メキシコにおける紛争解決手段
――メキシコ進出企業が知っておくべき司法制度の概要――
西村あさひ法律事務所
弁護士 齋 藤 梓
「経済上の連携の強化に関する日本国とメキシコ合衆国との間の協定(日墨EPA)」は、日本が締結した2番目のEPA(Economic Partnership Agreement)であり、2005年4月の発効から10年以上が経過した。日墨EPAにより両国の貿易・投資面での関係はますます深化してきており、日系企業の進出もめざましいメキシコの司法制度について以下概観する。
1 メキシコの裁判制度
メキシコは連邦制を採用しており、連邦裁判所と州裁判所が存在する。同一の州内に限定した事案については州の裁判所が、複数の州にまたがる事案や連邦が関係する事案については連邦裁判所が担当する。連邦裁判所と州裁判所共に、基本的には二審制を採用しており、第一審裁判所の判断に対しては、常に控訴審裁判所による審査を受けることができる。最高裁判所は憲法争議及び違憲の訴訟を行う機関である。また、メキシコは陪審員による裁判制度を採用していない。
メキシコ司法の最大の特色としてアンパロ(Amparo)という保護請求の訴えの制度が存在する。当該制度は、行政、司法及び立法の行為によって人権が侵害された場合の救済制度であり、他の中南米諸国にもみられる制度であるが、特にメキシコでは広く活用されている。先述のとおり、メキシコの司法制度は基本的に二審制であるが、アンパロの制度によって、裁判所の判決が人権を侵害した、あるいは判決の基となった法律が憲法違反であり、これによって人権が侵害されたような場合には、さらにアンパロ裁判(連邦裁判所管轄)に訴えることができ、その場合は合計4回まで審議を受けることができる。アンパロ裁判は、個人でも法人(会社等)でも提訴でき、また、いかなる当局の行為(例えば、大統領、上院・下院、州知事、州・市町村議会の決定)もアンパロ裁判の対象となる。
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