◇SH2773◇「消費者契約法改正に向けた専門技術的側面の研究会報告書」が公表される――被害多様化に対応、判断力低下に係る取消権も救済を手厚くする観点から新要件を検討 (2019/09/12)

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「消費者契約法改正に向けた専門技術的側面の研究会報告書」が公表される

――被害多様化に対応、判断力低下に係る取消権も救済を手厚くする観点から新要件を検討――

 

 消費者庁は9月6日、「消費者契約法改正に向けた専門技術的側面の研究会」(座長=山本和彦一橋大学大学院教授、座長代理=沖野眞已東京大学大学院教授)が取りまとめた報告書を公表した。

 同研究会は今年2月13日に初会合を開催、その後、月に1回程度の検討をかさね、夏ころを目途に検討結果を取りまとめるものとして設置された民法・商法・民事手続法・経済学の学識経験者のみ総勢10名による研究会。消費者被害実態の類型的整理、実効性・合理性を持った法規範の在り方など法制的・法技術的な観点からの審議が要請され、主に次の4点が検討事項とされた。A)消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して、事業者が消費者を勧誘し(いわゆる「つけ込み型」勧誘)契約を締結させた場合における取消権、B)法9条1号における「平均的な損害の額」を法律上推定する規定等、消費者の立証負担の軽減策、C)消費者契約における約款等の契約条項の事前開示の在り方および法3条1項2号に規定する事業者の情報提供における考慮要素、D)その他、消費者取引の多様化に応じた法の規律の在り方。

 上記A〜Cは、平成30年改正案の審議の際に衆参両院の「消費者問題に関する特別委員会」の附帯決議等において早急に必要な措置を講ずべきとされた項目で、今般の研究会では消費者団体・弁護士会・経済団体等の関係団体や心理学・訴訟実務の専門家からのヒアリングも行い「多角的な観点から検討を行った」としている。オブザーバーとして国民生活センター・法務省・最高裁判所も参画した。

 消費者庁では8月27日、同研究会の第8回会合(8月26日開催)における会議資料として「報告書(案)」を初めて公表。報告書作成に向けた検討が開始された。続いて開かれた第9回会合(9月2日開催、翌3日資料公表)で最終的な取りまとめの審議が行われた。

 成案として公表された「消費者契約法改正に向けた専門技術的側面の研究会報告書」では、まず「消費者契約法に期待される役割」を「Ⅱ.総論的事項(消費者契約法が果たすべき役割を踏まえた指針)」として整理。ここでは a)消費者契約法の在り方の検討では「消費者問題の特性や他の消費者保護に関わる法律の規律手法、消費者契約法そのものの位置付けの変化等を踏まえつつ、多様なアプローチの可能性を排除せず検討を進めていくことが重要」としたうえで、b)消費者契約法が裁判規範であると同時に裁判外での紛争解決規範でもあって消費生活相談現場での使いやすさという観点も考慮に入れていくことが望ましいなどの点から「一般性と具体性のバランスを適切に保つ規律について検討を行っていく必要」について言及している。

 報告書中の「Ⅲ.各論的事項」としては、上記A〜Cの検討事項を順に「第1 いわゆる『つけ込み型』勧誘について」「第2 『平均的な損害の額』(法第9条第1号)の立証負担の軽減について」「第3 契約条項の事前開示及び消費者に対する情報提供について」と構成。それぞれ検討の背景、被害実態等を検証しつつ「考えられる規律」を提示するかたちとなっている。

 たとえば、上記「第1」について「考えられる規律」をみると、「いわゆる『つけ込み型』勧誘による消費者被害が多様化する中で、要件の明確性を確保しながら、できる限り汎用性を有する規定を設けるためには、消費者被害の実情に応じてアプローチをより多様化する必要がある」と指摘。「規律の方向性」を「ア.消費者の判断力に着目した規定」「イ.『浅慮』、『幻惑』という心理状態に着目した規定」「ウ.困惑類型の包括的規定」の3つの視点から類型化した(択一的なものではなく、重畳的に採用しうる)。

 上記「ア」に絡んでは平成30年改正において「加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していること」を要件とする取消権が定められたところ、報告書は「判断力の低下した消費者の救済をより手厚くするため、①判断力の著しく低下した消費者が、②不当な内容の契約を締結した場合には、消費者の取消権を定めることが考えられる」とし、さらに「契約内容そのものだけに着目するのではなく、契約締結に至る過程における手続的要素を加味して規律するというアプローチが考えられる」とする観点から、ア)「消費者の生計に著しい支障を生じさせる契約」について消費者に取消権を付与しつつ、イ)「親族等の適当な第三者が契約の締結に同席する」などの一定の関与をした場合には、これを考慮して取消しの可否が決まるような規律を設けることを提言(もっとも、上記イの要件に係る条文化の要否・程度については更に具体的に検討すべきとする)。併せて、より行為の悪性が高いものを対象にするという観点から、上記①・②の要件に加えて「事業者が消費者の判断力の低下を知りながら勧誘をした」という事業者の主観的要件を定めることも提示した。

 つけ込み型勧誘に関しては「更に検討が必要な事項」とし、ⅰ)事業者の努力義務(法3条1項)をより充実させるとともに、取消権の規定と併せて、消費者・消費生活相談員・事業者に対してその趣旨・内容を周知すること、ⅱ)消費者契約法の在り方を競争法・行政法・刑事法といった他の法分野との関連性を踏まえて検討する必要があるという指摘を踏まえ、消費者契約法の改正のみならず、行政規制や刑事罰を設けることによる対応も併せて考える必要があること――を掲げた。

 終章となる「Ⅳ.おわりに」では、「デジタル化の進展により、非対面型の取引が増加しつつある」ことのほか「AIの活用により、自動処理の対象となっているものの、事業者が消費者の属性や行動を知っているとはいい難いものも出現してきている」ことに触れながら「判例による法形成と法改正によるその定着といった、消費者契約法が想定するサイクルそのものの有効性についても注視していく必要」を指摘。中長期的には「法の規律だけに頼るのではなく、行政規制とのすみ分けや自主ルールとの協働等によりファインチューニングが可能となるような規律の在り方」を視野に入れていくことが望ましいと結んでいる。

 

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