◇SH0623◇メキシコにおける紛争解決手段 齋藤 梓(2016/04/11)

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メキシコにおける紛争解決手段

~メキシコ進出企業が知っておくべき司法制度の概要~

西村あさひ法律事務所

弁護士 齋 藤   梓

 「経済上の連携の強化に関する日本国とメキシコ合衆国との間の協定(日墨EPA)」は、日本が締結した2番目のEPA(Economic Partnership Agreement)であり、2005年4月の発効から10年以上が経過した。日墨EPAにより両国の貿易・投資面での関係はますます深化してきており、日系企業の進出もめざましいメキシコの司法制度について以下概観する。

1   メキシコの裁判制度

 メキシコは連邦制を採用しており、連邦裁判所と州裁判所が存在する。同一の州内に限定した事案については州の裁判所が、複数の州にまたがる事案や連邦が関係する事案については連邦裁判所が担当する。連邦裁判所と州裁判所共に、基本的には二審制を採用しており、第一審裁判所の判断に対しては、常に控訴審裁判所による審査を受けることができる。最高裁判所は憲法争議及び違憲の訴訟を行う機関である。また、メキシコは陪審員による裁判制度を採用していない。

 メキシコ司法の最大の特色としてアンパロ(Amparo)という保護請求の訴えの制度が存在する。当該制度は、行政、司法及び立法の行為によって人権が侵害された場合の救済制度であり、他の中南米諸国にもみられる制度であるが、特にメキシコでは広く活用されている。先述のとおり、メキシコの司法制度は基本的に二審制であるが、アンパロの制度によって、裁判所の判決が人権を侵害した、あるいは判決の基となった法律が憲法違反であり、これによって人権が侵害されたような場合には、さらにアンパロ裁判(連邦裁判所管轄)に訴えることができ、その場合は合計4回まで審議を受けることができる。アンパロ裁判は、個人でも法人(会社等)でも提訴でき、また、いかなる当局の行為(例えば、大統領、上院・下院、州知事、州・市町村議会の決定)もアンパロ裁判の対象となる。

 

[メキシコの裁判制度概要[1]]

 

 

 

(注)      □内の数字は審級を表わす。終は終審を示す。

2 労働争議調停制度

 メキシコの労働法は、個人の労働関係について法解釈上疑問が生じた場合、労働者に有利な解釈を適用する「労働者保護の法律」である。メキシコ憲法は、労働争議解決のための連邦及び州の調停委員会制度である「労働調停・仲裁委員会」を設置し、労働者と雇用者の雇用関係から発生する全ての労働紛争を取り扱っている。州、労働者組織及び使用者組織の各代表から構成される労働調停・仲裁委員会により審議され、当事者間で和解が成立しない場合は、正式な仲裁が行われることになる。その場合、労働調停仲裁委員会の構成メンバーの3分の2以上の賛成により決議され判断が下され、その判断は最終決定である。

 

3 裁判外紛争解決手続

(1)      商事仲裁

 メキシコの仲裁法はUNCITRALモデル法に準拠した近代的な仲裁法で、国内仲裁及び国際仲裁を区別することなく、双方に適用される。メキシコはニューヨーク条約の締約国であり、特に、商取引によって生じる争いを解決する手段として仲裁がより広く一般的となっている。

 メキシコでは、アンパロ制度との関係で、アンパロ請求によって仲裁判断の再審理が可能かが問題となっていたところ、2015年にメキシコ裁判所は、仲裁廷はアンパロ請求に基づく手続を行う権能を有しないことを明示した。これにより、メキシコを仲裁地とする仲裁手続についても他の主要な仲裁先進諸国と同様に仲裁判断の再審理を請求することはできず、仲裁地の裁判所における仲裁判断取消訴訟によらざるを得ないことが明確となった。

(2)      投資仲裁

 メキシコは、投資仲裁の被提訴国となった累計件数が2013年末までの段階で21件と世界で7番目に多い国となっている。日本との間で2005年4月に発効した日墨EPAにISDS条項が規定されていることから、日本の投資家(メキシコ進出企業等)も当該投資協定に基づく投資仲裁手続を利用することが可能である。

 メキシコは、2011年11月に「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定」の交渉への参加意思を表明し、2012年10月に正式交渉メンバーとなっている。TPP協定が完成すれば、アジア諸国と中南米諸国の経済統合が一段と深化することになり、今後、投資仲裁がますます重要な紛争解決手段となることが予想されている。

以 上

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 



[1]     図の作成にあたっては、中川和彦・矢谷通朗編『ラテンアメリカ諸国の法制度』(アジア経済研究所、1988)66頁を参照した。

 

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