最高裁、日産元従業員の営業秘密領得事件で上告棄却・有罪の決定
――「不正の利益を得る目的」を職権判断、執行猶予付き判決が確定へ――
最高裁判所第二小法廷(山本庸幸裁判長)は12月3日、勤務先のサーバーにアクセスして営業秘密をその管理に係る任務に背き領得したとして不正競争防止法違反(営業秘密の領得)の罪に問われた被告人の上告を棄却する決定を行った。懲役1年、執行猶予3年とした第1・2審判決が確定する。
被告人は日産自動車の従業員であっていすゞ自動車への転職直前となる平成25年7月、自宅や日産自動車関連施設から同社のサーバーにアクセスし、不正の利益を得る目的で、商品企画に関する情報など複数のデータファイルについて複数回にわたり複製を作成したとされる。日産自動車は被告人退職後の同年11月および翌26年1月に被告人を告訴し、神奈川県警生活経済課などが平成26年5月13日、不正競争防止法違反(営業秘密の領得)の疑いで逮捕。横浜地検は同年10月22日、同法違反(営業秘密の領得)の罪で在宅起訴した。
1審・横浜地裁(近藤宏子裁判長)は平成28年10月31日、各データファイルの複製の作成について、被告人にはこれらの情報を転職先等で直接的または間接的に参考にして活用しようとしたなどといった不正の利益を得る目的があったものと認め、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決(求刑・懲役1年6月)。原判決となる2審・東京高裁(大熊一之裁判長)も平成30年3月20日、これを是認して被告人の控訴を棄却していた。
被告人側は(ア)複製の作成は業務関係データの整理や記念写真の回収を目的としたものであり、転職先等で直接的または間接的に参考にするなどといった目的はなかった、(イ)不正競争防止法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があるというためには、正当な目的・事情がないことに加え、当罰性の高い目的が認定されなければならず、情報を転職先等で直接的または間接的に参考にするなどという曖昧な目的はこれに当たらないなどと主張して、上告。
最高裁決定では、(1)被告人は日産自動車で主に商品企画業務に従事していたがいすゞ自動車への就職が決まり、平成25年7月31日付で退職することとなったこと、被告人はいすゞ自動車では海外で車両の開発・企画等の業務を行うことが予定されていたこと、(2) 複製された各データファイルは日産自動車独自のマニュアルやツールファイル、経営会議その他の会議資料、未発表の仕様等を含む検討資料等で、いずれもアクセス制限のかけられたサーバーに格納されるなどの方法により営業秘密として管理されていたこと、(3)被告人は日産自動車から会社パソコンを貸与され、持ち出して社外から社内ネットワークに接続することの許可を受けていた一方で、私物の外部記録媒体を業務で使用したり、社内ネットワークに接続したりすること、会社の情報を私物のパソコンや外部記録媒体に保存することは禁止されていたこと、(4)各データファイルを複製した後、最終出社日とされていた7月26日までの間に、被告人が複製したデータファイルを用いた日産自動車の通常業務、残務処理等を行ったことはなかったことに加え、(5)荷物整理等のためという理由で許可を受けて出勤した翌27日、関連施設において、被告人が持ち込んだ私物のハードディスクを会社パソコンに接続してサーバーから複製しようとしたデータが膨大であったためその一部を複製したにとどまったこと、このうち「宴会写真」フォルダを除く3フォルダには「それぞれ商品企画の初期段階の業務情報、各種調査資料、役員提案資料等が保存されており、日産自動車の自動車開発に関わる企画業務の初期段階から販売直前までの全ての工程が網羅されていた」とする各事実を改めて仔細に認定した。
そのうえで「被告人は、勤務先を退職し同業他社へ転職する直前に、勤務先の営業秘密である(略)各データファイルを私物のハードディスクに複製しているところ、当該複製は勤務先の業務遂行の目的によるものではなく、その他の正当な目的の存在をうかがわせる事情もないなどの本件事実関係によれば、当該複製が被告人自身又は転職先その他の勤務先以外の第三者のために退職後に利用することを目的としたものであったことは合理的に推認できる」として「不正の利益を得る目的」があったと指摘。同旨の1審判決を是認した高裁判決を正当としている。