◇SH2281◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第1回) 齋藤憲道(2019/01/17)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

はじめに

1. 活力を生む「経営管理システム」の必要性

 企業では、様々な経営資源を用いて事業の目的・目標を実現するために、「組織」を作って事業活動の単位とし、そこに「経営管理システム」を組み入れて経営活動を行っている。

 ところが、これまで多くの企業で不正行為や製品事故が発生し、そのたびに同種の不祥事の再発防止を目的として法令が改正され、様々な規制が導入・強化されてきた。

 第1に、粉飾決算が問題になると、会社法(旧商法)・金融商品取引法(旧証券取引法)等が改正されて監査役(会)・会計監査人等の権限と独立性が強くなった。

 第2に、製品事故・消費者問題・営業秘密流出等の大きな不祥事が発生すると、個別の業法や消費者関連法制が整備された。

 第3に、この第1、第2と並行して、コーポレート・ガバナンス、内部統制、コンプライアンス、リスク・マネジメント等の切り口で、再発防止が図られている。

 第1から第3の取り組みは、いずれも同じ企業経営を対象にしており、その結果、企業の管理間接業務が重層化して、その生産性が低迷している。

 そして、日々、生産性を追求している現場からは、「様々な監査に対応するのが大変」あるいは「これ以上手間のかかる管理は、無理」という悲鳴が聞こえる。

 景気が堅調に推移して人手が不足する今こそ、高い生産性と高い自己浄化能力を備えた「経営管理システム」を開発・導入する好機である。

  1. (注)「組織」については「経営管理システム」に密接に関わる範囲内(決裁規程で定める権限移譲、内部牽制や監査における中立的立場の確保等)で検討する。本稿では、事業・地域・機能(職能)の組み合わせや、小集団活動・事業部制・分社制・持株会社制・グローバル地域制等の検討は省略する。

 

2.「経営管理システム」に組み入れたい「高い生産性」と「高い自己浄化能力」

 「経営管理システム」には、企業価値向上とコンプライアンス確保の2大目的がある。

 前者には、人材・資金・その他の資産を有効に活用し、開発・生産・販売等の業務において「高い生産性」を発揮する管理システムが必要である。後者は、法令や社内規程等の基準・規格を厳格に守りながら業務を遂行し、基準等から外れた行為や製品を直ちに見つけて取り除き、再発させない「高い自己浄化能力」を有する管理システムを必要とする。

 企業の実務でこの2種類の管理システムを単純に積み上げると、重複作業が生じて生産性が下がる。そこで、本稿では、「高い生産性」と「高い自己浄化能力」を兼備する「経営管理システム」のあり方を、次の考え方に立って検討する。

  1. ⑴ 直接業務(開発、設計、生産、販売等)及び間接業務(人事、経理、情報システム等)において「高い生産性」を確保する「経営管理システム」を基本とし、その中に、不正行為や規格外品を最小コストで確実に(できれば自動的に)除去する「高い自己浄化能力」を付け加えて、全体が一つのシステムとして運用されるのが望ましい。
  2. ⑵ 万一、上記⑴で捕捉できなかった不正行為と規格外品は、予め準備した別の手段で速やかに発見し、100%除去する。
  3. ⑶ その上で、根本的な再発防止策を実施し、管理水準を不可逆的に向上させる。
     

3. 具体的な検討方法

 企業経営に貢献する「経営管理システム」について考えるときは、各種の「業法」を通じて事業の現場の業務を理解した上で、業務プロセスを標準化したJISやISO等の「製品規格」及び「マネジメントシステム規格」を参考にする。業法や公的な規格は、考え方が整理されているので、経営管理を考察する上で役に立つ。

 本稿の構成とその内容は、次の通りである。
 

 第1章 日本の法制度と企業の経営管理の沿革、従来の重大リスク発見法と今後の課題

 第2章 「経営管理システム」に組み入れたい「規範」を遵守する仕組み

 第3章 現場の管理業務と企業全体の管理

 第4章 経営に貢献する監視・監査のあり方、「高い自己浄化能力」の確保に必要な要素と人材
 

 本稿では、会社の機関を精緻に書き分けて「木を見て、森を見ず」の結果に陥るよりも、「高い生産性」と「高い自己浄化能力」の実現方法を考える力を養うことを優先する。

 そこで、厳密な専門用語はできるだけ使わず、次の⑴~⑶を心がけて記述した。

  1. ⑴ 基本的に、会社法が定める「大会社[1]」かつ「公開会社(上場会社)」である「監査役会設置会社」を想定する。
  2. ⑵ 会社の決算を表す書類は、できるだけ総称して「決算書類」という。
  3.  「決算書類」には、法人税法等の「確定申告書に添付する貸借対照表・損益計算書等(通称、決算書)[2]」、会社法の「計算書類[3]」、金融商品取引法の「財務諸表[4]」を含む[5]
  4. ⑶ 法令の題名・条文を詳述する場合は、混乱を避けるために、原文に沿って記載する。

 本稿が、今後の「経営管理システム」のあり方を考えるための参考になれば幸いである。



[1] 「大会社」=資本金が5億円以上、又は負債の総額が200億円以上の株式会社(会社法2条6号)。「公開会社」=発行する株式の全部又は一部の株式の内容として「譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する」旨の定款の定めを設けていない株式会社(会社法2条5号)。なお、平成15年(2003年)改正公認会計士法が公認会計士・監査法人の監査証明業務と非監査証明業務の同時提供・継続的監査・単独監査を規制する「大会社等」の範囲は、会社法の「大会社」とは異なる。(「大会社等監査における規制対象範囲について<平成20年2月13日改訂>日本公認会計士協会」を参照)

[2] 法人税法74条3項、144条の6第3項

[3] 会社法435条、会社計算規則59条、61条

[4] 金融商品取引法24条1項、財務諸表等規則

[5] いずれにも損益計算書・貸借対照表・株主資本等変動計算書が含まれ、その内容も(表記方法を除いて)一致しているが、これら以外の附属書類等の構成は各法令の目的に応じて異なる。

 

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