法務担当者のための『働き方改革』の解説(27)
特殊な労働時間制の有効活用
TMI総合法律事務所
弁護士 横 澤 靖 子
XIII 特殊な労働時間制の有効活用
1 はじめに
通常の時間給制とは異なる特殊な労働時間制を採用することにより、労働生産性を向上させつつ、長時間労働の削減が可能となる場合がある。働き方改革を推進するにあたり、企業が手掛ける事業の種類・規模や労働者の従事する業務内容を踏まえ、特殊な労働時間制を有効活用することをお勧めしたい。以下、特殊な労働時間制のうち、①フレックスタイム制、②高度プロフェッショナル制度、③裁量労働制、及び④変形労働時間制をご紹介する。
2 フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、1か月などの単位期間(清算期間)の中で一定の時間労働することを条件として、労働者が始業・終業時刻をそれぞれ自主的に決定することができる制度をいう。この制度を導入しつつ、労働しなければならい時間帯(コアタイム)を定めるケースも多い。
現行労働基準法では、清算期間の上限が1か月とされていたが、働き方改革関連法では、上限が3か月まで延長された。この結果、労働者が3か月の平均で法定労働時間以内にすれば、割増賃金の支払いは不要となる。また、清算期間を3か月とすると、例えば「6・7・8月の3か月」の中で労働時間の調整が可能となるため、労働者が6月は労働時間を長くする一方で、8月の労働時間を短くすることで、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保しやすくなるなどのメリットも期待される。フレックスタイム制度は、すでに、情報通信業界や比較的規模の大きい会社等では導入されているが、清算期間の延長により、他の業種や中・小規模の企業においても導入が促進されることが期待される。
3 高度プロフェッショナル制度
特定高度専門業務・成果型労働制度(高度プロフェッショナル制度)とは、高度の専門的知識等を必要とし、働いた時間と成果の関連性が通常高くない業務に従事する労働者のうち、年収要件を満たす労働者につき、一定の要件の下、労働時間、休憩、休日及び深夜労働に関する規定を適用除外とする制度をいう。この制度は、働き方改革関連法案の目玉の一つであり、2019年4月から導入が可能となった。
対象業務は金融商品の開発・ディーリング、アナリスト、コンサルタント、研究開発等と定められ、適用対象となる労働者の年収要件は、原則として賞与を除いて1075万円以上、労働者が仕事の具体的な指示を受けないこと等も要件となる。企業は、出勤時間の指定、労働者の裁量を奪うような成果の要求や期限の設定、特定の日時を指定して会議に出席することを一方的に義務付けることなどはできないものとされているなど、導入したとしても、その運用には難しい面があるが、脱時間給の考えの下、成果報酬の考え方を推し進めるための制度としての役割が期待される。
4 裁量労働制
裁量労働制とは、実際の労働時間にかかわらず一定の労働時間だけ労働したものとみなすことで労働時間管理をする一方で、業務の遂行手段及び時間配分の決定については労働者の裁量に委ねる制度をいう。厚生労働省令等により対象業務が限定されている「専門業務型」と、事業の運営についての企画、立案、調査及び分析の業務に関する「企画業務型」の2種類がある。
当初、働き方改革関連法の改正に、「企画業務型」裁量労働制の範囲を拡大し、手続を簡素化すること等、裁量労働制に関する改正も盛り込まれる方向で議論がなされていたが、厚生労働省が実施した調査内容を契機に議論が紛糾し、裁量労働制に関する法改正は見送られた。
裁量労働制は、一定の裁量を有する業務には適している一方で、労働時間の調整を労働者の裁量に委ねる結果、過労死事件などが相次いだことから、裁量労働制を廃止する動きも出てきている。
裁量労働制の導入にあたっては、実際の業務を真に労働者の裁量に委ねることが可能か、みなし労働時間が実際の労働時間を反映した時間となっているか等を確認し、導入後も定期的な検証作業を行うことが必要である。
5 変形労働時間制
変形労働時間制とは、単位期間内において所定労働時間を平均して1週あたりの労働時間が40時間を超えないことを条件として、労働時間を配分することを認める制度をいう。単位期間を1週間、1か月及び1年とするものの3種類がある。
業態によっては、1年のうちある一定の季節や1か月のうち月末が忙しいといったように、繁閑期が明確な場合があるところ、この制度を利用することにより、繁忙期には労働時間を長く設定し、閑散期は労働時間を短く設定することで、単位期間内における労働時間の短縮を図ることが可能となる。そこで、1年単位の変形労働時間制は、小売業、飲食業、運送・引っ越し業など季節ごとに繁閑期が明確な業種、1か月単位の変形労働時間制は、給与計算、経理などの月末が繁忙期となる業種などに適している。
6 まとめ
働き方改革関連法の施行が目前に迫っているが、特殊な労働時間制を組み合わせて活用することで、使用者及び労働者の双方にメリットのある働き方改革が実現されることを期待したい。