◇SH2206◇最二小判 平成30年6月1日 未払賃金等支払請求上告、同附帯上告事件(山本庸幸裁判長)

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  1. 1  有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合における当該有期契約労働者の労働条件の帰すう
  2. 2  労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」の意義
  3. 3  労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」の意義
  4. 4  無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた事例

  1. 1  有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。
  2. 2  労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。
  3. 3  労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。
  4. 4  乗務員のうち無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で、有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、次の(1)~(3)など判示の事情の下においては、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

    1. ⑴ 上記皆勤手当は、出勤する乗務員を確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものである。
    2. ⑵ 乗務員については、有期契約労働者と無期契約労働者の職務の内容が異ならない。
    3. ⑶ 就業規則等において、有期契約労働者は会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるが、昇給しないことが原則であるとされている上、皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。

 労働契約法第20条

 平成28年(受)第2099号、第2100号 最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決 未払賃金等支払請求上告、同附帯上告事件 一部上告棄却、一部破棄差戻(民集第72巻2号88頁)

 原    審:平成27年(ネ)第3037号 大阪高裁平成28年7月26日判決
 第2次第1審:平成27年(ワ)第163号 大津地裁彦根支部 平成27年9月16日判決
 第1次第2審:平成27年(ネ)第2106号、第2115号 大阪高裁平成27年7月31日判決
 第1次第1審:平成25年(ワ)第205号 大津地裁彦根支部 平成27年5月29日判決

1 事案の概要

 本件は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であるYとの間で有期労働契約を締結してトラック運転手として配送業務に従事していたXが、Yと無期労働契約を締結している労働者(以下「正社員」という。)とXとの間で、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給及び退職金(以下、これらを併せて「本件賃金等」という。)に相違があることは労働契約法20条(労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)2条による改正後のもの。以下同じ。)に違反しているなどと主張して、Yに対し、 (1)労働契約に基づき、XがYに対し、本件賃金等に関し、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める(以下、この請求を「本件確認請求」という。)とともに、(2)①主位的に、労働契約に基づき、平成21年10月1日から同27年11月30日までの間に正社員に支給された無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び通勤手当(以下「本件諸手当」という。)と、同期間にXに支給された本件諸手当との差額の支払を求め(以下、この請求を「本件差額賃金請求」という。)、②予備的に、不法行為に基づき、上記差額に相当する額の損害賠償を求めた(以下、この請求を「本件損害賠償請求」という。)事案である。

2 事実関係の概要

 (1) Yと有期労働契約を締結している社員(以下「契約社員」という。)であるXの労働条件を、正社員の労働条件と比較すると、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び家族手当の支給がなく、賞与及び退職金の支給並びに定期昇給も原則としてないとの相違があり、また、平成25年12月以前においては、交通手段及び通勤距離が同じ正社員と比較して通勤手当の支給額が2000円少ないとの相違もあった。

 (2) 労働契約法20条は、有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めているところ、原告が勤務している支店におけるトラック運転手においては、契約社員と正社員とで職務の内容に相違はないが、当該職務の内容及び配置の変更の範囲に関し、正社員については、出向を含む全国規模の広域異動の可能性があり、等級役職制度が設けられているのに対し、契約社員については、就業場所の変更や出向は予定されておらず、等級役職制度も設けられていないという相違があった。

3 裁判所の判断

 (1) 第1審判決(ただし、差戻し後の大津地方裁判所彦根支部平成27年9月16日判決・労判1135号59頁)は、本件確認請求及び本件差額賃金請求を棄却し、本件損害賠償請求については、Xと正社員との間の通勤手当に係る相違は労働契約法20条に違反するとして、同条施行後の通勤手当の差額合計1万円の支払を求める限度でこれを認容した。

