◇SH2712◇厚労省、副業等の場合の労働時間管理に関して検討会の報告書案を明らかに――健康管理・割増賃金など課題を具体化、厳格規制では副業抑制につながりかねない難点も (2019/08/07)

未分類

厚労省、副業等の場合の労働時間管理に関して検討会の報告書案を明らかに

――健康管理・割増賃金など課題を具体化、厳格規制では副業抑制につながりかねない難点も――

 

 厚生労働省は7月26日、「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」(座長・守島基博学習院大学教授。以下「検討会」という)において取りまとめ段階にある報告書案を公表した。検討会における第9回会合の資料として同省ホームページ上で明らかにしたものである。

 検討会では平成30年7月17日の初会合以来、「労働者の健康確保や企業の予見可能性にも配慮した、事業主を異にする場合の実効性のある労働時間管理」を課題として1か月に1回程度の会合を開催。事務局は厚労省労働基準局労働条件政策課・安全衛生部労働衛生課の協力を得て労働基準局監督課が務めてきた。7月9日の第8回会合から報告書案の検討を開始し、同月25日の第9回会合においては、第8回会合で述べられた委員からの意見等に基づき、相当量の修正を施した報告書案が改めて示された。報告書としての取りまとめ後は、本報告書を踏まえ、労使の参画の場である労働政策審議会において引き続き議論が行われ、「可能な限り速やかに結論を得る」(6月21日閣議決定「成長戦略実行計画・成長戦略フォローアップ・令和元年度革新的事業活動に関する実行計画」参照)ことになる。

 なお、今般の議論は平成29年12月8日閣議決定「新しい経済政策パッケージ」や30年6月15日閣議決定「未来投資戦略2018」における指摘を背景とし、副業・兼業を促進していくことを前提としてその労働時間管理の在り方を検討するものであり、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(30年1月策定)、「(副業・兼業禁止規定を削除するなどした)改定版モデル就業規則」(30年1月改定)がすでに公表されている。これらに至る議論の経過については29年12月25日公表「柔軟な働き方に関する検討会」(座長・松村茂東北芸術工科大学教授、日本テレワーク学会会長)報告を参考とされたい。

 取りまとめ中の「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」報告書案によると、労働時間管理・健康管理に係る「Ⅱ. 労働時間法制の変遷と労働時間通算の規定等について」「Ⅲ. 企業、労使団体へのヒアリング結果」「Ⅳ. 諸外国の状況について」の検討・ヒアリングといった調査を踏まえて挙げられた現行制度における課題は(1)健康管理、(2)上限規制、(3)割増賃金、(4)副業・兼業先の労働時間の把握方法。多岐にわたるうえ、とくに事業者側からみた場合には各課題に関して複数の難点が生じうることの指摘がある(「V. 実効性のある労働時間管理や健康管理の在り方に向けて」「1. 現行制度の課題」参照)。

 報告書案では、これらの課題に対応できる選択肢を例示。たとえば、上記(1)健康管理については「①-1 事業者は、副業・兼業をしている労働者について、自己申告により把握し、通算した労働時間の状況などを勘案し、当該労働者との面談、労働時間の短縮その他の健康を確保するための措置を講ずるように配慮しなければならないこととすること(公法上の責務)」「①-2 事業者は、副業・兼業をしている労働者の自己申告により把握し、通算した労働時間の状況について、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えている時間が一月当たり八十時間を超えている場合は、労働時間の短縮措置等を講ずるほか、自らの事業場における措置のみで対応が困難な場合は、当該労働者に対して、副業・兼業先との相談その他の適切な措置を求めることを義務付けること。また、当該労働者の申出を前提に医師の面接指導その他の適切な措置も講ずること」「② 通算した労働時間の状況の把握はせず、労働者が副業・兼業を行っている旨の申告を行った場合に、長時間労働による医師の面接指導、ストレスチェック制度等の現行の健康確保措置の枠組みの中に何らかの形で組み込むこと」といった対応を示しながら、各選択肢においてなお課題となる点を指摘するなどしている(同章「2. 今後の方向性」「(2)健康管理について」参照)。

 副業・兼業をする労働者の保護を図ろうとして厳格な規制になると、事業者が副業・兼業を行う者を雇わないなどにより非雇用化が進み、かえって①労働法制の保護が及ばない事態を招きかねないこと、②収入面から兼業・副業をする労働者の不利益につながりかねないことの指摘もあり(同章同項「(6)その他」参照)、今後の議論の進展が注目される。

 

タイトルとURLをコピーしました