◇SH3066◇契約の終了 第14回 複数契約の終了――フランス民法典における「失効 (caducité) 」の議論を中心に(上) 深川裕佳(2020/03/23)

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契約の終了
第14回 複数契約の終了――フランス民法典における
「失効 (caducité) 」の議論を中心に(上)

南山大学法務研究科教授

 深 川 裕 佳

 

Ⅰ はじめに――複数契約の終了をめぐる日本における議論

 本稿では、契約の終了の一つの場面として、三者間で二つ以上の契約が締結される場合に、一つの契約の解除・解約、無効などにより、その他の契約の終了が問題になる場面を検討する。たとえば、①売買契約やサービス提供契約(以下「売買契約等」という。)と、②これに対する与信契約(以下「個別クレジット契約」という。)が、①売主(役務提供者)であるAと買主であるB、②金銭借主であるCと貸主であるBの三者間でそれぞれ締結された場合が考えられる。

 

1 割賦販売法の適用される場合

 割賦販売法が適用される場合には、抗弁の接続(同法 30条の4、35条の3の19)として、売買契約等の撤回や解除、取消し、無効等の事由をもって、あっせん業者からの請求に対抗することができる。そうであっても、判例(最三判平成2・2・20判タ731号91頁、金判849号3頁)は、抗弁の接続(割販法旧30条の4)を創設的規定と解して、このような特別の規定のない限りは、売買契約の目的物引渡不履行を原因とする合意解除の対抗には、個別クレジット契約(個品割賦購入あっせん)において、①特別の合意があるか、そうでなくても、②信義則上、これを可能とする「特段の事情」が必要であるとした。このような判断枠組みは、その後も、個別クレジット契約(ゴルフ会員権クレジット契約)締結時には指定商品に該当しなかったために、割賦販売法旧30条の4が適用されなかった事例について、最高裁(最一判平成13・11・22金判1168号24頁、判時1811号76頁)によって採用されている。

 また、自主規制ではあるが、日本クレジット協会「個別信用購入あっせんに係る自主規制規則」は、消費者から抗弁の申出があった場合、直ちに消費者と加盟店に対する状況調査を行うものとしており、明らかに抗弁事由に該当しないと判断した場合を除き、当該購入者等に対する個別クレジット契約に基づく債務の支払いに関する請求は行わないとする(同規則62 条)。さらに、同規則は、その抗弁事由が解消されるまでの間、あっせん業者からの請求を再開しないようにする旨を規定する(同規則63 条)。

 ここまでに述べた場面とは異なって、個別クレジット契約が解除や取消し、無効等になった場合には、割賦販売法において、平成20年の改正によって設けられたつぎのような規定が問題になる。すなわち、①個別クレジット契約について、申込みの撤回及び解除(以下「クーリング・オフ」という。)がなされたときは、個別信用購入あっせん関係販売業者又は個別信用購入あっせん関係役務提供事業者(以下「販売業者等」という。)は、個別クレジットの「申込者等」(以下「消費者」という。)との間で締結された「現に効力を有する」売買契約等もクーリング・オフされたものとみなされ(特商法の取引形態のうち、訪問販売及び電話勧誘販売について割販法35条の3の10、並びに、連鎖販売取引、特定継続的役務提供及び業務提供誘引販売取引について同法35条の3の11)、また、②通常必要とされる分量を著しく超える商品の販売契約等(過量販売、特商法9条の2第1項)に対する個別クレジット契約は、1年以内であれば、申込みの撤回又は解除することができるし(同法 35条の3の12)、販売業者等の勧誘によって個別クレジット契約を締結した場合に、この勧誘においてクレジット契約の内容や売買契約等に関する重要事項等について不実告知・事実の不告知があって消費者の誤認を惹起したときには、消費者は、売買契約等とともに個別クレジット契約の申込み・承諾の意思表示もあわせて取り消すことができる(同法 35条の3の13から35条の3の16)。なお、前者①においては、個別クレジット契約のクーリング・オフによって、特商法5類型にあたる売買契約等についても、当然にクーリング・オフされるのに対して、後者②においては、個別クレジット契約と売買契約等の申込みの撤回・解除や取消し等を別々にしなければならないという違いは、「クーリング・オフという民法の原則が妥当しない特殊な制度下における特別の法制であり、取消し規定の効果をこれと同様に論ずることはできない」ことから、「与信契約の取消しによって取り消されるのは与信契約のみであり、販売契約も取り消されるような法制とはしていない」[1]と説明される。

 このようにして、売買契約等と個別クレジット契約が締結された場合を例にとってみても、一つの契約の申込みの撤回や解除、取消し、無効等の事由が生じた場合に、他の契約にどのような影響があるのかということは、場面ごとに異なっている。しかし、このような場当たり的な解決策は、統一的な理論的説明を不可能にしているだけでなく、消費者にとっても、専門家にとっても、全体像が分かりづらいものとなっているように思われる。クーリング・オフという特別の法制度についてのみ、割賦販売法は、個別クレジット契約と売買契約等のクーリング・オフを連動させるものの、それ以外の領域においては、一方の契約の撤回や解除、取消し、無効等が生じた場合に、他の契約の効力に影響することは認められないのであろうか。

 

