◇SH2399◇「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定 齋藤弘樹(2019/03/13)

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「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定

岩田合同法律事務所

弁護士 齋 藤 弘 樹

 

 平成31年3月1日、「特許法等の一部を改正する法律案」(以下「本法律案」という。)が閣議決定された。本法律案は現在開会中の第198回国会(通常国会)に提出される予定である。

 本法律案の内容は、知的財産権に関する訴訟制度の改善と意匠制度等の強化等であり(主な内容は下表のとおり。)、多くの企業が関心を有する内容と考えられることから、ここで解説する。

 

 本法律案は、下表のとおり、特許法を一部改正するものである。

 

【特許法の一部改正】

改正の内容

改正内容の説明

中立な技術専門家が現地調査を行う制度(査証)の創設

特許権の侵害の可能性がある場合、中立な技術専門家が、被疑侵害者の工場等に立ち入り、特許権の侵害立証に必要な調査を行い、裁判所に報告書を提出する制度を創設する。

  1. 損害賠償額算定方法の見直し
  2. ※ 実用新案法、意匠法及び商標法において同旨の改正を実施する。
  1. ・ 侵害者が販売した数量のうち、特許権者の生産能力等を超えるとして賠償が否定されていた部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、損害賠償を請求できることとする。
  2. ・ ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、特許権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。

 

 以下、特許法の一部改正について、解説する。

(1) 査証制度

 査証制度については、①侵害行為の立証に必要で、②特許権侵害の蓋然性があり、③他の手段では証拠が十分に集まらず、④相手方の負担が過度にならない場合に、利用することができる。[1]特許庁によれば、査証制度は、製品を分解しても分からない又は入手できない等の場合、たとえば製造方法、BtoB製品、プログラム等の事案に有効である、とのことである。

(2) 損害賠償額算定方法

 特許権者が侵害者に対し、特許法102条1項に基づき損害賠償請求を行う場合、侵害者が販売した数量のうち、特許権者の生産能力等を超える部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、損害賠償を請求できることになる(経済産業省の公表資料より引用した下図参照。)。これにより、中小・ベンチャー企業等といった生産能力を十分有しない企業が特許権者となった場合等にも救済範囲の拡張が見込まれる。

 

 

 また、特許権者は侵害者に対し、改正後特許法102条1項2号に基づき侵害者が販売した数量のうち、特許権者の生産能力等を超える部分についてライセンス料相当額の損害賠償請求を行うことや、改正前後を問わず特許法102条3項に基づき侵害者が販売した数量全体についてライセンス料相当額の損害賠償請求を行うことができるが、裁判所がこれらのライセンス料相当額を算定するにあたり、特許権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できることになる。[2]これによりライセンス料相当額が従前より高めに算定されることが見込まれる。

 

 本法律案は、下表のとおり、意匠法を一部改正するものである。

【意匠法の一部改正】

改正の内容

改正内容の説明

保護対象の拡充

物品に記録・表示されていない画像や、建築物の外観・内装のデザインを、新たに意匠法の保護対象とする。

関連意匠制度[3]の見直し

  1. ・ 関連意匠の出願可能期間を、本意匠の登録の公表日まで(8か月程度)から、本意匠の出願日から10年以内までに延長する。
  2. ・ 関連意匠にのみ類似する意匠の登録を認める。

意匠権の存続期間の変更

意匠権の存続期間を「登録日から20年」から「出願日から25年」にする。

意匠登録出願手続の簡素化

  1. ・ 複数の意匠の一括出願を認める。
  2. ・ 物品の名称を柔軟に記載できることとするため、物品の区分を廃止する。

間接侵害[4]規定の拡充

「その物品等がその意匠の実施に用いられることを知っていること」等の主観的要素を規定することにより、取り締まりを回避する目的で侵害品を構成部品に分割して製造・輸入等する行為を取り締まれるようにする。

 

 以下、意匠法の一部改正のうち「保護対象の拡充」「関連意匠制度の見直し」について解説する。

 保護対象の拡充について、「物品に記録・表示されていない画像」とはたとえば①クラウド上に保存されネットワークを通じて提供される画像、②道路に投影された画像を、「建築物の外観・内装のデザイン」とは内装デザインによるブランド構築等を指すといわれている。

 関連意匠制度の見直しについては、長期に亘り、一貫したコンセプトに基づき開発されたデザインを保護可能とするものであり、Aというデザインを元にA1、A1を元にA2、A2を元にA3というデザインを開発した場合、A3について、A2とだけ類似している場合にも登録できるようになる(関連意匠の存続期間は、本意匠=Aの出願日から25年間)。

 

3 企業が留意すべき事項

 仮に本法律案が法律として施行された場合には、本法律案による特許法の一部改正、意匠法の一部改正等が実務に与える影響につきフォローすることが望ましい。特に本稿で解説した①査証制度、②損害賠償におけるライセンス料相当額の算定、③保護対象の拡充、④関連意匠制度の見直し、については実務上の影響も少なくないことから、特に運用実態をフォローし、自らの知的財産戦略への活用も検討すべきであろう。

以 上



[1] 条文は以下のとおりであり、本文の①ないし④は、以下の①ないし④を簡略化したものである。

裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、①立証されるべき事実の有無を判断するため、相手方が所持し、又は管理する書類又は装置その他の物(以下「書類等」という。)について、確認、作動、計測、実験その他の措置をとることによる証拠の収集が必要であると認められる場合において、②特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められ、かつ、③申立人が自ら又は他の手段によっては、当該証拠の収集を行うことができないと見込まれるときは、相手方の意見を聴いて、査証人に対し、査証を命ずることができる。④ただし、当該証拠の収集に要すべき時間又は査証を受けるべき当事者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りではない。

[2] 一般のライセンス料に比較し、①特許の有効性や、ライセンシーが実施したい行為が当該特許の保護範囲内であることが確定している点、②侵害者は、特許権者のライセンスをするか否かの判断機会を奪う形で特許権を実施していた点、③侵害者は、ライセンス契約に存在する最低保証料支払い、契約解除事由の制限、特許無効の場合の返還請求の制限、支払期限の存在等といった制約を受けることなく特許権を実施していた点が、増額の理由として考えられる(特許庁「実効的な権利保護に向けた知財紛争処理システムの在り方(案)」21~22頁)。

[3] 自己の出願した意匠又は自己の登録意匠(本意匠)に類似する意匠の登録を認める制度。

[4] 侵害を誘発する蓋然性が極めて高い予備的・幇助的行為を侵害とみなす制度。

 

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