◇SH2115◇債権法改正後の民法の未来55 約款・不当条項規制(3) 山本健司(2018/10/01)

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債権法改正後の民法の未来 55
約款・不当条項規制(3)

清和法律事務所

弁護士 山 本 健 司

 

Ⅲ 議論の経過

2 議論の概要

(2) 中間論点整理

ア 約款

 第1ステージ終了時にとりまとめられた「中間論点整理」では、「約款」問題について、下記のようにとりまとめられた。[1]

【 中間論点整理 】

  1. 第27  約款(定義及び組入要件)
  2.  1 約款の組入要件に関する規定の要否
     現代社会においては、鉄道・バス・航空機等の運送約款、各種の保険約款、銀行取引約款等など、様々な分野でいわゆる約款(その意義は2参照)が利用されており、大量の取引を合理的、効率的に行うための手段として重要な意義を有しているが、個別の業法等に約款に関する規定が設けられていることはあるものの、民法にはこれに関する特別な規定はない。約款については、約款使用者(約款をあらかじめ準備してこれを契約内容にしようとする方の当事者)の相手方はその内容を了知して合意しているわけではないから、約款が契約内容になっているかどうか不明確であるなどの指摘がある。そこで、約款を利用した取引の安定性を確保するなどの観点から、約款を契約内容とするための要件(以下「組入要件」という。)に関する規定を民法に設ける必要があるかどうかについて、約款を使用する取引の実態や、約款に関する規定を有する業法、労働契約法その他の法令との関係などにも留意しながら、更に検討してはどうか。
  3.  2 約款の定義
     約款の組入要件に関する規定を設けることとする場合に、当該規定の適用対象となる約款をどのように定義するかについて、更に検討してはどうか。
     その場合の規定内容として、例えば、「多数の契約に用いるためにあらかじめ定式化された契約条項の総体」という考え方があるが、これに対しては、契約書のひな形などが広く約款に含まれることになるとすれば実務における理解と異なるという指摘や、労働契約に関する指摘として、就業規則が約款に該当するとされることにより、労働契約法その他の労働関係法令の規律によるのではなく約款の組入要件に関する規律によって労働契約の内容になるとすれば、労働関係法令と整合的でないなどの指摘もある。そこで、このような指摘にも留意しながら、上記の考え方の当否について、更に検討してはどうか。
  4.  3 約款の組入要件の内容
     仮に約款の組入要件についての規定を設けるとした場合に、その内容をどのようなものとするかについて、更に検討してはどうか。
     例えば、原則として契約締結までに約款が相手方に開示されていること及び当該約款を契約内容にする旨の当事者の合意が必要であるという考え方がある。このうち開示を要件とすることについては、その具体的な態様によっては多大なコストを要する割に相手方の実質的な保護につながらないとの指摘などがあり、また、当事者の合意を要件とすることについては、当事者の合意がなくても慣習としての拘束力を認めるべき場合があるとの指摘などがある。
     このほか、相手方が個別に交渉した条項を含む約款全体、更には実際に個別交渉が行われなくてもその機会があった約款は当然に契約内容になるとの考え方や、約款が使用されていることが周知の事実になっている分野においては約款は当然に契約内容になるとの考え方もある。
     約款の組入要件の内容を検討するに当たっては、相手方が約款の内容を知る機会をどの程度保障するか、約款を契約内容にする旨の合意が常に必要であるかどうかなどが問題になると考えられるが、これらを含め、現代の取引社会における約款の有用性や、組入要件と公法上の規制・労働関係法令等他の法令との関係などに留意しつつ、規定の内容について更に検討してはどうか。
     また、上記の原則的な組入要件を満たす場合であっても、約款の中に相手方が合理的に予測することができない内容の条項が含まれていたときは、当該条項は契約内容とならないという考え方があるが、このような考え方の当否について、更に検討してはどうか。
  5.  4 約款の変更
     約款を使用した契約が締結された後、約款使用者が当該約款を変更する場合があるが、民法には約款に関する規定がないため、約款使用者が一方的に約款を変更することの可否、要件、効果等は明確でない。そこで、この点を明らかにするため、約款使用者による約款の変更について相手方の個別の合意がなくても、変更後の約款が契約内容になる場合があるかどうか、どのような場合に契約内容になるかについて、検討してはどうか。

 すなわち、中間論点整理では、「約款」部分について、①約款の定義、②組入要件の内容、③不意打ち条項の当否、④約款の変更に関する検討を今後も継続する旨がとりまとめられている。

イ 不当条項規制

 第1ステージ終了時にとりまとめられた「中間論点整理」では、「不当条項規制」問題について、下記のようにとりまとめられている。[2]

