◇SH1987◇債権法改正後の民法の未来40 暴利行為(2) 山本健司(2018/07/24)

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債権法改正後の民法の未来 40
暴利行為(2)

清和法律事務所

弁護士 山 本 健 司

 

Ⅲ 議論の経過

1 経過一覧

 暴利行為の論点に関する議論の経過は、下記一覧表のとおりである。

会議 開催日等 資料
第10回 H22.6.8 部会資料12
第22回 H23.1.25 部会資料22
中間論点整理 H23.4.12決定 民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理
第30回 H23.7.26 部会資料27
第64回 H24.12.4 部会資料53
第70回 H25.2.19 部会資料58
中間試案 H25.2.26 民法(債権関係)の改正に関する中間試案
第82回 H26.1.14 部会資料73B
第88回 H26.5.20 部会資料78B
第92回 H26.6.24 部会資料80B

 

2 議論の概要

(1) 第1ステージ

 暴利行為の論点について、第1ステージでは、第10回会議(H22.6.8)において、部会資料12の下記のような論点設定のもとに議論がなされた。[1]

【 部会資料12 】
  第1 法律行為に関する通則
   2 法律行為の効力

  1. ⑵ 公序良俗違反の具体化(暴利行為の明文化)
  2.    民法第90条は,法律行為の効力を是認すべきでない場合に適用される一般条項として,様々な場面で活用されてきたが,一般条項の適用の安定性や予測可能性を高める観点から,いわゆる暴利行為(伝統的には,他人の窮迫,軽率又は無経験に乗じて,過大な利益を獲得する行為)について,これまでの判例や学説の到達点を踏まえ,公序良俗違反の具体化として明文規定を設けるべきであるという考え方がある。
  3.    このような考え方について,どのように考えるか。

 第10回会議の議論では、研究者委員や弁護士委員などから「債権法改正の基本方針」が提言するような現代的暴利行為論に基づいた立法化に賛成する意見が述べられた。また、消費者委員からは、公序良俗は抽象的な条文で規定内容が明確でないのでトラブル解決の場面では使えないという観点から立法化への賛成意見が述べられた。また、中小企業の委員からは、大企業から交渉力格差を背景とした不当な減額や支払遅延などの問題事例があるとして、立法化への賛成意見が述べられた。

 一方、事業者委員や関係官庁の関係官からは、明文化で例外が原則化しないか、契約時の相手方の状態確認等でコストが増加しないか、取引の迅速性が阻害されたり自由な経済活動が萎縮しないか、DIPファイナンスのような経済的な窮状にある取引相手との高利率の取引など企業間取引への悪影響がないかといった点への危惧を理由に、明文化に慎重な意見も述べられた。

(2) 中間論点整理

 第1ステージ終了時にとりまとめられた「中間論点整理」では、暴利行為の論点について下記のようにとりまとめられている。[2]    

【中間論点整理】
  第28 法律行為に関する通則
   1 法律行為の効力

  1. ⑵ 公序良俗違反の具体化
  2.    公序良俗違反の一類型として暴利行為に関する判例・学説が蓄積されていることを踏まえ、一般条項の適用の安定性や予測可能性を高める観点から、 暴利行為に関する明文の規定を設けるものとするかどうかについて、自由な経済活動を萎縮させるおそれがあるとの指摘、特定の場面についてのみ具体化することによって公序良俗の一般規定としての性格が不明確になるとの指摘などがあることに留意しつつ、更に検討してはどうか。 
  3.    暴利行為の要件は、伝統的には、①相手方の窮迫、軽率又は無経験に乗じるという主観的要素と、②著しく過当の利益を獲得するという客観的要素からなるとされてきたが、暴利行為に関するルールを明文化する場合には、主観的要素に関しては、相手方の従属状態、抑圧状態、知識の不足に乗じることを付け加えるか、客観的要素に関しては、利益の獲得だけでなく相手方の権利の不当な侵害が暴利行為に該当し得るか、また、「著しく」という要件が必要かについて、更に検討してはどうか。

 すなわち、中間論点整理では、暴利行為の論点について、①立法化に向けた議論を今後も継続すること、②立法化する際の具体的な要件については、伝統的な準則のままで立法化するか、現代的暴利行為論が提唱する要件の緩和を図るかを検討することがとりまとめられている。



[1] 第10回会議の配付資料・議事録(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900022.html

[2] 民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理の補足説明(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/000074988.pdf

 

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