◇SH3870◇最三小判 令和3年7月6日 地方自治法251条の5に基づく違法な国の関与(是正の指示)の取消請求事件(林道晴裁判長)

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  1. 1 沖縄県漁業調整規則(昭和47年沖縄県規則第143号。令和2年沖縄県規則第53号による改正前のもの)41条1項に基づく水産動植物の採捕に係る許可に関する県知事の判断と地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるもの
  2. 2 沖縄県漁業調整規則(昭和47年沖縄県規則第143号。令和2年沖縄県規則第53号による改正前のもの)41条に基づく水産動植物の採捕に係る許可の申請について、県知事において審査基準にいう申請内容の必要性を認めることができないと判断したことが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められた事例

  1. 1 沖縄県漁業調整規則(昭和47年沖縄県規則第143号。令和2年沖縄県規則第53号による改正前のもの)41条1項に基づく水産動植物の採捕に係る許可に関する県知事の判断は、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められる場合には、地方自治法254条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。
  2. 2 公有水面埋立法42条1項に基づく承認を受けた公有水面の埋立てに関し、埋立区域の一部について当該承認に係る願書に記載された設計の概要に含まれていない内容の地盤改良工事を追加して行う必要があることが判明していた場合において、沖縄県漁業調整規則(昭和47年沖縄県規則第143号。令和2年沖縄県規則第53号による改正前のもの)41条に基づき埋立区域内に生息する造礁さんご類を埋立区域外に移植することを内容とする採捕の許可を求める申請について、県知事において審査基準にいう申請内容の必要性を認めることができないと判断したことは、当該造礁さんご類が上記地盤改良工事の対象となっている水域外における護岸造成工事の予定箇所又はその近辺に生息していたなど判示の事情の下では、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められる。
  3.  (2につき反対意見がある。)

(1、2につき)地方自治法245条の7第1項、漁業法(平成30年法律第95号による改正前のもの)65条2項1号、水産資源保護法(平成30年法律第95号による改正前のもの)4条2項1号、沖縄県漁業調整規則(昭和47年沖縄県規則第143号。令和2年沖縄県規則第53号による改正前のもの)33条2項、沖縄県漁業調整規則(昭和47年沖縄県規則第143号。令和2年沖縄県規則第53号による改正前のもの)41条1項、沖縄県漁業調整規則(昭和47年沖縄県規則第143号。令和2年沖縄県規則第53号による改正前のもの)41条2項

(2につき)公有水面埋立法2条2項、公有水面埋立法4条1項、公有水面埋立法13条ノ2、公有水面埋立法42条1項、公有水面埋立法42条3項、行政手続法5条

 令和3年(行ヒ)第76号 最高裁令和3年7月6日第三小法廷判決
 地方自治法251条の5に基づく違法な国の関与(是正の指示)の取消請求事件 上告棄却

 原 審:令和2年(行ケ)第1号 福岡高裁那覇支部令和3年2月3日判決

1 事案の概要

 本件は、普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立て(以下「本件埋立事業」という。)をめぐる国と同県との間の紛争に関し、最高裁が判決を言い渡した3件目の事案である。

 沖縄防衛局は、本件埋立事業につき、平成25年12月、沖縄県知事から公有水面埋立法42条1項に基づく承認(以下「本件埋立承認」という。)を受けたが、平成30年頃までに、埋立区域のうち辺野古崎の東側部分(以下「大浦湾側」という。)の大半の水域(おおむね原判決別紙4のSCP・PD・SD工法範囲に合致。以下「本件軟弱区域」という。)の地盤が軟弱であることが判明したのを受けて、本件埋立承認の願書に記載された設計の概要に含まれない内容の地盤改良工事(以下「本件地盤工事」という。)を追加して行うことを決定した。

 沖縄防衛局は、平成31年4月及び令和元年7月、本件埋立事業に係る環境影響評価書に基づく環境保全措置(造礁さんご類の移植技術に関する試験研究)の実施を目的として、沖縄県漁業調整規則(昭和47年沖縄県規則第143号。令和2年沖縄県規則第53号による改正前のもの。以下「本件規則」という。)41条に基づき、X(沖縄県知事)に対し、大浦湾側に生息する造礁さんご類(原判決別紙4のI・J・P・K地区。以下「本件さんご類」という。)を埋立区域外の近隣の水域に移植することの許可を求める2件の申請(以下「本件各申請」という。)をした。本件さんご類の生息場所は、本件軟弱区域外の護岸造成工事(原判決別紙4のK8及びN2護岸。以下「本件護岸工事」という。)が予定されている箇所又はその近辺に限られていた。

