経産省、労働時間及び労働時間の状況を把握する勤怠管理ツールについて
グレーゾーン解消制度による照会・回答を公表
――打刻なしにPCログ等による勤怠管理システムの適法性を確認――
経済産業省は、4月1日、労働時間及び労働時間の状況を把握する勤怠管理ツールについて、労務管理ツールを開発している企業(ソニックガーデン)からのグレーゾーン解消制度に基づく照会に対して厚生労働省から回答を得たとして、公表した。
産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」は、事業に対する規制の適用の有無を、事業者が照会することができる制度であり、事業者が新事業活動を行うに先立ち、あらかじめ規制の適用の有無について政府に照会し、事業所管大臣から規制所管大臣への確認を経て、規制の適用の有無について回答するものである。
今回の事例は、打刻なしにPCログ等の客観的データにより勤怠管理を行うシステムについて、
- ① 労働基準法108条および労働基準法施行規則54条に基づく「労働時間」の把握の方法として適切なものであること
- ② 改正労働安全衛生法66条の8の3の「労働時間の状況」の把握の方法として適切なものであること
を確認しようとするものであり、厚労省は、本件についてはいずれも適切なものであると認めた。
以下、今回の事例を紹介する。
1 確認の求めを行った年月日
平成31年2月27日
2 回答を行った年月日
平成31年3月27日
3 新事業活動に係る事業の概要
以下の方法により労働時間及び労働時間の状況を把握する勤怠管理ツールである。
- ① パソコンの起動・終了時刻、入退出時刻の記録やメールの送信時刻などの客観的記録上「最初のログがあった時刻」を始業時刻、「最後のログがあった時刻」を終業時刻として各労働日ごとの労働時間(始業時刻及び終業時刻)が自動的に算出される。
- ② ①で自動的に算出された労働時間(始業時刻及び終業時刻)を労働者本人が確認する。ただし、明白に実態の労働時間との間にずれがあるなど、やむを得ない場合には、修正理由を付記したうえで、労働者本人が修正する。
- ③ 上長が承認し、各労働者の労働時間(始業時刻及び終業時刻)として確定する。
- ※ なお、上記について労働基準法に基づく「労働時間」の把握については「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の「(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置」が定める各種措置に準じた措置を、及び改正労働安全衛生法に基づく「労働時間の状況」の把握については平成30年12月28日基発1228第16号の「第2 面接指導等(労働安全衛生法令関係)」の答11において掲げ定められている各種措置に準じた措置がそれぞれ適切に講じられていることを前提とする。
4 確認の求めの内容
3記載の本サービスを利用して行う、顧客における労働者の労働時間の把握が、⑴ 労働基準法に基づく「労働時間」の把握(記録)方法として適切なものであること、及び(2) 改正労働安全衛生法に基づく「労働時間の状況」の把握方法として適切なものであることを確認したい。
5 確認の求めに対する回答の内容
- ⑴ 労働基準法に基づく「労働時間」の把握(記録)方法として適切なものであるか
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労働基準法(昭和22年法律第49号)第108条及び労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第54条第1項第5号の定めにより、使用者は労働者各人別に労働時間を記入した賃金台帳を調製しなければならない。
労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいう。労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置については、平成29年1月20日策定の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)において具体的に明らかにされている。
ガイドラインでは、「労働者の労働日ごとの始業・就業時刻を確認し、これを記録すること」(ガイドライン4(1))を求めており、確認の方法は原則として「使用者が、自ら現認することにより確認」する方法又は「客観的な記録を基礎として確認する」方法によることとしている(ガイドライン4(2))。また、これらの方法によることなく、「自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合」については、ガイドライン4(3)記載の所要の措置を講ずる必要がある。
本件のサービスは、客観的な記録を基礎としつつ、やむを得ない場合に限り、労働者が自らの労働時間を自己申告するものであり、当該自己申告においてガイドライン4(3)記載の所要の措置が講じられていることを前提とするものである。したがって本件のサービスによって把握された労働時間は、ガイドラインを満たすものであり、当該把握した時間を賃金台帳に記載することに労働基準法の違反はない。
- ⑵ 改正労働安全衛生法に基づく「労働時間の状況」の把握方法として適切なものであるか
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労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」という。)第66条の8の3第1項及び労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第52条の7の3第1項の定めにより、事業者は、安衛法第66条の8第1項又は安衛法第66条の8の2第1項の規定による面接指導を実施するため、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について」(平成30年12月28日付け基発1228第16号。以下「解釈通達」という。)において、「その他の適切な方法」としては、やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合において、労働者の自己申告による把握が考えられるが、その場合には、事業者は、自己申告により把握した労働時間の状況が実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の状況の補正をするなどの措置を講じる必要があるとされている。
なお、「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」としては、例えば、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合など、事業者の現認を含め、労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合があり、この場合に該当するかは、当該労働者の働き方の実態や法の趣旨を踏まえ、適切な方法を個別に判断することとされている。
ただし、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合などにおいても、例えば、事業場外から社内システムにアクセスすることが可能であり、客観的な方法による労働時間の状況を把握できる場合もあるため、直行又は直帰であることのみを理由として、自己申告により労働時間の状況を把握することは、認められない。
また、タイムカードによる出退勤時刻や入退室時刻の記録やパーソナルコンピュータの使用時間の記録などのデータを有する場合や事業者の現認により当該労働者の労働時間を把握できる場合にもかかわらず、自己申告による把握のみにより労働時間の状況を把握することは、認められない。
本件のサービスは、客観的な記録を基礎としつつ、やむを得ない場合に限り、労働者が自らの労働時間の状況を自己申告するものであり、解釈通達に記載の所要の措置が講じられていることを前提とするものである。したがって、本件のサービスによって把握された労働時間の状況は、解釈通達を満たすものであり、労働安全衛生法の違反はない。
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経産省、グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答:勤怠管理ツールによる労働時間把握について(4月1日)
https://www.meti.go.jp/press/2019/04/20190401008/20190401008.html -
厚労省、グレーゾーン解消制度・新事業特例制度(グレーゾーン解消制度への申請案件一覧)
https://www.mhlw.go.jp/shinsei_boshu/gray_zone/gray_zone.html -
○「労働時間及び労働時間の状況を把握する勤怠管理ツール」の概要(4月1日)
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/jisseki_05.pdf -
ソニックガーデン、打刻レスの勤怠管理サービス「ラクロー」、厚生労働省が適法性を認める(4月1日)
https://www.sonicgarden.jp/news/326