【 中間論整理 】

  1. 第31 不当条項規制
  2.  1 不当条項規制の要否、適用対象等
    ⑴ 契約関係については基本的に契約自由の原則が妥当し、契約当事者は自由にその内容を決定できるのが原則であるが、今日の社会においては、対等な当事者が自由に交渉して契約内容を形成することによって契約内容の合理性が保障されるというメカニズムが働かない場合があり、このような場合には一方当事者の利益が不当に害されることがないよう不当な内容を持つ契約条項を規制する必要があるという考え方がある。このような考え方に従い、不当な契約条項の規制に関する規定を民法に設ける必要があるかについて、その必要性を判断する前提として正確な実態の把握が必要であるとの指摘などにも留意しつつ、更に検討してはどうか。
    ⑵ 民法に不当条項規制に関する規定を設けることとする場合に対象とすべき契約類型については、どのような契約であっても不当な契約条項が使用されている場合には規制すべきであるという考え方のほか、一定の契約類型を対象として不当条項を規制すべきであるとの考え方がある。例えば、約款は一方当事者が作成し、他方当事者が契約内容の形成に関与しないものであること、消費者契約においては消費者が情報量や交渉力等において劣位にあることから、これらの契約においては契約内容の合理性を保障するメカニズムが働かないとして、これらを不当条項規制の対象とするという考え方(消費者契約については後記第62、2①)である。また、消極的な方法で不当条項規制の対象を限定する考え方として、労働契約は対象から除外すべきであるとの考え方や、労働契約においては、使用者が不当な条項を使用した場合には規制の対象とするが、労働者が不当な条項を使用しても規制の対象としないという片面的な考え方も主張されている。これらの当否を含め、不当条項規制の対象について、更に検討してはどうか。
  3.  2 不当条項規制の対象から除外すべき契約条項
     不当条項規制の対象とすべき契約類型に含まれる条項であっても、契約交渉の経緯等によって例外的に不当条項規制の対象から除外すべき条項があるかどうか、どのようなものを対象から除外すべきかについて、更に検討してはどうか。
     例えば、個別に交渉された条項又は個別に合意された条項を不当条項規制の対象から除外すべきであるとの考え方がある。このような考え方の当否について、どのような場合に個別交渉があったと言えるか、一定の契約類型(例えば、消費者契約)に含まれる条項は個別交渉又は個別合意があっても不当条項規制の対象から除外されないという例外を設ける必要がないかなどに留意しながら、更に検討してはどうか。
     また、契約の中心部分に関する契約条項を不当条項規制の対象から除外すべきかどうかについて、中心部分とそれ以外の部分の区別の明確性や、暴利行為規制など他の手段による規制の可能性、一定の契約類型(例えば、消費者契約)に含まれる条項は中心部分に関するものであっても不当条項規制の対象から除外されないという例外を設ける必要はないかなどに留意しながら、更に検討してはどうか。
  4.  3 不当性の判断枠組み
     民法に不当条項規制に関する規定を設けることとする場合には、問題となる条項の不当性をどのように判断するかが問題となる。具体的には、契約条項の不当性を判断するに当たって比較対照すべき標準的な内容を任意規定に限定するか、条項の使用が予定されている多数の相手方と個別の相手方のいずれを想定して不当性を判断するか、不当性を判断するに当たって考慮すべき要素は何か、どの程度まで不当なものを規制の対象とするかなどが問題となり得るが、これらの点について、更に検討してはどうか。
  5.  4 不当条項の効力
     民法に不当条項規制に関する規定を設けることとする場合には、ある条項が不当と評価された場合の効果が問題になるが、この点に関しては、不当条項規制の対象となる条項は不当とされる限度で一部の効力を否定されるとの考え方と、当該条項全体の効力を否定されるとの考え方がある。いずれが適当であるかについては、「条項全体」が契約内容のうちどの範囲を指すかを明確にすることができるか、法律行為に含まれる特定の条項の一部に無効原因がある場合の当該条項の効力をどのように考えるか(後記第32、2(1))にも留意しつつ、更に検討してはどうか。
     また、不当な条項を無効とするか、取り消すことができるものとするかについて、更に検討してはどうか。
  6.  5 不当条項のリストを設けることの当否
     民法に不当条項規制に関する規定を設けることとする場合には、どのような条項が不当と評価されるのかについての予測可能性を高めることなどを目的として、不当条項規制に関する一般的規定(前記3及び4)に加え、不当と評価される可能性のある契約条項のリストを作成すべきであるとの考え方があるが、これに対しては、硬直的な運用をもたらすなどとして反対する意見もある。そこで、不当条項のリストを設けるという考え方の当否について、一般的規定は民法に設けるとしてもリストは特別法に設けるという考え方の当否も含め、更に検討してはどうか。
     また、不当条項のリストを作成する場合には、該当すれば常に不当性が肯定され、条項使用者が不当性を阻却する事由を主張立証することができないものを列挙したリスト(ブラックリスト)と、条項使用者が不当性を阻却する事由を主張立証することによって不当性の評価を覆すことができるものを列挙したリスト(グレーリスト)を作成すべきであるとの考え方がある。これに対し、ブラックリストについては、どのような状況で使用されるかにかかわらず常に不当性が肯定される条項は少ないのではないかなどの問題が、グレーリストについては、使用者がこれに掲載された条項を回避することにより事実上ブラックリストとして機能するのではないかなどの問題が、それぞれ指摘されている。そこで、どのようなリストを作成するかについて、リストに掲載すべき条項の内容を含め、更に検討してはどうか。

 すなわち、中間論点整理では、「不当条項規制」部分について、①不当条項規制の規定の要否・適用対象(約款条項に限定するか)、②不当条項規制から除外すべき契約条項(個別交渉条項、中心条項を除外するか)、③不当性の判断枠組み、④不当条項リストを設けることの当否に関する検討を今後も継続する旨がとりまとめられている。

 


[1] 民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理の補足説明(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/09/000074988.pdf

[2] 民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理の補足説明(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/09/000074988.pdf

 

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