 Xは、本件各申請について、審査基準にいう申請内容の必要性及び妥当性の有無を判断できないなどとして、標準処理期間(45日)が経過した後も何らの処分もしなかった。そこで、Y(農林水産大臣)は、漁業法(平成30年法律第95号による改正前のもの。以下同じ。)及び水産資源保護法(平成30年法律第95号による改正前のもの。以下同じ。)を所管する大臣として、令和2年2月28日付けで、本件各申請を許可する旨の処分(以下「本件各許可処分」という。)をしない沖縄県の法定受託事務の処理が漁業法65条2項1号及び水産資源保護法4条2項1号(以下「漁業法65条2項1号等」という。)に違反するなどとして、同県に対し、地方自治法245条の7第1項に基づき、本件各許可処分をするよう求める是正の指示(以下「本件指示」という。)をした。

 なお、沖縄防衛局は、本件指示の後である令和2年4月、沖縄県知事に対し、公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項に基づき、本件埋立事業に係る設計の概要について、本件地盤工事を追加する旨の変更の承認の申請(以下「本件変更申請」という。)をした。

 本件において、Xは、本件指示が違法な国の関与に当たるとして、地方自治法251条の5第1項に基づき、Yを相手に、その取消しを求めている。主たる争点は、本件指示が同法245条の7第1項の要件を充足するか、より具体的には、本件指示の時点で本件各許可処分をしていないXの対応が、同項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当するかである。

 

2 法令等の定め

 地方自治法245条の7第1項は、各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のために講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる旨を規定する。

 漁業法65条2項1号等は、都道府県知事は、漁業取締りその他漁業調整又は水産資源の保護培養のために必要があると認めるときは、水産動植物の採捕に関する制限又は禁止に関して、規則を定めることができる旨を規定する。漁業法65条2項1号等により都道府県が処理することとされている事務は、法定受託事務である(漁業法137条の3第1項1号、水産資源保護法35条)。

 本件規則は、造礁さんご類を採捕してはならない旨を規定するが(33条2項)、試験研究等のための水産動植物の採捕に係る知事の許可(以下「特別採捕許可」という。)を受けた者が行う当該試験研究等については、同項の規定を適用しないものとしている(41条1項)。なお、「試験研究等」には、公有水面の埋立てに伴う環境保全措置が含まれると解されている(当事者間に争いはない。)。

 

3 原審及び本判決の判断

 第1審である原審(福岡高裁那覇支判令和3・2・3裁判所ウェブサイト)は、本件各許可処分をしない沖縄県の法定受託事務の処理が漁業法65条2項1号等に違反するから、本件指示は地方自治法245条の7第1項の要件を充足し、他に本件指示を違法とする事由もないとして、Xの請求を棄却した。

 Xが上告受理の申立てをしたところ、論旨(排除されたものを除く。)は、本件各許可処分をしないXの対応について、① 仮に瑕疵があるとしても、本件規則という都道府県規則に違反するにとどまり、法令違反が成立する余地はなく(ただし、法定受託事務に該当すること自体は争っていない。)、② この点をおくとしても、上記対応は、本件各申請の内容に必要性を認めることができないという理由によるのであって、漁業法65条2項1号等に違反しないというものである。

 最高裁第三小法廷は、本件を受理した上で、判決要旨1及び2のとおり判断し、Xの上告を棄却した。

 

4 説明

  1. ⑴ 本件規則に基づく特別採捕許可に関する県知事の判断と地方自治法245条の7第1項所定の法令違反(判決要旨1)