2 複数契約の解除に関する規定の立法化の動き

 最三判平成8・11・12民集50巻10号2673頁(以下「平成8年判決」という。)は、本稿の問題とする複数当事者間ではなく同一当事者間に関するものではあるが、異なる二つの契約が締結された場面(いわゆるリゾートマンションの売買契約と同時にスポーツクラブ会員権契約が締結された場合)において、「同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった2個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解する」と判示する。この判決を契機として[2]、学説では、複合契約(ハイブリッド契約)・結合契約・関連契約に関する活発な議論がなされている[3]。同判決の最高裁判所判例解説は、複数当事者間で契約が締結された場合にどのように考えるべきかは、さらに困難な問題であり、残された課題であると指摘していた[4]。また、同判決によって、前掲・最三判平成2・2・20も再検討を迫られることになるかもしれないとの指摘もなされていた[5]

 民法(債権関係)改正に向けて、前掲・最三判平成8・11・12を条文化して、「同一当事者間で結ばれた複数の契約の間に密接な関連性がある場合において、一の契約に解除原因があり、これによって複数の契約を締結した目的が全体として達成できなくなったとき、当事者は、……当該複数の契約全部を解除することができる」との改正案も提案されていた[6]。そして、同改正の中間試案においても、次のような案が示されていた。

  1.   民法(債権関係)の改正に関する中間試案第11の2 同一の当事者間で締結された複数の契約につき、それらの契約の内容が相互に密接に関連付けられている場合において、そのうち一の契約に債務不履行による解除の原因があり、これによって複数の契約をした目的が全体として達成できないときは、相手方は、当該複数の契約の全てを解除することができるものとする。

 結局、この立法化は見送られた[7]。その理由は、要綱案のたたき台の作成に向けて、パブコメに寄せられた意見の中には、①実務において契約を複数に分けていながら効力を連動させようとする場合には、契約中にその旨を明示するのが通例であって、不明確な要件の下で関連契約全部の解除が認められるのは妥当でない旨の指摘、②平成8年判決は、極めて一体性の高い複数の契約が問題になった特殊な事例であり、この判決の後に同様の法理が妥当するとされた事例の集積が重ねられている状況にはなく、現時点で条文として一般化することが相当であるのか疑問がある旨の指摘、③一つの契約の解除の効果を他の契約に及ぼすかどうかは、契約締結の趣旨や代替品の調達可能性など様々な考慮要素を総合的に判断する必要があるが、様々な考慮要素を適切に要件化することは困難である旨の指摘、④債権譲渡の譲受人が債権を譲り受ける際、当該債権の発生原因である契約と関連する契約の有無及び関連する契約全ての解除原因などを確認する作業が必要となってしまう旨の指摘があったことなどを踏まえ、「この論点は取り上げないこととし、引き続き解釈に委ねる」こととされたのである[8]

 

3 本稿の検討対象

 ここまでに述べた状況にあって、本稿において検討する複数契約の終了が問題となる場面については、さらなる検討が必要になっているものと考えられる。そこで、本稿ではこの問題を検討するために、近年、改正(2016年2月10日のオルドナンスn° 2016-131及び2018年4月20日の承認法n° 2018-287。以下「2016年フランス債務法改正」という。)によって、「相互依存的契約 (contrats interdépendants)」(または「不可分契約」(contrats indivisibles) )の「失効 (caducité) 」に関する一般規定(フ民1186条、1187条)を設けたフランス民法典を中心に紹介をして示唆を得ることにする[9]。近年のフランスの学説には、フランス民法典1186条は、後述に紹介するように、ファイナンス・リース (location financière) およびリース (crédit-bail) 取引を念頭に考えられたものであるにしても、「他の契約の集合 (ensemble contractuel) に適用される場合においても、同様に高く評価されるべきである」[10]と、その意義を指摘するものがある。

(下)につづく

 


[1] 経済産業省商務情報政策局取引信用課編『平成20年版割賦販売法の解説』(日本クレジット協会、2009)224頁。

[2] これ以前には、ほとんど論じられてこなかったことについて近藤崇晴「判解(最判平成8年11月12日)」最判解民事篇平成8年度(下)961頁を参照。

[3] 近年の研究として、都筑満雄「複合契約論のこれまでと今後」椿寿夫編著『三角・多角取引と民法法理の深化〔別冊NBL161号〕』(商事法務、2016)68~77頁、伊藤進「私法規律の構造4――改正契約債権法の基本的規律構造(3)――」法律論叢90巻1号(2017)1~42頁(特に14頁)、寺川永「ドイツにおける複合契約の新たなる展開――結合契約・関連契約における撤回の貫徹」関西大学法学研究所欧州私法研究班『欧州私法の新たなる潮流Ⅱ』(関西大学法学研究所、2018)91~116頁などがある。これまでの議論についてはこれらの論考に挙げられた文献を参照。

[4] 近藤・前掲注[2]965頁。

[5] 大村敦志「判批」平成8年度重判解(ジュリ臨増1113号)(有斐閣、1997)70頁。

[6] 民法(債権法)改正検討委員会編『詳解・債権法改正の基本方針Ⅱ ―契約および債権一般(1)』(商事法務、2009)319~325頁。

[7] 稲田和也=髙井章光「民法(債権関係)改正『見送り』事項に関する実務的検討(上)――契約条項見直しを中心に」NBL1107号(2017)17~22頁、潮見佳男『新債権総論I(法律学の森)』(信山社、2017)575~576頁。

[8] 民法(債権関係)部会資料68A・43~44頁。

[9] 改正前の議論について検討したものとして、上井長十「フランス法における『契約の失効』について」明治大学法学研究論集15号(2001)97~114頁がある。

[10] Sarah BROS, «Interdépendance contractuelle, la Cour de cassation et la réforme du droit des contrats», D. n° 7670, 2016, p. 31.

 

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