コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(163)
―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉟―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、組織の危機発生時の対応について経験を踏まえて述べた。
現場から緊急事態発生の第一報が本社危機担当部門に入った場合、危機担当部署はただちに担当役員、関連部門とともに、(1)危機の内容、被害状況、現状での影響、悪化した場合の予測、メディア取材の有無等を確認、(2)事故か事件か、社会問題に発展するか等の判断、(3)緊急事態の発生現場と本社に危機対応組織を設置し情報連絡体制を確立、(4)関係部署にさらなる情報の収集や定時連絡体制等当面の対応について指示、(5)危機対応組織の事務局長(危機担当部門長)を通して危機対応組織責任者(代表取締役等)に情報を集約する(メディア対応は広報部門に集約)等、を迅速に実施しなければならない。
危機対策本部が取り組むべき最初の重要事項は、初期対応方針を決定するとともに、公開情報をポジションペーパーとして作成することである。
基本方針の策定では、社会的モラルを基準に判断し、事実を隠さない姿勢と最悪の事態を想定することが重要になる。
今回は、対応チームの役割について考察する。
【日本ミルクコミュニィティ㈱のコンプライアンス㉟:組織の危機管理⑦】
危機の対応に当たっては、短時間に大量の仕事を効率的にこなすために、機能別対応チームを組織し、役割を明確にし、ふさわしい人材を配置しなければならない。(チームの役割と対応は別表参照)
表.危機対策にあたって果たす各チームの役割と対応
機能 |
役割と対応のポイント |
留意事項 |
人選 |
組織としての問題認識・対応策の決定 |
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・ 対応方針や戦略の決定
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・ ポジションペーパーの策定
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・ 必要により記者会見
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・ 公開情報と非公開情報、確認情報と未確認情報を区別
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・ 公表できる範囲で公表し正直に隠さない
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・ 初期対応方針は経営トップが最終的に決断する
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経営トップ、担当役員、関係部門長、必要により専門家 |
連絡機能 |
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・ 日常の業務と異なる危機関連情報の連絡体制を独立して確保
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・ 各担当部門からの情報を収集し危機対策本部事務局に連絡するとともに、本部からの指示を各担当に連絡
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・ 情報の流れは一元化して混乱を防ぐ(情報シートの活用)
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広報、人事、総務、コンプライアンス、法務部門から人選 |
調査機能 |
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・ 現場調査(事態の発生原因や事態発生による社内外への影響)
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・ 社内調査(社内関連情報の収集)
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・ 周辺調査(関係先からの情報収集)
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・ 担当者を極力現場に派遣
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・ 5W1Hで簡潔にまとめる
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・ 入手情報の出所を明確にする
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・ 調査者に大幅な権限を委譲し、現場の隠ぺい可能性を防ぐ
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・ メディア対応は現地でせず広報部門が行う
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・ 調査が進展してもしなくても定時連絡を必ず行う
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法務、総務、広報、技術スタッフや顧問弁護士等専門能力のある一定以上の権限のある者を中心 |
渉外機能 (メディア、消費者、被害者対応以外) |
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・ 流通・官公庁・業界団体、株主、金融機関、証券取引所等に事情を説明
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・ 危機対策本部の対応方針とポジションペーパーに基づいて対応
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・ 経営者が直接出向くケースも多い
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・ 特に証券取引所の重要事項に該当する場合には公表する必要があるので注意する(含子会社の経営危機)
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・ 企業グループは1つの企業とみなされることを踏まえる
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・ すべてがメディアの取材先になので情報源になる(公表可能性が大)
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経営者、営業、総務、社長室、財務等から人選 |
広報機能 |
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・ メディアからの取材に対応
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・ 必要により記者会見を設定
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・ 報道結果の分析と危機対策本部への報告
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・ 危機対策本部の方針とポジションペーパーに沿って対応
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・ 取材対応は広報に一本化し現場への個別取材に対応しない
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・ 危機対策本部で確認されていないことは話さない
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・ 電話取材よりも可能な限り会って話す
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・ 経営者への夜討ち朝駆け取材対策を決めておく
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・ メディアは公平に扱う
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・ 長期化に備えローテーションを決めておく
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・ メディアの締め切り時間を意識する
