企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
3.販売(役務提供を含む)、流通、クレーム・製品事故対応
(3) 営業が「してはならない」取引
① 営業が厳禁にすべき3つの取引類型。
- 1) 他社とのカルテル・入札談合
-
営業は、商品を販売するときに、できるだけ高値で、少しでも多く売ろうとする。そこで、競争相手との間で価格調整・市場分割・生産量調整等を行って営業業績を上げようとする者が現れる。
しかし、これらの行為は事業者間の競争によって消費者利益の確保を図る独占禁止法(競争法)に抵触し、企業と個人が厳しい制裁を受ける。
- 2) 贈賄(公務員・外国公務員への贈賄、私人間の贈賄)
- 多くの国で、事業活動に関係して公務員に金銭・その他の賄賂の提供・申込・約束をして便宜を図ってもらおうとすると、贈賄罪として刑事罰が科される。
- (注) 日本は、公務員贈収賄、外国公務員贈賄、取締役等に係る贈収賄を禁じている[1]。
- 私人間の取引における贈賄も刑事罰の対象になる国(英国、中国等)があるので、注意したい。
- (注) 中国は、公務員贈収賄、外国公務員贈賄、商業賄賂を禁じている[2]。
-
私人間の取引が贈収賄の対象になる場合は、販売リベート等が贈賄(金銭の提供)とみなされる可能性があり、販売制度の合法性とその運用の透明性に留意しなければならない。
なお、米国・英国の贈賄規制は、次のように広い範囲に適用されるので、注意したい。 -
米国:地理的範囲(域外適用)、犯罪の範囲(共謀罪が存在)、第三者に依頼した者の責任を問う
英国:地理的範囲(域外適用[3])、犯罪の範囲(贈収賄を、私人と公務員の間に限らず、私人間にも適用)
- 3) 反社会的勢力との取引
-
日本では、2007年の政府指針[4]によって反社会的勢力との取引を遮断する動きが本格的になった。
(注) 反社会的勢力とは、暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関連企業、総会屋、社会運動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団等をいう[5]。 -
この政府指針を受けて、民間企業で契約書・約款の中に「暴力団排除条項」を挿入する取り組みが進み、2011年10月に、全都道府県で暴力団排除条例が施行された。
一方、米国でも、日本のやくざ(YAKUZA)等が「重大な国際犯罪組織」に指定され、その資産の凍結等が行われている[6]。
企業としては、取引先を審査・選別することが重要であり、そこで営業が果たすべき役割は大きい。
ただし、自ら「私は、反社会的勢力です。」と名乗り出ない者が反社会的勢力に該当するか否かを、企業が正確に審査するのには限界がある。そこで、自助(過去の取引記録・相手先訪問等による判定)、共助(全国銀行協会・生命保険協会・日本証券業協会等の協会内部連携)、公助(警察庁との間で反社会的勢力データベースを接続等)を組み合わせて、反社会的勢力を排除する取り組みが進んでいる。
(注) 日本の全国銀行協会は「反社会的勢力との関係遮断」を徹底する目的で、暴力団情報データベース(警察庁)の効果的な活用を行っている[7]。
② 顧客を騙さない。
- 1) 販 売
-
顧客を騙して販売・サービス提供をしない。
盗品、知的財産権の侵害品(特許権・著作権等の侵害品<いわゆる模倣品・海賊版を含む>)、規格外品、不正表示品(産地・製造年月日・効能等の虚偽表示品、契約違反の特性の製品)を売らない。
商品の特性・性能を分かりやすく正確に説明する。
無許可・無資格で営業しない。
人の生命・健康に影響を与える物品・サービス、危険物、武器、環境汚染物質、保護対象の希少動植物等の取り扱いには、当局の許認可・届出や国家資格が要る。 -
例 食品、医薬品、麻薬、毒物・劇物、銃砲、火薬、放射性物質
- 2) 輸出、輸入
-
関税法・外為法を遵守する。税関・警察等の捜査に顧客が巻き込まれる事態(その可能性がある取引)は絶対に避ける。
輸出入禁止貨物は、取り扱わない。
法定の禁制品を、企業内の関係者に周知する。
安全保障貿易管理を厳正に行う。
国連制裁国への送金・物品輸出は、迂回を含めて禁止・規制する。
正しい関税率を適用する。
[1] 刑法198条。不正競争防止法18条1項。会社法967条、968条
[2] 中国刑法387条、389条、164条2項。改正反不正当競争法7条(2018年1月1日施行)。商業賄賂行為の禁止に関する暫定規定2条
[3] 2010年4月8日制定 UKBA(The Bribery Act 2010 :英国2010年贈収賄禁止法)12条
[4] 平成19年(2007年)6月19日犯罪対策閣僚会議申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」
[5] 2008年警察庁次長通達「組織犯罪対策要綱」参照
[6] 米国大統領令(2011年7月25日)で、国際的にテロ・麻薬取引等を行う組織が米国内に保有する金融資産を凍結し、構成員の入国を拒否すること等を柱とする「国際組織犯罪戦略」が発表された。2012年には、山口組と同組長等の米国内の資産凍結・商取引停止等が行われた。2018年10月時点で日本関係の制裁対象は、個人21・団体7(山口組、住吉会他)・企業2である。
[7] 全国銀行協会ホームページ(2018年1月4日付広報)は、2018年1月4日から警察庁の暴力団情報データベースへの接続を、次の枠組みで開始した旨を報じた。(1)接続:預金保険機構を介して実施する。(2)対象取引:新規の個人向け融資等とする。(3)対象者:個人の融資申込者等とする。