経産省、グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答
――クラウド型サービスによる外国籍社員のビザ申請等サポート――
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 実 里
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本年7月19日、経産省は、産業競争力強化法の「グレーゾーン解消制度」に基づく行政書士法と出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)に関する照会に対し、総務省及び法務省の回答内容を公表した[1]。
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照会の具体的な内容は以下のとおりである。
⑴ 外国籍社員のビザ申請・管理のためのクラウド型サービス(以下「本件サービス」という。)において、利用者は、本件サービスのシステム上で、必要情報を入力することで、在留資格に関する申請書類を作成することができる。
また、利用者は、上記システムを利用して、事業者と提携している行政書士事務所又は行政書士法人に所属する行政書士に、地方出入国在留管理局への申請書類の提出を依頼することができる。
⑵ 本件サービスについて、以下の2点が照会された。
照会事項① |
在留資格に関する申請書類を作成できる点が、行政書士法第1条の2に規定されている「報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること」に該当しないか |
照会事項② |
利用者の希望があった際に、本件サービスのシステム上にて、提携行政書士に申請書類の提出を依頼できる点が、入管法第61条の9の3及び出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「施行規則」という。)第59条の6第3項第1号等に規定されている「申請等取次」に該当しないか |
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回答の具体的な内容は以下の通りである。
⑴ 照会事項①について(総務省の回答)
行政書士法第1条の2第1項は、「行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(…略…)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。…略…)その他権利義務又は事実証明に関する書類(…略…)を作成することを業とする。」と規定している。(なお、行政書士又は行政書士法人以外の者は、他の法律に別段の定めがある場合等を除き、当該業務を業として行うことが禁じられている(同法19条1項)。)
この点、本件サービスは、利用者が入力した情報をオンライン上で申請書類の様式に反映させるものであるところ、一般的に、事業者がウェブ上に一定の入力フォームを用意し、利用者が自己の判断に基づき、その入力フォームに用意された項目に一定の事項を入力し、当該利用者自身が申請書類を作成する行為(これらの行為を可能とするために提供される役務を含む。)は、行政書士法第1条の2第1項に規定する業務(他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類を作成すること)を業として取り扱ったとの評価まではされないものと考えられる。
⑵ 照会事項②について(法務省の回答)
- ア 入管法61条の9の3第1項3号は、在留期間更新の申請や在留資格取得の申請等、同号に定められた行為をするときは、外国人自らが地方出入国在留管理局に出頭して行わなければならないと定めている。
- 上記の本人の出頭義務の例外として、施行規則第59条の6第3項第1号は、所属する行政書士会等を経由し、その所在地を管轄する地方出入国在留管理局長に届け出た行政書士等は、地方出入国在留管理局に対する申請書や資料の提出等の事実行為を外国人本人等に代わって行うことができると定めており、外国人本人等に代わって申請書や資料の提出等の事実行為を行うことは、「申請等取次」と呼ばれている。
- このように、「申請等取次」とは、外国人本人等に代わって申請書や資料の提出等の事実行為を行うことをいうと解される。
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本件サービスのシステム上にて、提携行政書士に申請等取次を依頼できるとすることは、申請書や資料の提出等の事実行為そのものを行うわけではないと考えられることから、「申請等取次」には当たらないものと考えられる。
- イ なお、施行規則上、特定の申請については、取次を依頼する主体が定められていること、申請等取次は、取次を依頼する者から取次を行うことが認められている行政書士に直接依頼する必要があること、各種申請書等は、施行規則によりその様式が定められており、様式上、主体を定めた上で、その主体による署名や記名・押印が必要とされていることから、これに従って署名や記名・押印をする必要があることについて、留意をする必要がある。
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インターネット技術の発展により、多くの企業から様々なクラウド型サービスが提供されている。今回公表された照会と回答は、外国籍社員のビザ申請・管理のためのクラウド型サービスについてのものであったが、行政庁への申請等については、当該行為を行うためには一定の資格が必要であったり、提出書類の書式やその提出主体が限られていたりする場合がある。新たにクラウド型サービスの提供を始める場合は、かかるサービスに関連する法律に抵触していないかという観点からも、検討する必要があると思われる。