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・ 情報は継続的に出す
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・ 業界の価値観や慣例は通用しない
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・ 外国のメディアには外国語のできる者を準備する
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・ 取材結果は漏れなく取材記録シートに記録しておく
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広報部門 |
消費者対応機能 |
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・ 消費者・関連地域住民からの問い合わせ、苦情に応え情報提供
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・ 情報を収集・分析して危機対策本部に報告
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・ 問い合わせは記録して整理
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・ 対応の基本は本部の対応方針とポジションペーパーに基づく(追加訂正があれば、直ちに修正する)
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・ メディアの取材対応は広報に引き継ぐ
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・ 危機対策本部及び現地に窓口を設定する
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・ 本部担当と窓口担当に分け、本部は対応プランの策定と現地情報のとりまとめを行う(一部地域で対応困難な場合は直接本部が対応する)
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・ 憶測や楽観的な発言をしない
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・ 対応は公平かつ慎重に行い安易な約束はしない
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・ 対応内容は全てメディアに明らかになると心得る
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本社の消費者対応窓口 |
情報管理機能 |
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・ 各担当が収集した情報と組織が対外発表した情報の全てを整理・保管しいつでも取り出せるようにしておき、内部からの情報の問い合わせに対応できるようにする
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・ 個々の情報の機密管理を行う(情報閲覧記録を作る)
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・ 入手情報はメンテナンスを行う
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総務・資料センター管理者等(事務局に入る) |
被害者対応機能 |
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・ 被害者が発生した場合に被害者とその家族に誠意をもって対応
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・ 判明している情報は全て報告し、対策について誠意をもって説明
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・ 直接面談して被害状況を把握
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・ 状況により、一定レベル以上の人間による被害者家族への個別対応が必要
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・ 組織と被害者の双方の立場に立った行動ができる精神的にタフな人を選ぶ
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・ 被害者とその家族の感情に配慮した態度、言動、服装を心掛ける
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・ 感情的にならない
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・ 被害が深刻な場合には個別に担当者を決めて対応する
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人事、労務、総務、消費者対応部門から人選 |
組織内対応機能 |
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・ 対策本部の社内対応を総括し社員・関係者の不要な動揺を鎮め、会社の対応方針への理解・協力を求める
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・ 関連企業にも事情を説明して協力を求める
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・ 対応の基本はポジションペーパーを活用
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・ 社内の動揺を抑えることを最優先する
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・ メディアからの取材には広報を通すことを改めて徹底する
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・ 社名の一部に社名を使用している企業グループ子会社の場合には大きな影響を受ける場合がある。
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・ 組織の再建は内部の人間の力によることを認識して対応する
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・ 企業秘密や事実関係の確認できないもの、特定個人に影響のあるもの、社内スキャンダルの詳細等は開示しない
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・ 外部通報による場合はメディアの取材が先行していることに留意し犯人探しをしない(第2、第3の告発を誘発する)
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・ 国際報道がある場合は、現地にも情報提供する必要がある
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人事、総務、広報、営業等から人選 |
社外アドバイザー |
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・ 事態を専門的立場から判断して危機対策本部に助言
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・ 組織ではなく個人の力で対応力が異なる
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・ 対応方針の最終的選択は組織にある
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・ 直ちに具体的対応を求めるより対応方針への助言を求める
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・ 守秘義務契約を交わす
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顧問弁護士、専門のコンサルタント会社、学者、評論家等 |
※ 後藤正彦『緊急事態を乗り切る企業のリスク・コミュニケーション』(日本能率協会マネジメントセンター、2001)をベースに筆者が作表した。