◇SH2650◇経産省、第6回 国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 法務機能強化 実装ワーキンググループ 小西貴雄(2019/07/05)

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経産省、第6回 国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会
法務機能強化 実装ワーキンググループ

岩田合同法律事務所

弁護士 小 西 貴 雄

 

 経済産業省は、令和元年6月24日、同月21日に開催された「第6回 国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 法務機能強化 実装ワーキンググループ」の議事次第と事務局提出資料を公開した。

 国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会(以下「本研究会」という。)は、企業を取り巻く法的環境が大きく変化し、企業のリーガルリスクがこれまで以上に多様化・複雑化している昨今において、日本の企業が国際的な競争に勝っていくため、リーガルリスクを「チャンス」に代えていく戦略的な法務機能が不可欠であるという問題意識から、日本企業の法務機能強化の方向性の検討等を行うことを目的として組織された研究会である。本研究会は、平成30年4月18日に「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」を公表した。同報告書は、これからの日本企業には、企業価値を守る「ガーディアン」としての機能(守りの機能)だけでなく、企業価値を最大化する「ビジネスのパートナー」としての機能(攻めの機能)を兼ね備えた法務機能が求められる、との見解を示した。

 「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 法務機能強化 実装ワーキンググループ」(以下「本グループ」という。)は、本研究会での議論を踏まえ、日本企業がどのように社内に有効な法務機能を実装するかについて検討し、検討結果を本研究会に諮るために組織されたものである。事務局提出資料によると、本グループ第6回では、法務機能の理想像と、理想像の実現に向けた法務機能の改善策の方向性が議論されている。

 

1 法務機能の理想像

 本グループは、会社の法務機能の理想像として、①クリエーション、②ナビゲーション、③ガーディアンの3つの機能を備えていることが必要であると述べる。

 まず、①クリエーションとは、枠を広げる機能であるとされている。すなわち、会社として実現可能な事業の範囲を、法務の観点からの工夫により最大化するための機能である。次に、②ナビゲーションとは、枠内での最大化を図る機能であるとされている。すなわち、クリエーションによって設定された枠の範囲内で事業化する(価値を創造する)ため、法務の観点からリスク分析や選択肢の提示等の戦略提案を行う機能である。最後に、③ガーディアンとは、枠外をさせない機能であるとされている。すなわち、会社が実施する事業が、クリエーションで設定した枠を超えた違反行為にならないよう、事業範囲を制限する機能である。

(出典:法務機能実装の方向性のストーリー(案)(2019年6月 経済産業省))

 

2 改善策の方向性

 法務機能の改善策の方向性においても、法務部が「ビジネスのパートナー」として企業価値の最大化に寄与するため、事業部との関係性を強化するための方策が提案されている。具体的には、事業部にアンケートを実施して法務部のビジネス理解等について評価してもらうこと、法務部が設定した方針等を事業部に対して開示すること、法務部と事業部がそれぞれの会議に相互に出席すること等が提案されている。

 

3 本グループの研究による実務上の影響

 従来の日本企業では、法務機能が果たすべき役割は、企業が違反行為を犯さないように監視すること、すなわちガーディアンとしての機能に重きが置かれていたように思われる。しかし、本研究会や本グループは一貫して、法務機能がビジネスのパートナーとして積極的に価値創造を行うべきであると考えている。その根底にあるのは、米国スタートアップ企業等の国際競争力の高い企業と日本企業の間にある、法務部門に対する認識の相違に対する危機感であろう。

 本グループは、米国のスタートアップ企業では事業を推進させるファンクションとして法務が認識されていると指摘する。他方、従来の日本企業のように、法務の役割をガーディアン機能に限定してしまうと、法務は会社が事業を推進するための足枷となってしまうおそれがある。今後、日本企業が国際的な競争に打ち勝っていくためには、法務に対する発想を180度転換し、事業を前に推進させるファンクションとして法務部門を再構成することが不可欠であると考えられる。

 今回、本グループが示した、ガーディアン機能と共にクリエーション機能・ナビゲーション機能を備えた理想像としての法務機能や、法務部が事業部と連携することを求める改善策の方向性は、企業の法務部が積極的な価値創造に寄与できるようになるための重要な視点であると考えられる。今後、日本企業が法務部門の改革に着手するに当たっては、本研究会や本グループの研究結果から有益な示唆を得ることができるものと思われる。

以 上

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