コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(144)
―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑯―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、情報開示規則の制定とコンプライアンス委員会について述べた。
危機管理体制の一環として、情報開示の基本的な考え方と実施基準を情報開示規則として定めた。
情報開示規則は、想定される危機を4つの判断基準(健康被害の拡大可能性、法令違反、社会的信用失墜の可能性、経済的損失拡大可能性)に基づいて分類・点数化し、その点数に基づいて情報開示行動を決定するもので、危機のレベルを点数化した情報開示判定シートによる判定結果を基に、最終的には危機対策本部長(代表取締役社長)が、開示方法を決定するというものであった。
コンプライアンス委員会は、グループ全体にコンプライアンスの徹底を図るために、コンプライアンスに関わる重要方針・事業計画を立案、審議、決定、推進することを目的に設定した。
代表取締役社長が委員長、同専務が副委員長、常務取締役、執行役員、コンプライアンス部長が委員、顧問弁護士がアドバイザーとなり、監査役は出席して意見を述べることができるとした。
また、グループ会社からは主に社長又はコンプライアンス担当役員が出席し、グループ全体でコンプライアンスに関する認識と情報の共有化を図った。
委員会における審議事項は、①コンプライアンスの基本方針・事業計画に関すること、②メグミルク行動規範の周知・浸透・見直し等に関する事項、③コンプライアンスの組織体制に関する事項、④子会社、関係会社(取引先含む)に対するコンプライアンスの強化・推進に関する事項、⑤その他コンプライアンスに関する事項とした。
また、本社各部や各事業部には、それぞれの長を中心とした活動組織を設定し、実務のコンプライアンス推進者をコンプライアンスリーダーとして課長クラスをあてた。
この委員会の設立後は、日本ミルクコミュニティ(株)グループ全体のコンプライアンスの取組みは、組織的・計画的になり大幅に前進した。
今回は、コンプライアンス研修とコンプライアンス定着度評価アンケートについて考察する
【日本ミルクコミュニィティ㈱のコンプライアンス⑯:コンプラインス体制の構築と運営③】
1. コンプライアンス研修
コンプライアンスの組織内への浸透・定着においてコンプライアンス研修は基本となる非常に重要な活動である。
コンプライアンスに関する組織とグループ会社の認識を高め情報の共有化を図るために、コンプライアンス部が各場所に出向いて、主に会社の理念、行動規範、人権、環境法令順守、ハラスメントの防止、不正競争防止法強化への対応、情報セキュリティ対策、個人情報保護法や公益通報者保護法の施行への対応等、時代が要請する法的トピックやリスクへの対応のほか、MEGホットラインの周知徹底、コンプライアンスアンケート結果や従業員特別相談窓口への相談から学ぶべき注意点等について研修を行った。
現場に出向いての研修は、集合研修のように間接的ではなく、現場の人に直接情報を伝え質疑応答を通して現場の理解が深まるというメリットがあった。
時には、現場の抱えている問題点を直接相談されることもあり、コンプライアンス部門にとってリスクの把握と削減に役立つ面があった。
また、顧問弁護士とコンプライアンス部が共同で各場所に出向き研修を実施したが、特に顧問弁護士が各場所でコンプライアンスの重要性や業務に関連する従業員の法的質問に直接回答することは、コンプライアンスに関する認識を深める上で非常に役立った。
そのほかに、人事部門の階層別研修、コンプライアンスリーダー研修、社長以下幹部社員への有識者によるコンプライアンス研修等、様々な階層に対して多様なコンプライアンス研修を実施した。
コンプライアンス定着度評価アンケート結果が芳しくない場所においては、違反リスクを削減し不祥事の発生を予防するために、特に集中的に何度も徹底的にコンプライアンス研修を行なった。
更に、グループ会社のコンプライアンス部門と連携し、グループ会社の社長以下経営幹部に対するコンプライアンス研修を実施した他、コンプライアンスに関するDVDを購入し貸し出すことにより、各活動組織の自主的なコンプライアンス研修を支援した。
2. コンプライアンス定着度評価アンケート
コンプライアンス定着度評価アンケートは、研修とともにコンプライアンスの浸透・定着の現状と課題を認識し対応策を策定・実施する上で重要なツールである。
設立後間もない価値観の異なる者の集まりである合併新会社において、コンプライアンス定着度評価アンケートは、組織のコンプライアンス状況を把握する上で非常に重要なツールであったが、筆者は、アンケートを、単なる組織のコンプライアンス状況を把握し経年変化を追う道具ではなく、アンケートを通して組織の課題や問題点を把握し、それに対応することによってコンプライアンスリスクを削減するためのツールと位置付けた。
アンケートの様式は無記名でコンプライアンス活動組織単位毎に実施したが、定型の質問以外に自由記入欄を設け、アンケートに回答した個人の特定はできないようにした上で、活動組織単位毎の回答結果を把握できるようにした。
そして、各活動組織単位のアンケート結果を比較・検討することにより各活動組織単位の課題を明確にし、活動組織単位のコンプライアンス責任者にフィードバックして改善を促すとともに、内部監査時にはその改善状況を確認・検証した。
また、特に緊急性を要する場合には、活動組織単位のコンプライアンス責任者と連携して対応策を協議・実施した。
毎年のコンプライアンスアンケートの結果と課題及び内部監査時の確認・検証結果を整理して、コンプライアンス委員会に報告した。
更に、アンケート調査結果の時系列変化を踏まえて、次年度のコンプライアンス方針と重点活動計画の策定にも役立てた。
(つづく)