◇SH2514◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(160)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉜ 岩倉秀雄(2019/05/07)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(160)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㉜―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、ミトロフをベースに、危機の予防に関する筆者の基本的認識と対策の一部を述べた。

 危機管理の最上の策は、その発生を予防することであり、経営者はリスク管理や危機に対する備えの重要性を共通認識化し、組織文化にビルトインする必要がある。

 重大な危機に直面する確率の高い企業には、(1)否定(わが社には起きない)、(2)不承認(起きても影響は少ない)、(3)理想化(立派な企業には起きない)、(4)誇大妄想(我社は強大なので危機を防げる)、(5)転嫁(誰かがわが社を陥れようとしている)、(6)理屈(発生確率が小さいので備える必要はない)、(7)仕切り(各部門が独立しているので全体に影響はない)という認識が発生しやすいので、経営者はこのような意識が組織内に発生しないようにする必要がある。

 今回は、危機予防のためのシグナル(予兆)の察知について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㉜:組織の危機管理④】

 シグナル(予兆)を察知することは、リスクを危機化させないために極めて重要であり、その方法として以下が想定される。

  1. 1. 消費者・顧客からのクレーム分析
  2. 2. 全社的なリスク調査アンケート
  3. 3. 内部監査時のチェック
  4. 4. 従業員相談窓口の活用

 

1. 消費者・顧客クレームの分析

 クレーム分析では、その発生頻度と性質を分析して基準を設け、基準値を超えたらただちに関係者間の協議を行って対策を実施することが必要である。

 適時に対策が実施されなければ、リスクが危機に進展する。

 

2. 全社的なリスク調査アンケートの実施

 リスク調査アンケートは、職場ごとに想定されるリスク項目をカテゴリー毎に分類し、影響度(発生頻度×ダメージ)の高いものから対策を決定・実施する。

 定期的に実施することにより従業員のリスク意識を喚起するとともに、企業が現在抱えているリスクを発掘することができる。

 本社のリスク対応部門は、現場の問題意識を理解せず、あがってきたリスクを無視するような態度は最も避けなければならない。

 なお、リスク対応にはさまざまなレベルがあり、ただちに対策を実施しなければならない場合もあるが、リスクを認識しながらも監視下におく場合(リスクの保有)、保険をかける(リスクの軽減)場合もある。

 往々にして現場からは、日ごろ問題意識を持っているものの予算や要員の制約でただちに解決できない問題があがってくる場合があるが、これに対し本社はリスクを保有する場合には、ただちに解決できない理由とともに対応方法について回答し説明しなければならない。

 これを怠ると、現場はリスク管理のモチベーションを下げ、結果として重要なリスクが見過ごされることとなる。

 また、リスクの内容によっては、1部署の問題としてあげられたものが組織全体に共通する問題である場合もあり、さらに調査が必要となることもある。

 

3. 内部監査時のチェック

 内部監査時には、事前に実施したリスクアンケートやコンプライアンスアンケートの結果と書面による自己監査の結果、前回の内部監査結果等を参考にしつつ、その場でのヒアリング等を通して問題点を把握する。

 経験上、概してコミュニケーションの悪い職場では問題が発生しやすい

 そのような職場では、リスクや失敗の隠蔽、パワハラやセクハラ等が発生しやすく、不満を抱く従業員による内部告発の可能性も高まっているので、職場のコミュニケーションを良くすることは、不祥事の発生を防ぐ上で最も基本的なことである。

 

4. 従業員相談窓口の活用

 従業員相談窓口の設置・活用は、社内リスクの把握・削減に非常に効果があるので、規模に関わらず全ての企業が積極的に取り組むべきである。

 筆者の経験では、相談窓口の対応は専門会社や弁護士事務所などに任せきりにせず、組織内の所管部門が誠意を持って対応し、外部の専門家は補完的に活用するべきである。

 確かに、組織の規模とスタッフ数によっては担当部門だけでは手が回らない場合や、自組織内には言いにくい問題も収集する必要があるので、外部に相談受付窓口を開くことは、リスク管理上大いに意味があるが、あくまでも問題の解決は自組織で行わなければ、組織の自浄作用が働いたことにはならない。

 「社内の問題やリスクをまず社内で解決する」という組織の姿勢や、「自ら組織を良くするという強い信念を示して従業員の信頼を得る」ことが、従業員相談窓口の運営においては第一に必要である。

 相談の対応において心がけるべきことは、ささいなことでもまずは聞くという姿勢を示し門前払いにしないことや、必ず相談に対する第一報を早急に返して相談者に安心感を与えること、解決の途中経過をできるだけ知らせることが相談者との信頼関係の維持に必要である。

 また、相談内容は必ず記録・分類・分析した上で、同様の問題が他の部署でも発生してないかチェックする必要がある。

 例えば、リスク削減のための一斉調査を相談とは直接関係のない名目で行うほか、コンプライアンスアンケートの項目や内部監査時のヒアリング項目に反映するなどの方法が考えられる。

 公益通報者保護法の対象となる「法律上の相談」以外の相談であっても、すべての相談者の「相談の秘密を厳守する」とともに、相談者や相談解決に協力した者への不利益扱いが行われないように監視し、「不利益扱いを受けた場合には担当部門に報告する」ように相談者等に伝えることも重要である。

 これらのことは、従業員相談窓口の信頼性を高め相談の仕組みを維持する上できわめて重要である。

 なお、従業員が単なる職場の不満を通報する場合や、上司や同僚との人間関係のあつれきが原因で相談窓口に通報する場合もあるが、これに対しても、相談窓口対応者は丁寧に対応し処理しなければならない。

 そうでなければ、何らかの意図を持って対応の不十分さを口実に外部に通報する場合も考えられ、リスク削減に役立つはずの従業員相談窓口そのものがリスクを生むことになりかねないからである。

つづく

 

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