◇SH2198◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(16) 大嵜将史(2018/11/19)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(16)

福利厚生的な手当の均衡・均衡待遇の確保

TMI総合法律事務所

弁護士 大 嵜 将 史

 

Ⅵ 福利厚生的な手当の均衡・均衡待遇の確保(2)

 本稿では、福利厚生的な手当のうち、通勤手当と家族手当について述べる。

 

1 通勤手当

 <ガイドラインたたき台の基本的な考え方>

短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当を支給しなければならない。

 

 <ガイドラインたたき台が示している具体的な事例>

  1. [ 問題とならない例 ]
  2. ・ 一般の採用である通常の労働者に対し、交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給しているが、近隣から通える範囲での通勤手当の上限を設定して採用した短時間労働者に対しては、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給しているところ、当該短時間労働者が、その後、本人の都合で通勤手当の上限の額の範囲の外へ転居した場合には、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給している。
  3. ・ 通勤手当について、所定労働日数が多い(例えば週4日以上)通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者には、月額の定期券の金額に相当する額を支給しているが、所定労働日数が少ない(例えば週3日以下)又は出勤日数が変動する短時間・有期雇用労働者には、日額の交通費に相当する額を支給している。

 なお、第2章Ⅲで詳述したハマキョウレックス事件では、通勤手当につき、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給される手当であることを前提とした上で、労働契約における期間の定めの有無によって通勤に要する費用が異なるものではなく、また、職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではないという理由で、通勤手当の支給金額の相違について不合理であると判断しており、ガイドラインたたき台と同様の結論をとっている。

 

2 家族手当

 家族手当については、ガイドラインたたき台には記載されていないが、裁判例においてはその均衡待遇を巡り注目すべき判断が示されている。

 第2章Ⅴで紹介した日本郵便事件(大阪地判平成30・2・21労判1180号26頁)では、正社員には扶養手当が支給される一方、所定労働時間が正社員と同程度の契約社員には支給されていなかったことについて、扶養手当は、労働者及びその扶養親族の生活を保障するために、基本給を補完するものとして付与される生活保障給としての性質を有しており、職務の内容等の相違によってその支給の必要性の程度が大きく左右されるわけではないとして、扶養手当の支給の有無について不合理であると判断されている。

 井関松山製造所事件(松山地判平成30・4・24労経速2346号18頁)においても、上記日本郵便事件とほぼ同様の理由で、無期契約労働者に家族手当を支給するにもかかわらず、有期契約労働者に家族手当を支給しないことは不合理であると判断されている。

 これらの裁判例を前提とすると、扶養する家族の生活を援助するために支給されるという家族手当の趣旨に鑑みれば、家族の扶養状況が同様であれば、それに応じて同様の扶養手当を支給することが求められることになると解されよう。ただし、所定労働時間が正社員と同程度であることは、上記日本郵便事件では言及されていたものの、井関松山製造所事件では明示的に言及されておらず、扶養状況が同様であると判断されるために必須であるかどうか、必ずしも明らかではなく、この点は今後の裁判例の動向を注視する必要がある。

 

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