◇SH2579◇個人情報保護法の「いわゆる3年ごと見直し」で意見聴取が進む (2019/06/04)

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個人情報保護法の「いわゆる3年ごと見直し」で意見聴取が進む

――委員会では有識者ヒアリング、諸団体からは意見公表――

 

 個人情報保護委員会(嶋田実名子委員長)は5月21日、第106回会合を開催し、個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに係る有識者ヒアリングを行った。

 個人情報保護委員会では4月25日に「個人情報保護法  いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」(以下「中間整理」という)を公表し、5月27日まで任意の意見募集を実施していたところである。5月21日の会合では大学教授ら5名および弁護士1名から意見を聴取したほか、公表資料によると、欠席した弁護士1名の意見が確認できる。委員会では5月17日開催の第105回会合においても同様に有識者ヒアリングを開催、この会合では大学教授ら4名・弁護士1名・研究所研究員1名が意見を述べた。

 上記、中間整理は個人情報保護法の「3年ごとの見直し規定」を踏まえて委員会が具体的に進めてきた検討状況を中間的に整理・公表したもので、主要な個別検討事項として(1)個人情報に関する個人の権利の在り方、(2)漏えい報告の在り方、(3)個人情報保護のための事業者における自主的な取組を促す仕組みの在り方、(4)データ利活用に関する施策の在り方、(5)ペナルティの在り方、(6)法の域外適用の在り方および国際的制度調和への取組と越境移転の在り方の6点を掲げた。

 仔細にみると、たとえば(4)では匿名加工情報(特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、当該個人情報を復元できないようにした情報)について、一定のルールの下で本人の同意を得ることなくパーソナルデータの利活用を促進するための匿名加工情報制度(平成27年改正法により導入)に関する活用状況や認定団体における取組状況を示しつつ「匿名加工情報についてよく知らない」「利用方法が分からない」といった事業者からの声を紹介するとともに、EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation. 以下「GDPR」という)における匿名化・仮名化との比較を示した。委員会としては、制度の具体的な利活用モデルやベストプラクティス等を発信していくことが重要と位置付けており、また、仮名化のような規律について「具体的に検討していく必要がある」としている。

 この点、有識者ヒアリングの状況によれば、次のような意見がみられる。「(匿名加工情報制度については)計画的な人材育成が必要である」(弁護士)、「匿名加工情報の推進や『仮名化』の制度の検討よりも、第三者提供や利用目的変更について『適正な利益の目的』のようなバランステストを伴う一般規定を導入することの方が、情報および匿名化技術のより有効な活用に資するのではないか」(日本大学教授)、「官民データ活用推進のため、匿名加工情報・非識別加工情報をはじめとする定義の統一化等も必要」(慶應義塾大学教授)、「個人情報保護委員会には匿名加工情報の提供側に加えて、利用側にも周知をお願いしたい」「学術目的に収集された個人情報については、独立行政法人が匿名加工情報として提供できるようにされるべき」「GDPRにおける仮名化に類似した枠組みは我が国においても一定の有用性がある。一方で仮名化を行う事業者などが適切に技術的・組織的措置を講じているかを監視・監督するなどの仕組みが作れることが前提となる」(以上、国立情報学研究所教授)、「個人データの共同取得や共同利用に関して、取得者及びその範囲の明示、利用目的の特定・明示、苦情受付の窓口及び方法に関する個人情報取扱事業者の義務を明示すべき」(東京大学大学院教授)、「仮名化データの規制緩和は不適当」(弁護士)、「『仮名化』制度と同様の制度を、少なくとも第三者提供について、我が国も導入すべき」(弁護士)。

 なお、中間整理の意見募集に伴っては、たとえば日本経団連・情報通信委員会企画部会や全国銀行協会の意見が両者とも5月27日付で公表されており、「匿名加工情報の意義について、個人や事業者に対して積極的に周知すべき」「『仮名化』情報については、中間整理に記載のとおり、具体的なニーズの有無等を踏まえたうえで、広く活用される仕組み等について十分に検討すべき」(以上、日本経団連)、「今後も、継続的に具体事例に係る情報発信を希望する」「『個人情報』と『匿名加工情報』の中間的なものとして『仮名化』を具体的に検討することについては、仮名化の要件が明示されることによって業務利用が促進される可能性があり、積極的に賛同する」「仮名化の必要性について、具体的なニーズの有無等を含めて、慎重に検証するほか、匿名加工情報制度における企業の意見等も参考にしつつ、消費者・企業において、理解・納得が得られる制度とすべき」(以上、全銀協)といった意見がみられた。

 また、中間整理においては上記(5)のペナルティに関して「課徴金の導入」を取り上げつつも、「事業者の過度な萎縮を招き、ひいては創意工夫や技術革新の果実を国民が十分に享受できなくなる可能性があるとの見方もあり、ペナルティの相当性についての比較衡量が必要」などと慎重な姿勢を示すとともに、「我が国他法令における立法事例の分析も併せて行う必要」「罰則とは別に課徴金を導入する必要があるのかについても、様々な観点から検討する必要」について述べている。

 この点につき有識者ヒアリングでは、「課徴金の導入の前提として行政命令の実績と外国事業者への執行の実質確保があるべき」「課徴金を導入する際は対応のインセンティブを示すような規定ぶりにすべき」(以上、弁護士)、「(個人情報の誤用による十分な制裁があり、制裁金の導入は均衡を失しているため)日本で導入すべきではない」(亜細亜大学教授)、「(課徴金など制裁の強化を含む個人情報保護委員会の個人の権利利益保護に向けた)権限は強化していくべき」(新潟大学教授)、「海外事業者を含めエンフォースメントを強化するとともに、個人情報の適正な取扱いを高めるために、個人情報保護法(とりわけ補完的ルールの規律内容)に違反する事業者に対する制裁として、課徴金制度を導入すべき」(東京大学大学院教授)、「(委員会の慎重姿勢に対して)『指導等により違法状態が是正されているのが実態』と言えるか?(と疑問を呈する意見)」(京都大学大学院教授)、「課徴金制度を導入すべき」(弁護士)、「取り扱う個人データの数による『足切り』を条件に、課徴金制度の導入に賛成」(弁護士)といった意見があった。

 日本経団連では、中間整理に対する意見として「課徴金の導入や罰則の引上げについては極めて慎重に検討すべき」としたうえで、必要性が希薄であること、企業の個人データ活用を委縮させる懸念があることをその理由として挙げている。

 

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