◇SH2433◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第19回) 齋藤憲道(2019/03/28)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

1. 企業規範の4つの層 各層の内容と制定責任者

(2) 第2層(方針)

 事業運営の具体的な目的・目標や、基本原則を具体的に示す。

 重要な方針、及び、基本的な運営基準は、取締役会で定める。後者には、取締役会規程(取締役会付議基準を含む)、各部署の担当業務・権限・責任等を明確にする職務分掌規程、決裁規程、各種の職能規程等が含まれる。

①「方針」は、社会の要請に適合させる

 企業の方針(方針を具体化するための経営管理システムを含む)は、企業が社会と調和して社会的責任を果たすように定めることが重要である。

 例えば、次の(例1)~(例3)のモデルと自社の方針を定期的に照合し、自社に内在する課題の有無を検証して、問題点が発見された場合は、該当部分を見直す。

  1. 例1 ISO 26000 社会的責任に関する手引き[1]
  2. 1) 7つの原則
    1 説明責任、2 透明性、3 倫理的な行動、4 ステークホルダーの利害の尊重、5 法の支配の尊重、6 国際行動規範の尊重、7人権の尊重
  3. 2) 組織が取り組むべき7つの中核主題
    1 組織統治、2 人権、3 労働慣行、4 環境、5 公正な事業慣行、6 消費者課題、7 コミュニティへの参加及びコミュニティの発展
     
  4. 例2 OECD多国籍企業行動指針 世界における責任ある企業行動のための勧告2011年[2]
  5. (目次) 序文、1 定義と原則、2 一般方針、3 情報開示、4 人権、5 雇用及び労使関係、6 環境、7 贈賄・贈賄要求・金品の強要の防止、8 消費者利益、9 科学及び技術、10 競争、11 納税
     
  6. 例3 日本経済団体連合会「企業行動憲章 -持続可能な社会の実現のために-[3]
  7. (10原則) 1 持続可能な経済成長と社会的課題の解決、2 公正な事業慣行、3 公正な情報開示・ステークホルダーとの建設的対話、4 人権の尊重、5 消費者・顧客との信頼関係、6 働き方の改革・職場環境の充実、7 環境問題への取り組み、8 社会参画と発展への貢献、9 危機管理の徹底、10 経営トップの役割と本憲章の徹底

② 会社の重要方針は、取締役会が決める。 

 取締役会の決議事項は、形式的には、法令が直接定める事項と、会社が独自に制定する基準・規程等(決裁規程・取締役会付議基準を含む)の中で具体的に定める事項がある。

1) 会社法・会社法施行規則が定める取締役会の職務と決議事項

⑴ 取締役会は、次に掲げる職務を行う[4]

 1 会社の業務執行の決定

  1. (注)「業務執行の決定」は取締役に委任できる[5]が、どのような業務が該当するのかに関する具体的な定義は見られない。
    一方で、下記⑶ 8「その他の重要な業務執行の決定」は取締役会の専管事項である。何が「重要な業務執行」に該当するのかについては、取締役会が決めることになろう。

 2 取締役の職務の執行の監督

 3 代表取締役の選定・解職

 4 株主総会の招集[6]

⑵ 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない[7]

⑶ 取締役会は、次の1~7及び「8 その他の重要な業務執行の決定」を取締役に委任することができない[8]

 1 重要な財産の処分、譲受け

 2 多額の借財

 3 支配人その他の重要な使用人の選任、解任

 4 支店その他の重要な組織の設置、変更、廃止

 5 募集社債の総額、社債引受者の募集に関する事項等(法務省令で定める)

 6 内部統制システムの構築(以下、「会社法施行規則100条」が定める具体的事項を要約。)

  1. ・ 取締役の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制
  2. ・ 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
  3. ・ 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保する体制
  4. ・ 使用人の職務の執行が法令・定款に適合することを確保する体制
  5. ・ 次に掲げる体制その他の、当該会社・親会社・子会社から成る企業集団における業務の適正を確保する体制
    職務の執行の報告、損失危険の管理規程、職務執行の効率確保、職務執行の法令・定款への適合を確保
  6. ・ 監査役設置会社の場合は、次の体制を含む
    監査役が求めた補助使用人の設置(取締役から独立、監査役の指示の実効性確保、監査役への報告体制)、取締役・使用人等が監査役に報告する体制、報告者が報告を理由として不利な取扱いを受けない体制、監査役の職務執行費用等の処理手続・方針、その他監査役の監査が実効的に行われることを確保する体制

 7 取締役等の責任の免除(定款の定めがある場合)[9]

