SH2826 企業法務フロンティア「関西電力事件に見るガバナンス上の問題点」 松山 遙(2019/10/15)

組織法務経営・コーポレートガバナンス

企業法務フロンティア
関西電力事件に見るガバナンス上の問題点

日比谷パーク法律事務所

弁護士 松 山   遙

 

 関西電力の幹部役員が福井県高浜町の元助役(故人)から高額の金品を受領していた問題が、世の中を騒がせている。関西電力が2019年9月27日に行った最初の記者会見では、金品を受領した役員の氏名や金額等の詳細は公表されなかったが、世論の批判の高まりを受けて、10月2日に再び記者会見が行われ、2018年9月にまとめられた社内調査の報告書[1](以下「本件報告書」という。)が開示された上、外部の弁護士等で構成される第三者委員会を設置して詳細を再調査することが公表された。その後も批判は止まらず、関西電力は、10月9日、同日付で会長が辞任し、第三者委員会の調査が完了した時点で社長も辞任する旨を公表するに至っている。

 関西電力の説明によれば、金品受領の事実は「不適切ではあるが、違法ではない」ため、報告書が取りまとめられてから1年以上の間、公表してこなかったということである。

 今回の金品受領の実態が「不適切ではあるが、違法ではない」レベルのものだったのかどうかについては、今後の第三者委員会による検証等をふまえて判断されるべきであり、現時点でのコメントは差し控えたい。

 しかし、違法ではないにせよ不適切な事実が確認されていた以上、その事実を対外公表しないばかりか、取締役会にも報告しなかったという関西電力の事後対応については、ガバナンスの観点から重大な問題があると言わざるを得ない。

 以下では、関西電力の一連の事後対応について、会社法及びコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)に照らして何が問題だったのかを検証してみたい。

 

1 社内調査の実施・社内処分の決定について取締役会が関与していないこと

 マスコミ報道においても、本件に関する調査の実施及び結果について取締役会に報告されておらず、社内処分についても社長が決定していたことについて、ガバナンスの観点から重大な問題であるとの批判がされている。

 報道[2]によれば、関西電力では社内処分の決裁は社長が行うことになっていたため、取締役会に諮らず社長ら一部の経営陣の間で協議して決定したということである。

 しかし、自ら金品を受領していた調査対象者である社長が、(自分自身を含めた)関係役員の処分を決定したことは、「お手盛り」以外の何物でもない。関西電力は、社内処分の決定プロセスの見直しについて示唆しているが、これは当然であろう。

 さらに本件では、社内処分の決定プロセスにとどまらず、調査委員会の設置プロセスなど事案解明のための調査体制・方法を決定する段階から、経営トップから独立した立場の社外取締役を関与させるべきであったと考えられる。なぜなら、本件は調査対象者に経営トップも含まれている事案であり、会社と経営陣の間に明らかな利益相反関係が認められるからである。

 本件報告書によれば、関西電力では、コンプライアンス委員会の社外委員でもある3名の弁護士と社内委員3名(人事担当役員、コンプライアンス担当役員、経営企画担当役員)により構成される調査委員会を設置している。調査対象者を委員会メンバーから外し、外部弁護士3名も参加しているため、一見するとそれなりの独立性が担保されているように見えるが、問題なのは、社内のどこの機関が調査委員会の設置を決定したのか、調査委員会は誰に対して報告書を提出するべきなのかという点が極めて曖昧な建て付けになっていることである。

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