 地方自治法245条の7第1項に基づく是正の指示は、同項の文言から、講ずべき措置の具体的な内容を示してすることができると解されているところ(松本英昭『新版 逐条地方自治法〔第9次改訂版〕』(学陽書房、2017)1163頁、成田頼明ほか編『注釈地方自治法〔全訂〕』(第一法規、2000)5878頁〔佐藤英善=寺洋平〕)、本件のように問題となっている法定受託事務の処理が不作為である場合には、指示の内容は、①一定の期間内に何らかの措置を講ずべきというもの(措置の内容までは特定しないもの)と②一定の期間内に特定の措置を講ずべきというもの(措置の内容も特定するもの)の2通りが考えられ、本件指示は②の類型に該当する。このことを前提とすると、法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認められるためには、①の類型については「相当の期間」の経過があれば足りると解される一方(不作為の違法確認の訴えに関する行政事件訴訟法3条5項、普通地方公共団体の不作為に関する国の訴えに関する地方自治法251条の7第1項参照)、②の類型については、これに加えて、特定の措置を講ずべきことがその根拠となる法令の規定から明らかであると認められ、又は当該措置を講じないことが裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められることが必要であると考えられる(義務付けの訴えに関する行政事件訴訟法37条の2第5項、37条の3第5項参照)。

 「法令」の文言は、例えば刑訴法335条1項のように、地方公共団体が制定する条例及び規則を含むものとして使用される場合もあるが(角田禮次郎ほか編『法令用語辞典〔第10次改訂版〕』(学陽書房、2016)711頁)、地方自治法245条の7第1項にいう「法令」は、法律又はこれに基づく政令をいうと解されている(前掲・成田ほか編5877~5878頁〔佐藤=寺〕)。本件指示も、本件規則41条1項それ自体ではなく、漁業法65条2項1号等に違反することを理由とするものであり、上記のような理解に基づいてされたと考えられる。もっとも、漁業法65条2項1号等は、都道府県知事に規則の制定を授権する規定であって、その文言を形式的に当てはめると、当該規則に基づく個別具体的な措置に瑕疵があることから直ちに、「法令」である漁業法65条2項1号等に違反するとまではいい難いようにも思われる。

 しかし、漁業法65条2項1号等は、都道府県知事の定める規則のみではなく、当該規則及びこれに基づく行政庁の個別具体的な措置(裁量判断)の双方により、漁業法及び水産資源保護法の目的を達成しようとする趣旨の規定であると解される。すなわち、海その他の公共の用に供する水面については、本来、広域的な水産資源の適正な管理の責務を有する国において、利用の制限又は禁止等の措置を講ずる必要があるが、都道府県の区域ごとに講ずべき措置については、その内容を一律に規定することが困難であり、また、事情に応じて随時の変更を要するものが多いという性質があることから、漁業法65条2項1号等は、当該措置に関する規定を都道府県知事の定める規則に委ねることとした規定である(漁業法研究会『最新逐条解説漁業法』(水産社、2008)312~313頁、金田禎之『新編 漁業法詳解〔増補5訂版〕』(成山堂書店、2017)348~349頁)。そうすると、漁業法65条2項1号等は、都道府県知事による規則の制定に当たり、専門技術的な知見を踏まえ、個別具体的な事情に即した妥当な措置がされることを確保するため、当該措置を個別の事案ごとの行政庁の裁量判断に委ねることを当然に予定していると解される。

 本判決は、このような漁業法65条2項1号等の趣旨を踏まえ、判決要旨1のとおり、本件規則41条1項に基づく特別採捕許可に関する県知事の判断は、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められる場合には、地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当すると判断した。

  1. ⑵ 本件各申請の必要性を認めなかった県知事の判断の適否(判決要旨2)

 Xは、本件各申請について、審査基準にいう申請内容の必要性及び妥当性を認めることができないとして本件各許可処分をしなかったところ、この必要性に関する判断が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められなければ、この不作為が漁業法65条2項1号等に違反していることを理由に、本件各許可処分をすべき旨の是正の指示(上記 ⑴ ②の類型)をすることはできないと解される。