 8 その他の重要な業務執行の決定

 会社法の規定では具体的に示されていないが、筆者は、次の○印の項目は「重要な業務執行の決定」にあたると考える。

  1. (注1) 指名委員会等設置会社においては、「経営の基本方針」は取締役会の専管事項とされている[10]
  2. (注2) 取締役会の専管事項である「重要な財産の処分、譲受け」「多額の借財」等の要点は、通常、経営計画の中に含まれる。
  1. ○ 経営計画の決定
  2. ・ 経営計画には、計画の期間によって、中長期・年間・半期・四半期・月次等がある。
  3. ・ 事業戦略の策定(事業の拡大・縮小、商品の選択、人材・資金等の調達・削減、M&A、業務提携等)
  4. ・ 事業運営上のリスク対策を行い、事前調整を進めて、業務執行の指揮命令権限を(計画の範囲内で)事業部門責任者に委任する。
    (注) 計画の達成率を高めるために、実施項目ごとにKPI[11]を設定することがある。
     
  5. ○「事業」の業績評価基準
  6. ・ B/S責任とP/L責任の所在と、評価の基準を明らかにすること。
  7. ・ 目標とする経営指標(総資産利益率、売上高利益率等)を定め、その達成度を、評価基準にする例が多い。
    (注) 指標は、業界の体質や景気動向を反映するので、同業他社と比較して設定する必要がある。
    例えば、業界全体が大赤字の中で、当社が「利益ゼロ」であれば、優れた経営力があると評価する。

     
  8. ○「個人」に関する全社共通の業績評価基準
  9. ・ 個々の従業員の評価(成果)の総和が、事業の経営評価(業績)に結びつくように設定することが望ましい。
    (注) 個人の評価は、一般に、作業現場に近い層ではプロセスが重視され、職位が高い階層では結果が重視される。
     
  10. ○ 重要開発テーマの決定、開発成果の帰属
  11. ・ 人材や資金の大規模投入を要する分野の研究・開発に着手する場合は、取締役会の決議が必要になる。
    (注) 新規分野では、現行の定款の「目的」の範囲内か否かが問題になることがある。
  12. ・ 個人と会社[12]、親会社と子会社[13]、本社と事業部門、共同開発関係者同士の間において、開発成果の帰属方針を決めておくことが望ましい。
    (注) 各国が取り組んでいるBEPS(税源浸食と利益移転)対策では、著名なグローバル企業において行われている「知的財産権の権利譲渡」「ライセンス契約」「コストシェアリング契約」等の方法を用いた低税率国への大規模な利益移転が大きな課題になっている。
     
  13. ○ 危機対応の原則及び基本方針(平時の対応と、危機発生時の対応)
  14. ・ 誰に、何を、どの範囲で任せるのかを定めて、予め企業内に周知する。(想定を超える場合の非常体制を含む)
    (注) 全社的に重大な危機が発生したときは、社長を本部長とする「○○対策本部」を設置して対応する例が多い。


[1] Guidance on social responsibility(2010年11月1日発行)。認証を目的としていない規格である。

[2] OECD Guidelines for Multinational Enterprises 2011 Edition “Recommendations for Responsible Business Conduct in a Global Context”

[3] 2017年11月8日第5回改定(1991年9月14日制定)

[4] 会社法362条2項~5項、348条2項、415条、418条1号

[5] 会社法362条2項1号、同条4項

[6] 会社法298条4項

[7] 会社法362条3項

[8] 会社法362条4項。なお、指名委員会等設置会社については416条1項~4項において取締役会が決定し取締役に委任できない次の①②が定められている。①業務執行の決定(経営の基本方針、監査委員会の職務の執行のため必要な法務省令で定める事項、執行役が二人以上ある場合の執行役の職務分掌・指揮命令の関係・執行役相互の関係、取締役会の招集の請求を受ける取締役、執行役の職務の執行に係る内部統制システム〈企業集団を含む〉)、②執行役等の職務の執行の監督

[9] 会社法426条1項、423条1項

[10] 会社法416条1項1号イ、同条2項・3項

[11] KPI=Key Performance Indication(重要業績評価指標)を明示して、一定期間(例えば四半期)毎の達成状況を確認する。適切な指標を設定することが必要である。

[12] 日本の職務発明制度については、特許法35条を参照。

[13] OECDの「BEPS(税源浸食と利益移転)行動計画」において、外国子会社合算税制の強化や、適正な移転価格の算定が困難である無形資産を用いたBEPSへの対応策等が検討されている。この行動計画は、G20(財務大臣・中央銀行総裁会議)の主要テーマである。

 

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