◇SH2288◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(21) 江藤真理子(2019/01/21)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(21)

不合理な待遇の相違等を解消するための実務対応

TMI総合法律事務所

弁護士 江 藤 真理子

 

 

Ⅸ 不合理な待遇の相違等を解消するための実務対応

1 「同一労働同一賃金ガイドライン」の公表

 働き方改革関連法の成立により、不合理な待遇の禁止(改正パートタイム・有期雇用労働法8条)と差別的取扱いの禁止(同法9条)が明確化されたことを受け、政府は、平成30年12月28日付けで「同一労働同一賃金ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を公表した。ガイドラインでは、同一の企業・団体における通常の労働者(以下「正規雇用労働者」という。)と短時間・有期雇用労働者や派遣労働者(以下「非正規雇用労働者」という。)との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱い等(以下「不合理な待遇の相違等」という。)について、事例等が示されている。ガイドラインは、改正法の施行時期に合わせて2020年4月1日以降適用されるが(中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は2021年4月1日)、企業としては、現時点からガイドラインをよく検討し、自社における不合理な待遇の相違等の有無を確認するべきである。

 

2 不合理な待遇の相違等の解消方法

 それでは、不合理な待遇の相違等があると認められる場合、企業はいかにこれを解消すべきであろうか。法の趣旨からすれば、労働条件の引き上げによる解消が望まれているのはいうまでもないが、企業努力によっても、労働条件の引き上げには限界がある。企業としてはいかなる対応をとるべきであろうか。

(1) ガイドラインに記載のある二つの方法について

 この点、ガイドラインは二つの手法を例示し、このような方法では不合理な待遇差は解消されないとの考え方を示している。少なくとも企業としては、この二つの手法又はそれに類似する方法をとるべきではない。

 まず、「雇用管理区分を新たに設け、当該雇用管理区分に属する通常の労働者の待遇の水準を他の通常の労働者よりも低くしたとしても、当該他の通常の労働者と短時間・有期雇用労働者等との間でも不合理な待遇の相違等を解消する必要がある」としている。つまり、非正規雇用労働者の待遇の相違等を解消しようとする場合、低待遇の正規雇用労働者を創出したとしても不合理な待遇差の解消策とはならず、その比較対象は、あくまでも既存の正規雇用労働者となることが明確にされている。

 次に、「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者等との間で職務の内容等を分離した場合であっても、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者等との間で不合理な待遇の相違等を解消する必要がある」としている。これは、正規雇用用労働者と非正規雇用労働者との間で、形式的に職務内容等を分離(区別)したとしてもそれだけでは不合理な待遇差の解消策とはならない、あくまでも職務内容等の実質的な相違から待遇差が合理的であると考えられるか否かが問われることになる、との趣旨である。

(2) ガイドラインにおける就業規則の不利益変更の考え方

 また、ガイドラインは、「雇用する労働者の労働条件を不利益に変更する場合」、「原則として労働者と合意する必要がある」ことと(労働契約法9条)、「変更は、労働契約法第十条の規定に照らして合理的なものである必要がある」(同法10条)との就業規則の不利益変更に関する法規制に言及しながら、「労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げることは、望ましい対応とはいえない」、「待遇の体系を、労使の話し合いにより、可能な限り速やかに、かつ計画的に構築していくことが、同一労働同一賃金の実現には望ましい」との考え方を示している。

(3) 実務対応

 上記のガイドラインを踏まえて実務的にどう対応すべきかを検討する必要があるが、労働条件の切り下げを含む内容について労働者の合意を得ることはそう簡単ではない。また、労働者の形式的な合意は万能ではなく、合意の有効性が問題になる可能性はあるし、大多数の労働者の合意があっても、ごく一部の労働者が変更内容の合理性を争ってくる可能性は残る。得られるかどうかわからない合意を得るための手続には手間がかかり、企業の負担は相当重く、企業としては、労使協議に気乗りしないということもあるだろう。

 さはさりながら、企業が、労働者の合意を得る努力をすることで労働条件に関する納得性が高まり、紛争が顕在化しない効果は相当程度あるものと期待される。また、不利益変更の合理性に関する裁判所の判断の予測可能性が低い中、できる限り多くの労働者の合意があることが企業側に有利に働くことはほぼ間違いない。合意を得る努力なしで手続を進めた結果、あとから無効だと判断された場合に企業が被るダメージが極めて大きいことを考えると、やはり労使間合意を目指す努力をすることが実務上は極めて重要である。

 つまり、企業として熟慮を重ね、労働者が同意することが見込まれるような客観的な合理性のある条件を策定し、労使協議を重ね、時には労働者側の提案も一部取り入れるなどして合意形成を目指すことが、回り道であるようで、紛争化させないための早道であろう。企業には、ガイドラインの基本的な考え方に沿いながら対応を進めることが期待される。

以上

 

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