コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(148)
―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑳―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、子会社から見たコンプライアンス上の留意点について、筆者の子会社での経験を踏まえて述べた。
親会社から派遣される子会社の経営幹部は、意思決定の様々な場面において、慣れ親しんだ親会社の価値観や仕組みを持ち込みやすく、親会社の組織文化は子会社に遺伝しやすいと言える。
それが(コンプライアンス重視の組織間文化の形成に役立つなど)必ずしも問題ではないが、子会社の実情に合わない場合には反発を招きやすい。
コンプライアンスのように重要事項であり、実行することに表向き反対する理由がない場合であっても、子会社の生え抜き社員は、表面上は指示・命令に従ったとしても、本心では納得していないので、現場は指示通りに動かず、意図した成果を挙げにくい。
特に子会社でコンプライアンス違反が発生しやすいのは、コンプライアンスの重要性を言いながらも、目先の成果を求める圧力が親会社から子会社に加わっている場合(不祥事発生組織の子会社に多い)や、過去、利益至上主義の組織文化であった親会社が、不祥事の発生を機に現在はコンプライアンス重視経営に舵を切っていたとしても、事件前や直後に子会社に転出した経営幹部が頭を切り替えられず、旧い利益至上主義の価値観を体現している場合等である。
一般に、子会社はコンプライアンスに投入できるマンパワーが少ないので、親会社は、①適切な情報をタイムリーに提供する(特に法関連情報)、②子会社が研修を実施する場合に、情報提供、テキスト作成補助、講師派遣・紹介等、様々な支援を行う、③共通の従業員相談窓口を設ける、④子会社にもコンプライアンスアンケートを実施する、⑤コンプライアンス人事評価を行い、必要によりコンプライアンス意識の高い経営幹部を派遣する、⑥グループとしてのコンプライアンス基準を作成してチェックし不足面を補強する、等が考えられる。
今回は、日本ミルクコミュニティ(株)のグループコンプライアンスの具体策を考察する。
【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス⑳:コンプラインス体制の構築と運営⑦】
筆者が日本ミルクコミュニティ(株)に在籍中の2006年5月1日に会社法が施行され、「企業集団における業務の適正を確保するための体制」を構築することが求められることとなったが、日本ミルクコミュニティ(株)では、コンプライアンス委員会[1]を設置した2004年から、既にグループ会社を親会社の部・事業部と並ぶコンプライアンス活動組織として位置付け、グループ全体の認識と情報の共有化を図っていた。
具体的には、グループ会社の社長又はコンプライアンス担当役員をコンプライアンス委員会に出席してグループ全体の活動方針の決定に意見を反映できるようにするとともに、自社のコンプライアンス方針・活動施策の策定とその実施状況の報告を求めた。
子会社の社長・コンプライアンス担当役員が、企業グループ全体のコンプライアンス方針・基本施策を決定する議論に参加して意見を述べることで、いわゆる上位下達ではなく、メンバーシップを刺激してコンプライアンス経営に対する当事者意識を高めるのに役立ったと思われた。
また、グループ会社のコンプライアンスについて、一定の水準を確保するために、「グループ会社のコンプライアンス体制の構築・支援」を重点活動計画に謳い、経営企画部のグループ会社担当部門とコンプライアンス部の業務検査課が共同でグループ会社のコンプライアンス体制の実態を確認・検証し、不足する部分の補強に協力するとともに、実態と改善対応内容をコンプライアンス委員会に報告した。
具体的には、グループのコンプライアンス基準を策定し、グループ各社を訪問してヒアリングと書類確認を行ない、不足する点への対応を助言し補強策の実施に協力した。
また、法改正に関連する情報等必要なコンプライアンス関連情報をタイムリーに提供するとともに、子会社が研修を実施する際には、テキスト作成への協力、講師をコンプライアンス部から派遣する他、ふさわしい講師を紹介した。
また、グループ会社の従業員相談窓口の設置を指導・助言しただけではなく、親会社の相談窓口や外部弁護士相談窓口にも相談できる体制を構築した。
グループ会社のトップやコンプライアンス担当役員が、コンプライアンス委員会に出席するだけではなく、親会社とグループ会社の担当者同士の連絡を密にし、グループ会社が単独では対応に困難を感じる問題が発生した場合には、親会社のコンプライアンス部門は、必要により顧問弁護士に相談する等して、逃げずに直ちに問題の解決に協力した。
コンプライアンス・アンケートは、グループ会社にも実施してコンプライアンスの浸透・定着の状況を把握するとともに、結果をフィードバックし、問題があれば対応を求め、必要によりグループ会社と協力して解決に努め、時には担当部門に、役員を通してコンプライアンスに明るい人材の派遣を要請した。
[1] コンプライアンスの企業活動への徹底を図るために、コンプライアンスに関わる重要方針・事業計画を立案・審議・決定・推進する組織。委員長は、代表代表取締役社長、副委員長は代表取締役専務、委員は常務取締役、取締役、執行役員、コンプライアンス部長。
常勤監査役は出席して意見を述べることができるとし、顧問弁護士をアドバイザーとした。コンプライアンス委員会の下に、コンプライアンス活動組織(親会社の部、事業部、グループ会社)を設置し、コンプライアンス責任者・副責任者(親会社の所属長と子会社の社長)、コンプライアンスリーダー(課長クラス、職場毎に複数)を任命した。
会社法の施行後は、取締役会をコンプライアンス方針・施策の決定機関とし、コンプライアンス委員会は、意思決定のための事前審議機関とした。