◇SH1704◇ニチイ学館、子会社における第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応 平井 太(2018/03/14)

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ニチイ学館、子会社における第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応

岩田合同法律事務所

弁護士 平 井   太

 

 株式会社ニチイ学館(以下「ニチイ」という。)の子会社が運営する高齢者介護施設の元従業員が、同施設の入居者を殺害したとして逮捕・起訴された(以下「本件」という。)[1]。これを受けて、ニチイは、原因の究明及び再発防止策の提言を目的とした第三者委員会を設置し、今般、同委員会による調査報告書が公開された。本件は殺人罪で起訴されているが、本件の詳細や動機など、現時点ではその真相は明らかではないため、本稿では、従業員が刑事手続における捜査・訴追対象となった場合の対外的な対応一般について述べることとしたい。

 

 刑事手続は、捜査段階と公判段階に分類される。一般に、捜査段階とは、検察官によって起訴されるまでの段階、公判段階とは、起訴されてから判決が確定するまでの段階を指す。

 一般的な刑事事件の流れは上図のとおりであるが、ある者が捜査対象となった[2]からといって、必ず逮捕されるわけではなく、被疑者が逮捕されるか否かは、逃亡や証拠隠滅のおそれなどを総合考慮して判断される。逮捕された場合は、逮捕から48時間以内に検察庁に送致され、引続き勾留手続により身柄拘束される。逮捕されなかった場合は、身柄拘束がないまま検察庁に事件が送致される。

 被疑者が勾留中に起訴された場合、基本的には身柄拘束手続が判決確定時まで継続する[3]。そのため、ある従業員が逮捕・勾留された場合には、長期間にわたって出勤が困難となり、このような事情を契機として、従業員が捜査対象となっている事実を会社が把握することがある。他方、逮捕等による身柄拘束手続がとられない場合には、従業員が捜査・訴追対象となっている事実を会社が把握することがないまま刑事手続が進行・終結するというケースもそれなりにみられる。

 

 従業員が捜査対象となっている事実を会社が把握する機会としては、①報道、②従業員からの申告、③警察等捜査機関からの会社に対する問い合わせなどが考えられる。

 まず、①により把握した場合、既に当該事実は公知の事実となっているため、会社が報道機関等からコメントを求められることなどがある。このような場合、多くの会社は「事件の内容については捜査中でありコメントは控える」、「報道により迷惑・心配をかけたことをお詫びする」といったコメントを出す。全ての被疑者・被告人には無罪推定の原則[4]がはたらくこともあり、事件の内容についてのコメントを控えるのは一般的には妥当な対応と考えられる。対外的な謝罪の対象としても、少なくとも有罪判決が確定するまでは「従業員が犯罪を起こしたこと」を対象とすべきでないものと考えられるものの、その家族を含めた被害者側への対応については別途検討する必要がある。

 他方、②や③により把握した場合は、未だ当該事実が報道されていないことが想定される。この場合、当該事実を公表することが捜査の妨げになるおそれなどもあることから、基本的には、会社自ら当該事実を公表する必要はないものと思われる。

 

 もっとも、犯罪といっても多種多様なものがあるから、会社がとるべき対応については、嫌疑の対象となっている犯罪事実の内容に鑑みて検討する必要がある。例えば、当該犯罪事実が、従業員のプライベートにおける個人的な犯罪とは整理できず、会社の業務に関連して惹起された犯罪と評価されるような場合には、会社が社会的な非難を受けるおそれがあるため、会社には、(主にステークホルダーに対する)一定の説明責任や再発防止措置の構築が求められるものと思われる。

 本件では、昨年11月14日付で元従業員が逮捕され、当該事実が報道されているところ、ニチイ子会社は、同日夕方には記者会見を行い、報道機関に対し、元従業員の勤務態度や本件発生直後の元従業員の様子などを説明している。これは、本件が、従業員が会社運営施設において勤務中に入居者を殺害した(とされる)事件であり、まさに会社の業務に関連して惹起された犯罪と位置付けられるためであろう。ニチイが、さらに進んで第三者委員会を設置して本件に対応することとなった経緯は明らかではないが、かかる対応も、本件が会社の社会的評価に与える影響の大きさに鑑みての対応であったものと思われる。

以 上



[1] 当該従業員は、本件発生時は同施設において勤務していたが、本件発生後・逮捕前に自主退職している。

[2] 刑事訴訟法上、捜査機関から嫌疑をかけられて捜査対象となった者を「被疑者」といい、起訴された者を「被告人」という。

[3] 起訴後は、保釈手続により、勾留の効力が一時的に解かれて釈放されることがある。

[4] 狭義には、検察官が犯罪事実を立証できない場合には被告人を無罪とするという刑事訴訟手続の原則であるが、広義には、「刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する」という国際人権規約上の規定を指す(国際人権規約B規約14条2項)。

 

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