 (2) 原判決(大阪高等裁判所平成28年7月26日判決・判タ1429号96頁)は、本件確認請求及び本件差額賃金請求を棄却すべきものとし、本件損害賠償請求については、契約社員と正社員の無事故手当、作業手当、給食手当及び通勤手当に係る相違は労働契約法20条に違反するとして、同条施行後の上記各手当に係る部分を認容すべきものとし、住宅手当及び皆勤手当に係る部分をいずれも棄却すべきものとした。

 (3) 原判決に対し、Yが上告及び受理申立てをし、Xが附帯上告及び附帯受理申立てをした。第二小法廷は、判決要旨のとおり判断して、原判決中、同条施行後のXの皆勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し、同部分につき本件を原審に差し戻すとともに、Yの上告及びXのその余の附帯上告を棄却した。

4 説明

(1) 労働契約法20条の趣旨について

 労働契約法20条は、有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。本判決は、同条の要件及び効力について判示するに先立ち、「同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下「職務の内容等」という。)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。」と判示して、同条が、差別的取扱いの禁止規定やいわゆる同一価値労働同一賃金の原則のように、一定の要件を満たすことを前提に均等待遇を求めるものではなく、有期契約労働者と無期契約労働者との相違に応じた均衡のとれた処遇を求める規定である旨を明示している。

(2) 労働契約法20条違反の効力について

 本件地位確認請求及び本件差額賃金請求は、Xが正社員と同一の労働条件となることを前提とするものであることから、無期契約労働者と有期契約労働者の労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合に、当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるか否かが問題となった。

 労働契約法20条に違反した場合の効力として、有期契約労働者の労働条件が当然に比較対象である無期契約労働者の労働条件によって代替されることになるという契約補充効(強行的直律的効力)があるか否かについては、①労働契約法12条や労働基準法13条のような契約補充効を認める旨の規定がないことから、契約補充効は認められないとする見解(荒木尚志ほか『詳説 労働契約法〔第2版〕』(弘文堂、2014)244頁、土田道夫『労働契約法〔第2版〕』(有斐閣、2016)803頁等)と、②不合理な格差と認められた労働契約部分を無効にするだけでは問題が解決しないから契約補充効を認めるべきとする見解(西谷敏『労働法〔第2版〕』(日本評論社、2013)453頁等)とあったが、本判決は、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。」と判示して、契約補充効は認められないとする見解に立つことを明らかにしている。

 また、契約補充効を否定する見解に立つ場合、不合理と認められる有期契約労働者の労働条件を、関係する労働協約、就業規則、労働契約の合理的な解釈・適用により補充することが可能か否かが問題となるところ、この点に関し、本判決は、Yにおいては、正社員に適用される就業規則と、契約社員に適用される就業規則とが、別個独立のものとして作成されていること等にも鑑みれば、両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、正社員に適用される就業規則の定めが契約社員であるXに適用されることとなると解することは、就業規則の合理的な解釈としても困難であるとして、Xの本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではないとしている。

 本判決は、上記のような判断に基づき、本件確認請求及び本件差額賃金請求については、仮に本件賃金等に係る相違が労働契約法20条に違反するとしても、Xの本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではないから、いずれも理由がないとしたものである。

(3) 労働契約法20条の要件について

 次に、本判決は、本件損害賠償請求について判断するに当たり、学説上見解が分かれていた、労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」「不合理と認められるもの」の意義について判断をしている。