 判断枠組みについては、特別採捕許可に関する県知事の判断(作為)は、上記 ⑴ のとおり裁量判断であると解されるから、これが裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、重要な事実の基礎を欠く場合、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認めるのが相当であり(最三小判平成18・2・7民集60巻2号401頁、最二小判平成19・12・7民集61巻9号3290頁等参照)、特別採捕許可の申請に対して応答しない県知事の不作為についても、これが裁量権の行使に基づくものである場合には、上記の作為と別異に解すべき理由はないと考えられる(義務付けの訴えに関する行政事件訴訟法37条の2第5項、37条の3第5項参照)。また、行政手続法5条に基づいて上記審査基準が定められ公にされていることからすれば、仮に上記審査基準の定める要件の充足が認められる場合には、申請を認容しない県知事の対応は、これを相当と認めるべき特段の事情がない限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると解すべきであろう(同法12条所定の処分基準に関する最三小判平成27・3・3民集69巻2号143頁参照)。

 本件各申請は、本件さんご類を本件埋立事業から避難させることを目的とするものであったから、その内容の必要性に関する判断の適否を検討するに当たっては、前提として、本件指示の時点で、本件地盤工事を追加して行う必要があるとされていた本件埋立事業について、沖縄防衛局において、本件さんご類の生息場所及びその近辺で予定されている本件護岸工事を適法に行うことができたかが問題となる。公有水面埋立法上、国の官庁は、都道府県知事の承認を受けて初めて、埋立てを適法に実施し得る地位を得ると解されており(最一小判令和2・3・26民集74巻3号471頁参照)、変更後の設計の概要による埋立てについても同様に解するのが相当である。もっとも、同法上、当初の承認を受けた後に設計の概要を変更する必要が生じた場合に、当該承認に基づく工事を中断すべき旨の規定はないから、当該官庁は、当該変更の承認を受けていない段階でも、当該変更に含まれない範囲の工事については、特段の事情のない限り、当初の願書に記載された設計の概要に基づいて適法に実施し得ると解される。そうすると、沖縄防衛局は、本件埋立承認に係る設計の概要に基づき、本件護岸工事を適法に実施し得る地位を有していたと解される。

 Xは、上記の解釈それ自体を積極的に争っていたわけではないが、さんご類の移植後の生残率が高くない(移植から4年後の生残率が20%以下というデータもある。)ことを踏まえ、本件各申請の内容に必要性があると認められるには、本件さんご類の一定割合の死滅を正当化し得る事情として本件埋立事業の目的達成の見込みがあることを要するとした上で、埋立区域の相当部分に本件地盤工事の実施が必要であり、本件指示の時点でこの工事を追加する旨の本件変更申請すらされていなかったため、上記見込みを認めることはできないという考慮に基づき、上記必要性を認めることができないと判断したことがうかがわれる。

 しかし、本判決(多数意見)は、判決要旨2のとおり、Xの上記判断について、当然考慮すべき事項を十分に考慮していない一方で考慮すべきでない事項を考慮した結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであるとして、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるものと認めた。具体的には、水産資源の保護培養を図るなどの漁業法及び水産資源保護法の目的を実現するには、本件護岸工事により死滅するおそれのある本件さんご類を避難させる必要があったというほかなく、本件埋立承認及びその出願の内容等に照らすと、当該出願の添付図書に適合する妥当な環境保全措置が採られる限り、本件護岸工事の実施は上記目的にも沿うといえるのであるから、Xの上記判断は、この工事を適法に実施し得る沖縄防衛局の地位を侵害するという不合理な結果を招来するとした。

 判決要旨2については、宇賀裁判官及び宮崎裁判官の各反対意見が付されている。いずれの反対意見も、本件地盤工事の対象となっている水域(本件軟弱区域)が広範囲に及んでいて本件護岸工事のみを実施することに意味はないこと等から、本件各申請を審査するに当たっては、本件埋立事業の目的が達成される見込み(具体的には本件変更申請が承認される蓋然性)の有無や程度等が考慮すべき事項に含まれるとした上で、Xの上記判断が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認めることはできないとしたものである。

 

5 本判決の意義

 本判決は、都道府県知事の定める規則に基づく措置と地方自治法245条の7第1項所定の法令違反との関係について、当審として初めて、具体的な法令の趣旨を踏まえた柔軟な解釈を示すとともに、目的を異にする複数の法令等の規定が交錯する場面における裁量処分の適否について、各規定の整合的な解釈を踏まえた事例判断を示したものとして、実務上も理論上も重要な意義を有すると考えられる。

 なお、本判決の評釈等として、徳本広孝「判批」法学教室494号(2021)136頁がある。

 

 

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