◇SH2640◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(174)コンプライアンス経営のまとめ⑦ 岩倉秀雄(2019/07/02)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(174)

―コンプライアンス経営のまとめ⑦―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、合併組織のコンフリクトの発生そのものを抑える方法をまとめた。

 マーチ&サイモンによれば、コンフリクトは、組織内でメンバー間に共同意思決定の必要感がありながら、「目的の差異」や「知覚の差異」が発生することにより発生する。

 合併組織において、目的の差異を無くすためには、先の見えないことに対する従業員の不安が大きいので、経営者が新たに設立された合併組織の、設立目的や経営理念、ビジョン、目的達成に必要な行動(行動規範)を明示し、目的達成のために必要なストーリーや経営資源の配分(戦略)とその実施方法(戦術)を、繰り返し徹底的に、従業員に伝えることが重要である。

 また、知覚の差異を減ずるためには、合併組織では人事評価や処遇において出身会社主義による差別感が発生しやすいので、旧社の給与体系を持ち込み調整給で調整する等の出身会社主義の給与体系を排除し、同一労働同一賃金を基本とし組織貢献度による評価・処遇や、評価者訓練の徹底、あえてチーム貢献を評価する仕組みの設定、合併の初期における経営管理システムへの慣れ・不慣れを踏まえた評価等、が重要である。

 なお、合併組織の設立当初は、組織文化の形成期にあたることから、経営者が主導して、コンプライアンス重視の新たな組織文化の形成を意図的・迅速に進めることが重要になる。

 今回は、発生したコンフリクトを顕在化させない方法をまとめる。

 

【コンプライアンス経営のまとめ⑦:合併組織のコンプライアンス③】

 一般に考えられるコンフリクトの顕在化を調整するメカニズムは、第一に、公式権限が明確に設定されており、組織内に成員が納得できる合理的な意思決定プロセスが存在し厳格に運用されることである。

 第二に、コンプライアンス・アンケートによる課題の把握と対策の迅速な実施のように、組織がコンフリクトの原因となる課題を事前に発見して、深刻化する前に対応することである。

 第三に、上司と部下の適切なコミュニケーションの確保、従業員相談窓口の整備、労働組合との良好な関係のように、現場で発生したコンフリクトを調整し解決へと導く公式・非公式の調整システムが存在することである。

 その他には、親会社やメインバンク等ガバナンスに影響を持つ組織が、合併組織をモニタリングして実際に機能しているかをチェックし、必要により介入することも重要になる。

 

1. 公式権限の明確な設定と合理的意思決定プロセスの確保

 合併組織の多くは、設立準備段階で、職務分掌・職務権限等、公式権限が規定化されているが、実際の運用では、出身会社主義の情実により左右される場合がある。

 例えば、コンプライアンス違反が発生し、コンプライアンス担当部門がそれに厳しく対応しようとしても、有力株主より派遣された役員や幹部社員が、違反者が自社の系列会社出身者である場合には、厳しく対応しないばかりか、コンプライアンス担当部門を逆恨みする場合すらある。

 コンプライアンス部門長が出世競争のライバルである場合には、「コンプライアンス部門長は自分の出身会社の者に厳しく対応せず、他社出身者には厳しい」と、根拠の無いデマを意図的に流布し、誹謗中傷にすることも発生しやすい。

 合併会社のコンプライアンス部門は、気心の知れない他社出身の部門長や役員に気を使い、コンプライアンス部門が本来行なうべき職務権限に基づく調査・指導・助言等も行いにくく業務遂行の困難度が高いが、コンプライアンス担当者は、組織のために自らのリスクをいとわず使命感を持って職務を遂行する覚悟が必要である。

 経営者は、そのようなコンプライアンス部門の置かれた困難な状況と努力を認識して人選し処遇する必要がある。

 そうでなければ、コンフリクトの顕在化を調整する統制力を働かせることが難しくなる。

 

2. コンプライアンス・アンケートによる課題の把握と対策の迅速な実施

 リスクを事前に発見する方法には、内部監査・監査(含会計監査)等の他に、コンプライアンス・CSRアンケートがある。

 アンケート調査は、無記名で定期的に子会社を含めて実施し、一定の調査項目のほかに、自由記入欄を設けて、リスクの早期把握・対応に努めることが重要である。

 アンケート調査は、単に意識の時系列的変化の把握ではなく、匿名でも部署ごと・項目ごとに集計し、問題の所在を把握する必要がある。

 個人名は特定できないが、部署ごとに集約することで各部署の実態を把握し、自由記入欄に訴えられた緊急性の高い問題については、部署長と連携し、問題解決に向けて行動できるようにする必要がある。[1]

 なお、全体平均と比較して劣る場所の部署長に改善を求める必要もある。

 コンプライアンス・アンケートの実施で重要なことは、職場に潜在する緊急性の高い問題を発見した場合に、放置せず直ちに解決に動くことである。

 リスクの発生を知りながら放置すれば、コンプライアンス部門、経営者およびアンケートそのものに対する従業員の信頼を失い、外部通報の動機になり、リスクの事件化につながり、組織は社会の信頼を失うことになる。[2]

 次回は、統制力を働かせる方法の一つとして最近注目されている、従業員相談窓口の運用について、経験を踏まえて実践的な留意点をまとめる。

つづく

 


[1] 筆者は、自由記入欄にセクハラ、パワハラ等の指摘があった場合、直ちに現場に行き、部署長と協議し、部署全体にコンプライアンスの重要性を研修するとともに、(特定できないが)問題を指摘した人に、従業員相談窓口に相談するように促し、研修後に相談を受けて解決した経験がある。

[2] 軽微な犯罪も徹底的に取り締まることで、凶悪犯罪を含めた犯罪を抑止できるとするアメリカの犯罪学者ジョージ・ケリングが考案した壊れ窓理論(英: Broken Windows Theory)が有名である。また、不祥事発生企業では、内部通報があったにもかかわらず、行動しなかった例が少なくない。

 

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