会社法の一部を改正する法律案
岩田合同法律事務所
弁護士 藤 原 宇 基
令和元年10月18日、政府は、社外取締役設置の義務化、株主総会資料の電子提供制度等を定めた会社法改正案を閣議決定した。
平成31年1月16日に法務省法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会において決定された「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」が同年2月14日の法制審議会総会において「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」(以下「法制審議会要綱」という。)として決定され、法務大臣の答申を経て、閣議決定されたものである。政府は本国会での成立を目指しており、施行日は一部を除き公布の日から起算して1年6ヶ月を超えない時期とされている。
1. 構成
法律案要綱の構成は以下のとおりである(カッコ内は法制審議会要綱を参照)。
(株主総会に関する規律の見直し) |
第1 株主総会資料の電子提供制度 |
第2 株主提案権 |
(取締役等に関する規律の見直し) |
第3 取締役の報酬等 |
第4 補償契約 |
第5 役員等のために締結される保険契約 |
第6 業務執行の社外取締役への委託 |
第7 社外取締役の設置義務 |
(その他) |
第8 社債の管理 |
第9 株式交付 |
第10 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解 |
第11 議決権行使書面の閲覧等 |
第12 会社の登記に関する見直し |
第13 取締役等の欠格条項の削除及びこれに伴う規律の整備 |
第14 施行期日等 |
2. 制度紹介
本稿においては、このうち株主総会資料の電子提供制度(第1)及び取締役の報酬等 (第3)について紹介する(株主提案権(第2)及び社外取締役の設置義務(第7)については、要綱案(仮案)段階の解説としてSH2180法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会、会社法制(企業統治等関係)見直しに関する要綱案(仮案) 森 駿介(2018/11/07)を参照されたい。)。
⑴ 株主総会資料の電子提供制度
株式会社は、株主総会資料(株主総会参考書類、議決権行使書面、計算書類及び事業報告並びに連結計算書類)について、電磁的方法により株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置(電子提供措置)を取ることによって、株主の個別の承諾を得ることなく、株主総会資料を適法に提供したものとみなされる。株主にとっては株主総会資料の提供の迅速化により議案の検討等の時間をとることができるというメリットがあり、会社にとっては紙媒体により提供する場合に比べて安価かつ迅速・大量に情報を提供することができるというメリットがある。電子提供措置を取るためには定款で定めることが必要であるが、振替株式を発行している会社は施行日を効力発生日とする電子提供措置を採用する旨の定款の変更の決議をしたものとみなされる。上場会社においては、電子提供制度を導入した場合の作業スケジュールや作業分担について早期に検討し、電子提供措置開始日[1]に備える必要がある。
⑵ 取締役の報酬等
取締役に対し職務を適切かつ効率的に執行するインセンティブとなるよう取締役の報酬等について規律が定められている[2]。
対象となる会社は、自社の取締役の報酬制度が取締役にとって適切かつ効率的な職務執行に対するインセンティブとなることを説明できるようにしておくことが求められる。
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一定の監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社における取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を取締役会で決定する。 |
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株式、新株予約権、その他金銭でない報酬について、上限等について株主総会の決議により定める。 |
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上場会社において、株式の無償付与、出資を要しない新株予約権の発行を可能とする。 |
以上
[1]法制審議会要綱の附帯決議では、「金融商品取引所の規則において、上場会社は、株主による議案の十分な検討期間を確保するために電子提供措置を株主総会の日の3週間前よりも早期に開始するよう努める旨の規律を設ける必要がある。」とされている。
[2]法制審議会要綱では、ⅰからⅲの他に公開会社における会社役員の報酬等に関する事項(報酬等の決定方針に関する事項等)について、事業報告による情報開示に関する規定の充実を図るものとされている。