◇SH2463◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(154)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉖ 岩倉秀雄(2019/04/09)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(154)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉖―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、構造改革の推進とその成功要因について述べた。

 新役員は、構造改革プランを推進し、就任翌年の2005年度に180億円以上の当期利益の改善を実現、1年前倒しで単年度黒字化を達成した。

 組織文化の異なるライバル企業3社が合併し、準備不足による初期の混乱を回復できず債務超過に陥ったにもかかわらず、なぜ早期にV字回復を果たすことができたのか。

 それは、構造改革プラン[1]を確実に実行したことによるが、筆者はそれを可能とした組織風土改革の試みに注目して考察した

 新社長は、就任と同時に、「実力主義と現場主義」の方針を掲げ、全ての職場にスローガンを掲示させるとともに、所属長から従業員にその趣旨を説明させた。

 また、役員は各事業部に出向き、方針と構造改革プランの主旨を説明するとともに、夜には車座になって現場の声に耳を傾け、更に「従業員満足度調査」を度々実施して従業員の意識の把握に努めた。

 特に、調査で不満の多かった出身会社主義の給与体系[2]を職位と能力により同一の賃金を支払う方法に変え、2006年度には「チーム力強化」の取組みを開始して人事評価項目に「チームに対する貢献」を取り入れた。

 このように、改革の方針を明確にするとともに、それを具体的に裏付ける評価制度や給与体系等をセットにして改革することにより、従業員の貢献意欲を引き出し、2006年度には更に大幅黒字化(当期利益67.6億円)を実現した。

 今回は、「チーム力強化」の取組みについて考察する

 

【日本ミルクコミュニィティ㈱のコンプライアンス㉖:構造改革③】
(『日本ミルクコミュニティ史』446頁~448頁)

 新経営陣により、ようやく単年度黒字化を実現した日本ミルクコミュニティ(株)が、更に黒字化を維持・強化するためには、組織文化が異なるが故に団結力が弱く経営効率が悪化しやすい合併会社の従業員を、団結させる取組みが必要[3]であり、2006年10月から以下の通り「チーム力強化」の取組み[4]を開始した。(『日本ミルクコミュニティ史』446頁~447頁)

1. 目的

 会社は有機的に結合された個別組織の結合体なので、日本ミルクコミュニティ(株)の最小組織単位である課、チーム、営業所の構成員の活動が最大限に発揮されるとともに、組織同士が十分に連携し相乗効果を生みだすような日本ミルクコミュニティ独自の組織風土を作る。

2. 位置付け

 チーム力強化は、組織活性化を図るための組織風土つくりであり、業務計画進捗管理制度や業績連動型賞与制度等、制度による組織活性化ではない。

3. 目指すチーム像とチームマネジメントの基本

  1. 1. メグミルクの強いチーム像
    「明るく楽しく元気の良いチーム」
  2. 2. こころえ
    チームの使命・役割を理解し、自分自身に課せられた任務を責任をもって遂行するとともに、チームの目標達成のために自らの担当にとらわれず互いに協力・支援している。
  3. 3. コミュニケーション
    チームのコミュニケーションが良く、必要な情報を共有化しており、気軽に相談や意見交換している。
  4. 4. モチベーション
    一人一人のモチベーションが高く、目標達成に積極的、挑戦的に取組もうとする意欲にあふれ、自主的、自律的に実践している。
  5. 5. 人材育成
    業務を通じて能力を高め合い、個性的で人間力あふれる人財を育てている。

4. チーム力強化の取組みとチーム目標達成

 

5. 推進体制と施策

(1) 推進体制

 推進事務局は、本社要員管理部署(総務人事グループ、マーケティンググループ、商品企画開発グループ、ロジスティクス部、生産技術グループ、酪農資材部)

(2) 施策

  1. ① 業務外のコミュニケーション活動として、ボーリング大会等のリクレーションの実施後に懇親会を開催するケースが多かったので、会社として懇親会費を補助した。
  2. ② チーム力強化に資するバックアップアイディアを募集し、採用されたものは全社に案内した。
  3. ③ 人事研修としてコーチング研修を実施した。[5]
  4. ④ 自己啓発の一環として、大学の公開講座、通信教育の受講を補助するとともに、上智大学とタイアップして寄付講座「マネジメントのための組織行動論」を開設した。

(3) 検証と改善

 チーム力強化の取組みによる従業員の意識や組織風土の変化に関する調査を継続的に実施し、組織や人事制度の更なる改善に役立てた。

 


[1] その骨子は、①売上規模に見合う工場・物流デポの再編・統合、②不採算アイテムの整理と内製化、③重点チャネルの選別と重点カテゴリー・商品戦略の再構築、④商品構成と宣伝促進費の適正化、⑤退職者不補充による総員370名の削減、⑥資材費・管理費等あらゆるコストの見直し・削減、⑦収支管理の徹底であった。(ポータルサイト(153)より)

[2] 当初は、「出身会社ごとの旧給与体系に調整給を設けて5年かけて統合する」というやり方で、給与体系に出身会社主義を反映させていたので、不公平感が強かった。

[3] これまでのアンケート調査や従業員の声から、職場のチームマネジメントが、マネージャーの個性に委ねられており、担当する業務や職場環境により、バラツキがあった。(『日本ミルクコミュニティ史』446頁)

[4] 2006年10月14及び15日に、全国の所属長、本社の課・チーム及び事業部管下の全課長・営業所長、関係会社社長を招集して「チーム力強化」のキック・オフ大会を東京で実施し、これをスタートとして、それぞれの組織単位で「明るく楽しい元気の良いチーム」づくりに取り組んだ。(同447頁)

[5] 総務人事グループが主催して管理職に対して、人の意欲や能力を引き出し組織目標の達成と個人の成長、自己実現を同時にサポートし、組織と個人をWin-Winの関係にする手法。コミュニケーションスキルの向上とチームメンバーの育成に資する。

 

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