利英明・弁護士)では、2014年以降、これまでに14回にわたって、企業・団体等が設置した第三者委員会の報告書について、検討してきたところである。同委員会は今般、日産自動車が2017年11月17日付で公表した「調査報告書(車両製造工場における不適切な完成検査の実施について)」を対象として格付け評価を行い、2月1日にその結果を公表した。

 評価結果によると、総合評価では、評価に加わった8名のうち6名がD評価(合格のうちでは最低ランクの評価)、2名がF評価(不合格)というものであった。

 委員会における議論のポイントは、次のようなものであった。

  1. ① 委員が比較的高い評価をした点
  2. ・ 多数の弁護士を投入して、大掛かりな調査を行ったこと
     
  3. ② 委員が低い評価をした点
  4. ・ 独立性が不明確であること、法律事務所あるいは弁護士の日産との利害関係が不明瞭であること
  5. ・ 専門性が不足すること、調査チームに自動車製造の専門家がいないこと、内部監査の評価について外部の監査機関(名称非開示)の支援を受けたこと
  6. ・ 調査期間が最短で19日間と短いこと、国交省の報告徴収命令への対応であることが影響していること
  7. ・ 調査スコープが不足すること、各工場の調査結果が定型的な記載の繰り返しであること、内部統制の不備の問題やこれに対する経営者の認識の問題について踏み込んで調査していないこと、公表後の違反行為の継続について通り一遍の調査しか行われていないこと
  8. ・ 原因分析が表層的で不十分であること、表面的な現象の列挙にとどまり、真因を究明する姿勢が見られないこと、完成検査の必要性について検討していないこと
  9. ・ 再発防止の提言が表層的で不十分であること、「この壁を取り払うために具体的に何をすべきかは、日産の外部にいる当職らにおいて提言することは困難であり、また、提言することは適当ではない」とするのは、調査チームの職責の放棄に等しいこと

(2) 第三者委員会報告書格付け委員会の声明

 また、同委員会では、わが国を代表する上場会社において不祥事が続発し、外部調査に関する報告が相次いで公表されている事態を受けて、2月6日に声明を発出した。

 声明の内容は以下のとおりである。

 

○ 第三者委員会報告書格付け委員会「声明」(2月6日)

 当委員会は、日産自動車、神戸製鋼所、SUBARU、三菱マテリアル、東レといった我が国を代表する上場メーカーにおいて、不祥事が続発し、外部調査に関する報告が相次いで公表されている事態を受けて、以下のとおり声明を発出する。

  1. プリンシプルに即した対応を
  2.    日本取引所自主規制法人が2016年2月24日に公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル~確かな企業価値の再生のために」は、「内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合、当該企業の企業価値の毀損度合いが大きい場合、複雑な事案あるいは社会的影響が重大な事案である場合などには、調査の客観性・中立性・専門性を確保するため、第三者委員会の設置が有力な選択肢となる」と述べる。
     これに照らせば、上記の問題事案はいずれも、独立性・中立性・専門性を確保した第三者委員会の設置が必要と思われるが、少なくとも、日産自動車とSUBARUは委員会を設置せず、東レの有識者委員会は調査を自ら実施せず、プリンシプルに即した対応を避けている。
     こうした対応では、プリンシプルが上場会社に求める、「必要十分な調査により事実関係や原因を解明し、その結果をもとに再発防止を図ることを通じて、自浄作用を発揮する」「速やかにステークホルダーからの信頼回復を図りつつ、確かな企業価値の再生に資する」という目的を達することは困難である。
     
  3. 社外役員がリーダーシップを
  4.    第三者委員会の設置が求められる状況は、経営者がその経営責任(及び法的責任)を問われる場面であり、安易で不十分な調査により事案を矮小化して難局を切り抜けたいという動機が働き、経営者と会社との間に利益相反が生じる。
     だからこそ、プリンシプルは、「独立役員を含め適格な者が率先して自浄作用の発揮に努める」と述べており、社外役員は、経営者が安易で不十分な調査に逃げないよう、リーダーシップを発揮し、確かな企業価値の再生に向けた道筋を付けるべきである。
     
  5. 名ばかり第三者委員会に気を付けて
  6.    東芝が2015年5月に設置した第三者委員会が、子会社ウエスチングハウス社ののれんの減損問題を調査対象から外したことが、同年12月の同子会社による旧CB&Iストーン&ウェブスターの買収につながり、その後の経営危機を招いたという見立ては、企業社会の共通認識になりつつある。
     プリンシプルが「第三者委員会という形式をもって、安易で不十分な調査に、客観性・中立性の装いを持たせるような事態を招かないよう」と注意喚起するとおり、実態を伴わない「名ばかり第三者委員会」は、確かな企業価値の再生を阻むどころか、逆に企業価値を毀損する事態を招く。こうした事態を招かないようプリンシプルに即して行動することも、有事における役員の善管注意義務の一部をなすことを、役員は銘記すべきである。

 

  1. 第三者委員会報告書格付け委、第15回格付け結果を公表(2月1日)
    http://www.rating-tpcr.net/news/committee/第15回格付け結果を公表しました/
  2. ○ 日産自動車「調査報告書(車両製造工場における不適切な完成検査の実施について)」
    https://www.nissan-global.com/PDF/20171117_report01.pdf
  3. 第三者委員会報告書格付け委、「声明」を発出しました(2月6日)
    http://www.rating-tpcr.net/news/committee/「声明」を発出しました/
  4. ○ 日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事対応のプリンシプル~確かな企業価値の再生のために~」(2016年2月24日)
    http://www.jpx.co.jp/regulation/listing/principle/
  5.  
  6. 参考
  7. 久保利英明「第三者委員会の役割と機能(全4回)」
  8. SH0964 第1回(2017/01/13)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=2777779
  9. SH0968 第2回(2017/01/17)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=2815226
  10. SH0974 第3回(2017/01/20)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=2844208
  11. SH0977 第4回(2017/01/24)
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=2780728

 

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