◇SH1626◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(44)―コンプライアンス施策の留意点 岩倉秀雄(2018/02/06)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(44)

―コンプライアンス施策の留意点―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、移行過程における「対立」の発生原因とそのマネジメントについて考察した。

 「対立」は、組織内のグループ間の政治的駆け引きが活発化することにより発生する。放置しておくと情報の隠ぺい、囲い込み、非協力等が発生し革新のモーメントが破壊される危険がある。

 革新の推進者は、反対集団には断固とした姿勢で臨み公式の場で十分に議論し論破することや、各グループのリーダーの力を活用して協調に向かう状況を作る等、硬軟織り交ぜた「対立」のマネジメントを実施しなければならない。

 今回は、最近、再び我国の大企業におけるコンプライアンス違反が増加していることから、「革新を阻むもの」を踏まえたコンプライアンス施策の留意点を考察する。

 

【コンプライアンス施策の留意点】

  1. 1. 代表権を持つ経営トップがコンプライアンス担当者になり、コンプライアンス施策の実行へのコミットメントを強力に行う。経営トップはコンプライアンス部門に任せきりにせず、コンプライアンス部門長とのコミュニケーションを密にして、指示した施策が実現し得る状態にあるかを把握することに努めなければならない。(必要により、コンプライアンス部門の要員、予算の確保を所管部門に指示しなければならない)
  2. 2. 革新の核になるコンプライアンス部門に強力な人材を配置して権限を与え、組織文化をコンプライアンス重視のものとしていく姿勢を具体的に示しながら、革新の象徴とする。
     他部門はコンプライアンス部門に配置された人材を見て、経営者の本音を読み取っている。コンプライアンス部門に問題のあった者を配属する場合や、頻繁に要員を入れ替えることは避けなければならない。
  3. 3. 経営者は、「革新を阻む動き」に対しては、断固とした措置を取る必要がある。不祥事を発生させていない企業では、時には、担当役員を担ぎ出して反対運動を起こす場合もある。そのような場合には、情理を尽くして説得する、会議等公式の場で説明・反論することが求められるが、基本的には経営トップが断固とした態度を示さなければならない。 
  4. 4. コンプライアンス評価アンケートにより、組織の現状を把握するとともに、あるべき姿とのギャップを明らかにし、最終的にコンプライアンスを重視する組織文化に革新できなかった場合の問題点を確認・検証し、共有化することにより、進めつつある革新についての理解を得る。
  5. 5. 革新の影響を大きく受けると想定される管理職層を革新の核とする。彼(彼女)等をコンプライアンスプログラムの主体ととらえ、職場単位での議論のリーダーに据える。これにより、個人の価値観にコンフリクトが生じることは避けがたいものの、他方において、革新の担い手としての使命感が抵抗感を上回ることになると想定される。
  6. 6. 職場単位のコンプライアンス活動を発表する全社的な機会を設ける。優れた活動を積極的に評価し褒賞を与え、社内報などで広く紹介する。革新の象徴として表彰することは、組織の価値観をわかりやすく伝えることになる
  7. 7. 教育・訓練を強化する。これまでの組織文化のアンラーニング(学習棄却)と新しい価値のラーニング(学習)をセットで行うことにより、捨てるものが何であり、身に着けるものが何であるかがわかりやすくなり、不安を取り除くことができる。そのためには、なぜアンラーニングが必要なのか、何をアンラーンニングするのか、ラーニングするもののビジョンや概念は何かが、明確になっていることが前提となる。また、新たにラーニングしたものが再凍結され内面化されることにより、実際の行動を導くことにならなければならない。[1]
  8. 8. 移行過程で問題が発生した場合には、コンプライアンス部門が迅速、的確な指示や支援を提供しなければならない。そのためには、コンプライアンス部門と現場とのスムーズなコミュニケーションが確保されていなければならない。併せてコンプライアンス部門が常に自部門のレベルアップに努め問題解決力を高めておく必要がある。

 次回からは、「やらされ感の克服」について考察する。

 


[1] このプロセスは、いわゆる文化変容のメカニズムである。

 シャインは、「心理的安心感を作り出すためにチェンジマネージャーが行うべきこと」として次の8項目を挙げている。(Edgar H.Schein(1999)”The Corporate Culture Survival Guide(金井壽宏監訳・尾川丈一・片山佳代子訳『企業文化――生き残りの指針』(白桃書房、2004年)127頁~128頁)

 1. 説得力ある明確なビジョンの呈示
 2. 正式な訓練
 3. 学習者の参加
 4. 関連する「身内」グループおよびチームの非公式の訓練の受け入れ
 5. 練習の場、コーチ、フィードバック
 6. 他人による建設的な役割モデル
 7. 支援グループ(学習に関わる問題を公表し議論するグループにより互いを支える)
 8. 首尾一貫したシステムと組織構造(新しい考え方、働き方と一致した報酬と規律のシステムと組織構造)

 

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