 ア 労働契約法20条は、「期間の定めがあることにより」労働条件の相違がある場合に、その相違が不合理と認められるものであってはならない旨を定めるものであるところ、「期間の定めがあることにより」の意義については、学説上、①「期間の定めがあることにより」との文言を独立の要件として捉える必要はなく、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があれば、労働契約法20条の審査対象とした上で、期間の定めによる相違か否かは「不合理であると認められるもの」に当たるか否かの審査において判断すべきとする見解(土田前掲・793頁、深谷信夫ほか・労旬1853号(2015)20頁等)や、②期間の定めの有無と労働条件の相違との間に因果関係があることを要件とするものであるが、明らかに関連性がないものを除外すれば足りるとする見解(荒木尚志・労判1146号(2017)10頁、緒方桂子・季労241号(2013)23頁等)などがある。この点につき、本判決は、「同条にいう『期間の定めがあることにより』とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。」と判示している。このような見解は、原判決を含めた下級審裁判例が採用していたところであるが、「関連して生じたものである」とされたのは、期間の定めがあることと労働条件の相違との間に因果関係が必要であるとの見解に立ちつつ、因果関係があることを緩やかに認める趣旨によるものと解される。その上で、本判決は、本件諸手当に係る労働条件の相違は、契約社員と正社員とでそれぞれ異なる就業規則が適用されることにより生じているものであることに鑑みれば、当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができ、労働契約法20条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たる旨を判示している。

 イ 労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」の意義については、学説上、①「合理的でない」ことと同義とし、問題となった処遇の相違に合理的な理由がない場合にはこの要件を満たすとする見解(土田前掲・796頁、緒方前掲・24頁等)と、②同条は、労働条件の相違が不合理と評価されるかどうかを問題としているのであり、当該差異について合理的な理由があるとまではいえないが、不合理な相違であると断定するまでに至らない場合もあり得ると考えられ、そのような場合には、不合理という評価には至らないとする見解(荒木ほか前掲・235頁等)がある。本判決は、「同条にいう『不合理と認められるもの』とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。」と判示して後者の見解によることを明らかにしている。

(4) 本件諸手当の不合理性についての判断

 本判決は、本件損害賠償請求に関し、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、職務の内容等を考慮して不合理と認められるものに当たるか否かを賃金項目ごとに検討し、本件諸手当のうち、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当及び通勤手当に係る相違は同条にいう不合理と認められるものに当たるとし、住宅手当に係る相違は同条にいう不合理と認められるものには当たらないとした。なお、本判決と同日に言い渡された最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決(平成29年(受)第442号地位確認等請求事件)は、「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」と判示しており、本判決もこのような考え方を前提に、個々の手当の趣旨を個別に考慮して、本件諸手当に係る相違が不合理と認められるものに当たるか否かについて判断したものと思われる。

 本判決は、皆勤手当に係る労働条件の相違について不合理と認められるものに当たると判断した点が、原判決と異なっている。原判決は、契約社員については本人の勤務成績等を考慮して昇給する可能性があることなどから、正社員に対してのみ皆勤手当を支給することは不合理でないとしていた。皆勤の事実を昇給において評価するという仕組みとなっているのであれば、そのことは皆勤手当に係る相違が不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たり、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮することになるとは思われるが、本件では、就業規則等において契約社員は昇給しないのが原則とされている上、皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情がうかがわれないというのであるから、皆勤手当についての原判決の判断には無理があるということであろう。

 なお、本判決は、飽くまでもYにおける本件諸手当に係る相違が不合理と認められるものに当たるか否かについて判断したものであり、手当の名称が同じであっても、手当の趣旨や賃金体系における当該手当の位置付け等は会社によって異なり得るものであるから、不合理と認められるものに当たるか否かの判断は、手当の名称によって一律に定まるものではなく、当該事案の事実関係に照らして、個別具体的に判断されるべきものであることに留意する必要があると思われる。

(5) 本判決の意義

 本判決は、労働契約法20条違反が争われた事案について最高裁が初めて判断を示したものである上、同条の解釈につき見解が分かれていた論点について判断を示すとともに、当該事案への具体的なあてはめを行ったものであることから、理論的にも実務的にも重要な意義を有すると思われる。なお、本判決の評釈として、竹内寿・ジュリ1522号(2018)4頁、大内伸哉・NBL1126号(2018)4頁、野川忍・法時90巻9号(2018)4頁、富永晃一・論究ジュリ26号(2018)140頁、水町勇一郎・労判1179号(2018)5頁等がある。

以上

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