◇SH2475◇租税における公平の実現(4) 饗庭靖之(2019/04/12)

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租税における公平の実現

第4回

首都大学東京法科大学院教授・弁護士

饗 庭 靖 之

 

第2 配当所得や利子所得と他の所得との課税の公平

3 配当所得課税の現行制度

(1) 所得税法の配当所得課税の現行制度の概要

 配当所得は、法人から受ける剰余金の配当等にかかる所得をいう(所得税法24条)。

 剰余金の配当のうち、その他資本剰余金からの配当として会計処理している場合、株主の拠出からなる部分は資本の払戻と解され、その他の部分が配当所得として課税の対象となる。

 上場株式等の配当は、20%の源泉徴収の対象となり、原則は総合課税の対象となるが、総合課税に代えて15%の税率による申告分離税を選択できることになっている(租特8条の4第1項)。また、少額配当および大口以外の上場株式等の配当等について申告不要の特例がある(租特8条の5第1項)

 配当所得のうち申告分離制度および申告不要制度の適用を選択したもの以外の総合課税の対象となる配当所得については、20%の源泉徴収のほか、配当控除制度が適用される。配当控除制度はシャウプ勧告に基づいて作られた制度で、剰余金の配当等のうち、他の所得と合わせて1000万円以下の部分については、1000万円以下の部分は→その10%、超→1000万円をこえる部分の→についてはその5%が税額から控除される。これは法人税が所得税の前どりであるとの前提に立って、配当所得に対する二重課税を調整するための措置である。[1]

(2) 法人税法の配当所得課税の現行制度の概要

 法人が内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配等(以下「受取配当等」という)は、その全部または一部を益金の額に算入しないものとされている。完全子法人株式等、関係法人株式等、連結法人株式等にかかる配当等の額はその全額、その他の株式にかかる配当等の額の50%を益金に算入しないこととされている(法人23条1項、81条の4第1項・7項・8項)。受取配当の益金の不算入は、シャウプ勧告の法人税を所得税の前どりと見る考え方に基づく制度で、法人の受取配当等に対しては支払法人の段階ですでに法人税が課税されているから、法人所得に対して何回も重複して課税することを避けるためには、受取法人の段階でそれを法人税の対象から除外する必要があるという考慮によるものである。[2]

 

4 配当所得課税の税額控除制度の公平性の検討

 法人税と株主の所得税は、二重課税であることを理由として、受取配当の一部を所得から控除する配当所得の税額控除を行うことは、租税公平主義に適合するか検討する。

(1) 法人税額では調整できないこと

 まず、基礎的なことから確認すると、株式会社は法人なので、株式会社の利益については、納税主体となるべきである。株主は、株式会社に対して出資を行っているのであって、会社事業を営んでいるのではないから、株式会社の利益についての納税者とはならない。

 また、株主は、株式会社に対して出資を行っているので、出資行為の対価として、株式配当を受け、株式譲渡時に株式譲渡益を得ることについては、株式会社の利益ではなく、株主の利益として得ているものであるから、株主は、これらについて、納税主体となる。

 株主の配当所得は、株主の出資行為に対するリターンであり、株主配当による個人の所得への課税は、法人の事業活動によって得られた収益に対する課税ではなく、法人の利益の個人への移転という行為を原因として発生する。

 そして仮に、法人税額を減額する税額調整をするとなると、法人が配当しないときは税額調整が行われないので、この場合に比べて法人税額を減額することは、配当しない法人との間で合理的な理由なく差別することとなる。法人の所得に法人税が課税された上で、さらに株主に配当所得課税されることは、利益を内部留保した場合に比べて法人に負担を与えているものではないので、法人税額を減額する税額調整をすべきではないことになる。

 それでは、株主の取得する配当所得についての課税において税額調整すべきなのか。本来、配当所得は、法人株主、個人株主にとって、他の種類の所得と変わりなく、担税力は他の種類の所得と同様に評価されるので、他の種類の所得と同様に、法人の場合は比例課税、個人の場合は総合累進課税されるべきである。

 そのときに、配当利益に対する所得課税において税額調整をすることとするのは、配当所得を、配当以外の所得に比べると、合理的な理由で利益を与えると評価できるのかの問題となる。

(2) 法人税と配当所得課税は二重課税とはいえないこと

 法人が営む事業収益に対する課税について、法人所得についての法人税の課税と、株主配当への所得税の課税は、1つの事業活動によって得られた収益に2回の課税を行うこととなるが、重複した課税行為により株主が会社に出資することを抑制することとなっているか検討する。

 資本家が、自分の事業構想を実現する手段として、自らの資金を出資して会社を設立したとき、会社事業は、自ら行う事業と言えるので、会社利益の配当に対して所得税を課せばよいのであって、法人課税をするのは適当でないと言えるか。

 株主の出資行為は、自らが事業活動を行うことと同視することはできない。

 資本主義とは、財・サービスの生産手段を所有する者が、労働者から雇用契約により対価を支払って労働力を取得し、生産費用を上回る価格(価値)を持つ財・サービスを販売して利益を得る経済構造であるため、株式会社とは、事業を経営する者が、資本と労働を結合して営む事業体である。

 株式会社における資本調達の方法は、出資と融資があるのであり、株主の出資行為は、会社の事業活動を構成する資本と経営と労働のうちの資本調達の一方法にすぎない。

 以上のことからは、株主が会社の所有者であり、会社の事業収益からの株主配当は、所有者として事業収益取得行為と単純にみなすことはできない。



[1] 金子宏『租税法〔第22版〕』(弘文堂、2017)223頁

[2] 金子・前掲[1] 348頁

 

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