公取委、鉄道会社が発注する制服の販売業者に対する
排除措置命令及び課徴金納付命令
岩田合同法律事務所
弁護士 上 西 拓 也
公正取引委員会は、平成30年1月12日、東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」という。)又は西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR西日本」という。)が見積り合わせの方法により発注する制服の販売業者に対し、独占禁止法に基づく排除措置命令及び課徴金納付命令を行った(平成30年(措)第1号~第4号)。
近時、本件のように民間発注取引が公正取引委員会による排除措置命令及び課徴金納付命令の対象となる事例が散見される。以下では、近時の民間発注取引における受注調整事例の紹介も交え本件を解説する。
1 排除措置命令及び課徴金納付命令の概要
本件の排除措置命令は、以下【図】に掲げる品目の制服の販売業者である違反事業者(以下「本件違反事業者」という。)に対して行われた。独占禁止法違反とされた行為は品目ごとに微妙に異なるものの、行為の特徴については共通しており、大要、JR東日本又はJR西日本が上記各制服の供給者ないし受注者を決定するに際して実施する見積もり合わせに際し、本件違反事業者相互間で合意して見積価格を調整し、供給予定者ないし受注予定者を決定してその者が供給ないし受注できるようにした、あるいは、既存の発注単価と同額又はそれ以上の額となるようにしたというものである。
品目ごとの違反事業者数、排除措置命令及び課徴金納付命令の対象事業者数並びに課徴金額は次の【図】のとおりである。
【図】違反事業者数、排除措置命令及び課徴金納付命令の対象事業者数並びに課徴金額
(公正取引委員会ホームページより引用)
2 解説
本件における排除措置命令及び課徴金納付命令の内容等について、上記のうち、JR東日本向け接客型制服に関する事案(以下「対象事案」という。)を例に解説する。
- ⑴ 不当な取引制限の禁止
-
独占禁止法3条により禁止される不当な取引制限とは、事業者が、他の事業者と共同して、相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう(同法2条6項)。
対象事案においては、本件違反事業者は、供給予定者を決定し、供給予定者が供給できるように協力するという合意があったと認定されたうえで、本件違反事業者は、かかる意思連絡のもと、相互に見積価格を調整する等してこれを実行に移し、公共の利益に反して、JR東日本の接客型制服供給という取引分野における競争を実質的に制限したと判断された。
- ⑵ 排除措置命令
-
対象事案において、公正取引委員会は、独占禁止法7条2項に基づき、本件違反事業者5社のうち4社に対し、違反行為を取りやめた旨の取締役会決議、決議内容の取引先への通知及び従業員への周知徹底、将来における同様の行為の禁止といった各措置の実施を命じた。これらは排除措置命令の内容として典型的なものであり、いずれも将来における再発防止を目的としたものといえる。
排除措置命令を免れた残りの1社は、公正取引委員会の調査開始前に自主的に報告を行っていた事業者である。違反行為がなくなっている場合に事業者に対して排除措置命令を講ずることができるのは「特に必要があると認めるとき」に限られる(独占禁止法7条2項)ため、当該1社については必要なしと判断されたものと思われる。他の4社については、排除措置命令書によれば、違反行為が長期間にわたって行われていたこと、違反行為の取りやめが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の事情から、特に排除措置を命ずる必要があると認められている。
- ⑶ 課徴金納付命令
- 対象事案において排除措置命令の対象となった上記4社は、上記【図】の記載どおり、独占禁止法7条の2第1項に基づき、各社合計で1644万円の課徴金納付命令を受けた。これに対し、排除措置命令を免れた残りの1社は、調査開始日前に課徴金減免申請を行ったことにより課徴金納付を免除された(課徴金減免制度〔リニエンシー〕。独占禁止法7条の2第10項)。
3 近時の実例
民間発注取引に関する受注調整の事案で、排除措置命令が出された近時の実例としては、次のようなものがある。
平成28年7月12日 |
東京電力が発注する電力保安通信用機器の製造販売業者に対する件(平成28年(措)第8号) |
違反事業者3社のうち、2社が排除措置命令を受け、合計4億291万円の課徴金納付命令 |
平成29年2月15日 |
中部電力株式会社が発注するハイブリッド光通信装置及び伝送路装置の製造販売業者に対する件(平成29年(措)第2号~第3号) |
違反事業者5社(実数3社)のうち、3社(実数2社)に対し、排除措置命令及び合計3億1921円の課徴金納付命令[1] |
平成30年1月12日報道[2] |
NTT東日本が発注する職員の作業服の納入業者に対する件 |
2社に対し排除措置命令の見込み(報道ベース) |
4 まとめ
本件は、典型的に問題となる公共調達における談合ではなく、民間発注取引に関する価格調整が公正取引委員会による命令の対象となったものである。独占禁止法は公正かつ自由な競争を促進することを目的としており、同法による不当な取引制限の禁止は公共調達分野に限られない。
企業は、民間発注取引にも独占禁止法の規制が及ぶ結果、高額の課徴金納付命令の対象となり得ることを改めて認識したうえで、引き続き、違反行為の未然防止の観点からコンプライアンスの徹底を図ることが必要である。さらに、万一の事態には課徴金減免制度(リニエンシー)を速やかに利用できるよう社内外に対する通報制度の実効性確保等万全の態勢を整えておくことが肝要である。
以上
[1] 実数が異なるのは平成29年(措)第2号及び第3号の両方で命令を受けた事業者がいることによる。
[2] 日本経済新聞ウェブサイト(2018)「JR制服納入で受注調整 三越伊勢丹など9社に課徴金 4千万円超」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25620650S8A110C1CR8000/(平成30年1月18日アクセス)