◇SH3368◇中国:深セン市が全国初の個人破産条例を可決(上) 川合正倫(2020/11/04)

未分類

中国:深セン市が全国初の個人破産条例を可決(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 中国の破産制度は企業のみを対象としていたところ全国で最初の個人を対象とする破産条例となる「深セン経済特区個人破産条例」[1](以下「個人破産条例」という)が2020年8月26日に深セン市人大常委会により可決され、2021年3月1日から施行される。

 

 本条例は立法作業開始の正式公表から僅か4ヶ月という短期間で可決された。2020年4月10日に深セン市人大常委会が深セン経済特区個人破産条例の意見徴収座談会を開催し、同条例の立法作業開始が正式に公表された。2020年4月28日に、深セン市人大常委会の会議で初めて深セン経済特区個人破産条例のパブリックコメント案を審議し、6月2日には深セン市人大常委会の公式ホームページにて「深セン経済特区個人破産条例パブリックコメント案」が解説ともに公表された。さらに、深セン市人大常委会がそれぞれ6月28日及び8月24日に個人破産条例を審議し、8月26日に可決された。短期間で立法作業が進められており、本条例の早期施行に対する深セン市の強い思いが伺える。

 

 個人破産条例の主たる内容は、以下の事項が挙げられる。本条例のパブリックコメント案についての説明[SH3243 中国:深セン市が全国初の個人破産条例のパブリックコメント版を公布(上) 川合正倫(2020/07/21)SH3246 中国:深セン市が全国初の個人破産条例のパブリックコメント版を公布(下) 川合正倫(2020/07/21)]も参照されたい。なお、本原稿は中国律師王雨薇の協力のもと執筆した。

 

1. どのような人が個人破産を申し立てられる?

 個人破産の申立てをすることができる債務者は、深セン経済特区に居住し、3年以上継続して深センの社会保険に加入している自然人とされている。これらの者が、生産経営、生活消費により弁済能力を失い、又は資産が全債務の弁済に不足している場合は、破産清算、更生[中国語:重整]若しくは和議を申し立てることができる(個人破産条例2条)。さらに、当該自然人の配偶者も同時に破産清算、和議又は更生を申し立てることができる(個人破産条例171条)。上記のとおり、弁済不能の理由が生産経営又は生活消費とされているため、違法経営又は過剰消費により弁済不能となった場合は個人破産制度の保護を受けることはできない。

 

 債権者に対しても破産申立権が付与されている。具体的には、債務者が期限の到来した債務を弁済できないときは、単独又は共同で債務者に対して50万元以上の期限の到来した債権を有する債権者は、債務者の破産清算を申し立てることができる(個人破産条例9条)。債務者申立と異なり、居住地及び社会保険料支払の要件は規定されていない。

 

2. 破産したら、すぐに債務の免除を受けられる?

 破産清算手続において、債務者は一定の免責観察期間を経てから、残債務の免除を受けることができる。免責観察期間は、裁判所が債務者の破産を宣告した日から起算して3年間[2]とされている(個人破産条例95条)。この間に債務者が裁判所の行為制限決定に違反したときは、免責観察期間は最長2年延長される(個人破産条例96条)。さらに、裁判所は免責観察期間満了後、債務者の免責申請及び管財人の債務者免責観察に関する書面報告に基づいて、債務者の残債務を免除するか否かを裁定しなければならない(個人破産条例101条)。

 

3. 破産手続が開始したら、どのような制限を受けるか?

 債務者は、裁判所が債務者の行為制限を決定した日(破産申立受理日と同日)から債務者の行為への制限解除を決定した日(破産手続の終了裁定日と同日)までの間、以下の消費行為の制限を受ける(個人破産条例23条)。

  1. ① 航空機のビジネスクラス、ファーストクラス、列車の一等寝台、旅客船の二等以上、高速鉄道(Gから始まる番号の列車)及びその他高速鉄道の一等以上の席の利用
  2. ② 三つ星以上の旅館、ホテル、ナイトクラブ、ゴルフ場などでの消費
  3. ③ 不動産、自動車の購入
  4. ④ 家屋の新規建設、増築、内装リフォーム
  5. ⑤ 子女の高額の私立学校への入学
  6. ⑥ 高級オフィス、ホテル、アパートなどを事務所として賃貸すること
  7. ⑦ 高額の保険料を支払う保険理財商品の購入
  8. ⑧ その他生活や仕事に必要でない消費行為

 また、破産清算手続において、債務者は、裁判所が債務者の破産裁定日から債務者の残債務の免除裁定日までの間、上場会社、非上場公衆会社[3]及び金融機関の董事、監事及び高級管理職への就業制限を受ける(個人破産条例86条)。

 


[2] 3年間を経過していなくても、破産債務者が以下の条件を満たす場合、免責考察期間が満了したとみなされる(個人破産条例100条)。

(1)破産債務者が剰余債務を弁済し又は債権者が破産債務者の全ての弁済責任を免除した場合;
(2)破産債務者が3分の2以上の剰余債務を弁済し、免責考察期間が1年を経過した場合;
(3)破産債務者が3分の1以上3分の2以下の剰余債務を弁済し、免責考察期間が2年を経過した場合。

[3] 非上場公衆会社とは、以下のいずれかに該当し、その株券が証券取引所において上場していない股份有限公司をいう(「非上場公衆会社監督管理弁法」)。

(1)株券を特定の対象者に発行し又は譲渡により株主が累計で200人以上となった場合;
(2)株券を公開譲渡した場合

 

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました