◇SH2209◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(120)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する㉚岩倉秀雄(2018/11/27)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(120)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉚―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、雪印食品(株)の牛肉偽装事件が親会社の雪印乳業(株)へ与えた影響と会社の解散について述べた。

 雪印乳業(株)は、社会的信用を失墜し組織の存在価値そのものを問われた。

 雪印乳業(株)は、「市乳事業の分社化と農協や生産者からの出資を求める方向」、「雪印乳業本体は付加価値の高い乳製品事業に集中し収益構造の改善を図る」、「資本増強や提携で財務体質を強化し企業イメージの刷新を目指す」、「3月末までに具体的な再建策を公表する」、「雪印食品㈱の存続は、同社の再建策を見て検討する」ことを表明したが、その後、雪印食品㈱は2002年4月30日に解散した。

 牛肉偽装事件により、元幹部社員5名と元専務・元常務が詐欺容疑で逮捕・起訴され、元幹部社員5名は執行猶予付き有罪判決を受け、元専務と元常務は無罪判決を受けた。また、法人としての雪印食品㈱は、食品衛生法違反と不正競争防止法違反で書類送検された。

 雪印食品(株)の元株主が清算中の同社元役員13名に対して株主代表訴訟を提訴し、別の元株主は損害賠償請求を行ったが、それぞれ請求は棄却された。

 雪印食品一般労働組合は、パート社員・嘱託・アルバイト約1,000人の解雇発表に対し、解雇の撤回を申し入れ、さいたま地裁に従業員地位保全仮処分の申し立てを行なった。

 また、雪印食品(株)の解散後は、雪印乳業(株)に組合員の雇用を要求し、雪印乳業(株)との団交応諾を求め、地労委に不当労働行為の申し立てを行ない、雪印乳業(株)東京本社前で抗議行動や株主総会での不規則発言をしばしば行なった。

 その後、会社と組合は協議を重ね、2004年9月に和解が成立した。

 今回は、雪印食品牛肉偽装事件後の雪印乳業(株)の経営再建策について考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉚:牛肉偽装事件後の経営再建①】(『雪印乳業史 第7巻』441頁~451頁より)

 筆者は、雪印乳業㈱が市乳事業を切り離し全農・全酪連の子会社と共に新会社を設立する際に、全酪連乳業統合準備室長兼日本ミルクコミュニティ(株)設立準備委員会事務局次長として会社の設立に関わり、新会社設立後は、日本ミルクコミュニティ(株)の初代コンプライアンス部長として移籍し、コンプライアンス体制をゼロから構築・推進した。

 その経緯については、不祥事発生3組織による合併会社の設立の課題とコンプライアンス施策の留意点として参考になると思われるので、別途後述する。

 

【新経営再建計画】

 2002年3月28日、雪印乳業(株)は記者会見を行い、業績予想を下方修正(雪印乳業単体の売り上げを287億円マイナスして3,633億円、経常利益を116億円マイナスして▲336億円、当期利益を485億円マイナスして▲705億円)するとともに、6月の定時株主総会で西社長以下現経営陣の退任と以下の新再建計画の骨子「新生雪印に向けた取組みについて」を発表した。(『雪印乳業史 第7巻』441~446頁)

1. 資本提携

 全農(筆頭株主)、伊藤忠商事(株)、農林中央金庫を中心に複数企業との提携を行う。

2. 事業戦略

 雪印乳業(株)は収益性が高く原料調達力、商品開発力、生産技術力、販売力のある乳食品・原料乳製品に経営資源を集中し、(1)市乳事業は全農・全酪連と新会社を設立する、(2)アイスクリーム事業はロッテ(株)と新会社を設立する、(3)医薬品事業(経腸栄養剤)は、イーエヌ大塚製薬㈱と合弁会社を設立する、(4)冷凍食品事業は、雪印冷凍食品(株)を設立した後、伊藤忠商事㈱と㈱アクリを設立する、(5)育児品事業は、ネスレジャパンホールディング(株)との事業提携に向けて検討中

3. 財務体質の強化

 (1)現経営陣の退陣と併せ金融支援を要請し減資(資本金5億円を残し273億円の減資と普通株2株を1株に併合、減資に先立ち資本準備金189億円全額を取り崩す)、(2)増資(全農、伊藤忠(株)等に100億円規模の第三者割当増資)を実施し、(3)農林中金はじめ主要金融機関から債務免除、及び債務の一部を株式に転換するデット・エクイテイ・スワップ、合わせて500億円規模の金融支援を要請する。(これにより、2003年3月末の有利子負債を950億円に圧縮し、同年6月末の未処理損失は115億円まで減少する予定。)

4. 数値計画

 2003年度は黒字化に転換し、2005年度は未処理損失を一掃、2006年度から復配を目指す。

5. 企業体質の変革

 (1) 資本提携による企業体質の変革

 (2) 社外取締役の選任による経営体制の刷新

 (3) 社外の専門家が参画する倫理・品質委員会の設置・充実

 (4) 社員による変革運動と女性アドバイザーの招聘による社内意識改革

 (5) お客様モニター制度により、お客様の意見を企業経営に反映する。

6. 大規模な雇用調整

 1,300名規模の雇用調整を2002年9月末までに実施する。(これにより2002年4月1日現在5,000名体制が、事業提携により新会社へ転籍する者や自然退職者が出ることから、2003年4月1日には1,500名体制になるとした。)[1]

 次回からは、新再建計画の実際の進捗結果について考察する。



[1]雪印乳業(株)は、食中毒事件後と牛肉偽装事件後の2回の雇用調整に当たり、どちらの場合にも退職者への経済的支援(特別退職手当の支給や再就職先の斡旋、有給休暇の買い上げ等)を実施したが、内容は経営実態を鑑みて異なっている。1回目の募集対象者は、45歳以上60歳未満の経営職及び50歳以上60歳未満の一般職で入社5年以上の者としたのに対して、2回目は年齢制限、入社年数を撤廃した。また、割増した特別退職手当は、1回目に比べて2回目は大幅に減額された。その結果、2回目の雇用調整では将来を嘱望された若手社員の応募も少なくなかった。(雪印メグミルク編『雪印乳業史 第7巻』(雪印メグミルク、2016年)446頁)なお、筆者と同様に日本ミルクコミュニティ(株)設立準備委員会に派遣されていた雪印乳業(株)出身の優秀な若手社員も、新会社の設立めどが立った段階で辞めていった。

 

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